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航空・宇宙―宇宙産業・防衛「新章」突入
航空、コロナ乗り越え需要回復
航空機産業が大きな転機を迎えている。重工業大手3社は民間機向けでは国際共同開発エンジン「PW1100G―JM」の不具合問題に直面した。ただ、コロナ禍後の航空需要回復により、長期的には機体・エンジンともに成長を見込む。防衛向けは政府の防衛予算増により拡大期に入る。一方、宇宙産業は大型基幹ロケット「H3」試験機2号機の打ち上げに成功し、新たな段階に入る。
長期的に拡大見込む
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航空機エンジンはスペアパーツ販売拡大が見込める(三菱重工航空エンジンの修理・整備工場)
PW1100G―JMを搭載する欧エアバス製小型機「A320neo」は短距離路線で運航される人気機種だ。不具合により約3000台の追加検査が必要になり、搭載機は2024―26年に平均350機の地上駐機が見込まれる。
3社は不具合に関与していないが、契約により参画シェアに応じた補償費用を分担し、24年3月期に一括計上した。約15%と3社で最も高いIHIは1600億円の損失を計上。当期損益は900億円の赤字を見込むなど大きな影響が出た。
ただ、コロナ禍後の経済再開により、航空需要は回復を続けている。米ボーイングの中型機「787」などの機体分担製造、エンジンともに長期的には拡大が見込める。特に787は日本企業の参画比率が計約35%と高く、影響は大きい。
ボーイングは品質問題により787の納入を停止していたが22年8月に再開した。ただ、納入待ち機体があるため生産レートの回復が遅れていた。しかし、三菱重工業、川崎重工業ともに24年3月期の生産台数は4―12月期時点で前期を超えた。来期以降の拡大も期待できる。
エンジンもPW1100G―JM問題はあるが、他のエンジンは運航増加によりスペアパーツ販売拡大が期待できる。民間機向けは時に品質トラブルがあるが、全体としては成長分野と言える。
次期戦闘機開発など予算大幅増
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日英伊共同開発の次期戦闘機(防衛省によるイメージ)
一方、防衛向けは政府が国防強化のため防衛予算を大幅に増やすことを背景に受注が伸びている。三菱重工、川崎重工が23年11―12月、防衛事業の売上高を大幅に伸ばす長期計画を公表し、強気の姿勢が鮮明になった。
三菱重工は23年11月、宇宙を含む防衛事業売上高を27年3月期までに現状の2倍の1兆円規模に拡大する計画を公表した。防衛・宇宙セグメントの売上高はここ10年、5000億円弱で推移し、23年3月期は4749億円だった。
川重は23年12月、31年3月期に防衛事業の売上高5000億―7000億円を目指す目標を示した。23年3月期の約2400億円から大幅に伸ばす。事業利益率は25年3月期に5%以上に高め、28年3月期をめどに10%以上を実現する。
政府は22年12月策定の27年度までの5カ年の防衛力整備計画で、防衛力整備事業費を約43兆5000億円と23年度までの前計画の2・5倍に高めた。各社には早速受注増として効果が出ており、売上高拡大の根拠となる。
三菱重工は日英伊3カ国の次期戦闘機共同開発という重要案件もある。35年引き渡しに向け、期待の集団がいる。23年2月に撤退した小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」の技術者たちだ。既に防衛事業に転籍し次期戦闘機に携わる。泉沢清次社長は「いままでにない経験や実績を積んでおり、非常に優秀だ」と評価する。
「H3」これからが勝負
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月周回有人拠点ゲートウェー(右)と補給機。H3ではこの補給機を運ぶ役割も見込まれている(JAXA提供)
日本の宇宙分野は、宇宙輸送や天体の探査技術を確立する動きが加速している。特に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した新型の大型基幹ロケット「H3」試験機2号機が打ち上げに成功し、日本の新たな宇宙輸送手段の獲得につながった。JAXAの岡田匡史H3プロジェクトマネージャは「H3はこれからが勝負。今後は技術を育てていくことが重要」と強調する。
H3の特徴はユーザーが載せる人工衛星によってロケット自体をカスタマイズできる点だ。衛星の重量や投入軌道などの条件から、補助ロケットやメーンエンジンの数、衛星を搭載する先端部分のフェアリングの大きさなどを顧客に合わせて作れるのが特徴。
中でもフェアリングを大きなサイズにすることで大型衛星を2機搭載できたり、補助ロケットの数を増やし国際宇宙ステーション(ISS)や月周回有人拠点「ゲートウェー」への物資輸送への利用も期待される。三菱重工業の江口雅之防衛・宇宙セグメント長は「今後はコストダウンを進め、H3の10―15号機にも競争力を高めたい考え。ロケット関連の売り上げを2―3割増やしたい」と意気込む。振動の少なさや低コスト化、カスタマイズできる柔軟性を生かして国際競争に乗り出す。
従来機「H2A」よりも大型の基幹ロケットH3を日本が所有して、技術を確立できたことは国際協力・競争の強化にもつながる。大阪産業大学の田原弘一教授は「大型のロケットを持つことは技術力を示す指標となっており、国際的な場所で存在感を示せる」と説明。H3は将来的に米国主導の国際月探査計画「アルテミス計画」への活用も見込んでおり、日本の月面開発への貢献も大きくなる。H3を中心として日本の宇宙開発が加速するとみられる。
月面開発へ高精度着陸に成功
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月面着陸に成功したスリム(JAXAやタカラトミー、ソニーグループ、同志社大学提供 )
世界の宇宙関連のトレンドを見ると「月面開発」がキーワードになっている。日本でも月探査に向けた研究開発が進む中で、JAXAと三菱電機が開発した小型の月着陸実証機「SLIM(スリム)」が世界で5番目となる月面着陸に成功した。メーンエンジンが1機故障したにもかかわらず目的地から誤差55メートルという高精度で着陸する「ピンポイント着陸」を実証。JAXAの坂井真一郎スリムプロジェクトマネージャは「トラブルがなければ誤差5メートル以内での着陸ができた」と悔しさを見せた。一般的に月面に精度良く降り立つことは難しく、他国の探査機は目的地よりも数キロメートルレベルで離れたところに着陸することが多い。繊細な日本人らしさが宇宙開発にも生かされ、世界から称賛の声が上がった。
こうした技術開発には企業との協力が重要となる。政府はJAXA法を改正し、同機構が企業や大学に資金を供給するための10年間の「宇宙戦略基金」を設置する。海外の宇宙関連の研究機関と同様にJAXAが資金供給できるようになることで、宇宙分野の民間進出も加速したい考え。月面開発や低軌道の活用に興味を持つ企業が多く、中にはこれまで宇宙分野に進出していない「非宇宙企業」も見られる。多くの企業のノウハウが宇宙で活用されることで日本にしかない独自の技術開発が進み、国際競争力の強化にもつながると期待される。