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業界展望
建設機械―脱炭素・GX対応 多彩なアプローチ
脱炭素やグリーン・トランスフォーメーション(GX)への対応を迫られる中、建設機械メーカーは鉱山機械やダンプトラック、ショベルなど各ジャンルで電動化をはじめとした研究開発を加速している。電動化のみならず、ハイブリッドショベルや有線(トロリー)ショベル、水素燃料電池などアプローチはさまざまだ。本命技術を絞りにくいが、各社とも急ピッチで対応準備を進めている。
電動・水素 課題解決へ
コマツは小山工場(栃木県小山市)に約30億円を投資して水素燃料電池や水素エンジンの研究体制を整備。電動化では1トン未満の電動マイクロショベルや3トン級の電動ミニショベル、20トンの電動ショベルを開発済みだ。電動ショベルも水素燃料電池ショベルも稼働時に排ガスを排出しないが、充電設備や水素供給設備といったインフラ面での課題は残る。電動ショベルの場合、充電時間が長く、作業途中でパワーが足りなくなった際に、直ちに補充ができないネックがある。コマツはこの問題の解決のため、ホンダと共同開発したカセット式可搬パックを採用した。作業途中に電池パワーが不足してきたら現場で新しい電池パックに取り替え、作業を継続できる。
日立建機は23年10月に、オランダ企業のアルフェンと協業契約を結んだ。アルフェンは欧州の建設現場向け可搬式充電設備で実績が豊富で、フル充電した場合は13トンショベルの作業2回分の充電が可能という。欧州地域で同設備を販売・レンタルするほか、欧州以外の地域の展開もにらむ。また、九州電力と建設現場の電力供給ソリューションで協業の覚書も締結した。九州電力の産業機械向けリチウムイオン電池(LiB)パックを使用した建設現場向け可搬式充電設備の協働開発を本格化する。
鉱山分野 成長有望
建設機械は近隣に充電設備や仮設電源がない場所で使われることが多く、作業が終わると別の建設現場に移動するため、大がかりな充電設備をその都度、設置することは非効率だ。この点が乗用車やトラック、バスと異なる。水素エンジンや水素燃料電池も同様だ。
ただし、この充電インフラの課題は、超大型ショベルやダンプトラックが多数稼働する鉱山現場には当てはまらない。大手鉱山会社が積極的にこのインフラに投資をしており、有線を用いた電力供給も一般的。鉱山ショベルもダンプも、毎日決まった場所を走行するため、移動のネックも小さい。コマツ、日立建機ともに、鉱山機械分野は成長有望とみる。コマツは無人ダンプトラックを05年にチリ鉱山に世界初導入したのに続き、北米や中南米、豪州で導入を推進。米エンジン大手のカミンズと、鉱山ダンプ向け水素燃料電池の開発も進めている。鉱山ダンプはショベルと比べて鉱山現場での稼働台数が多く、GX対応が出来れば二酸化炭素(CO2)削減効果も大きい。リオティント、BHP、コデルコ、ボリデンの世界鉱山大手4社と「コマツGHGアライアンス」も21年8月に発足させており、鉱山オペレーションのゼロエミッション実現を目指し、共同実験を進めている。
日立建機もスイスABBと協働開発した架線充電式のフル電動ダンプトラックの実証実験を、24年半ばにザンビアの銅・金鉱山で始める計画だ。電力をパンタグラフで架線から取り込み、蓄電池に充電。下り坂の走行時はブレーキの回生エネルギーで充電するなどで電気コストの削減につなげる。これとは別に豪州クイーンズランド州ブリスベンで鉱山ダンプトラック自律走行システム(AHS)のリモートサポートセンターを4月から運用し、24時間365日の遠隔監視体制も整える。
各社ラインアップ拡充
電動ショベルや水素燃料電池ショベル開発などGXへの取り組みは、他の建設機械メーカーも加速させている。コベルコ建機は水素燃料電池ショベルの試作車を開発、広島市佐伯区の五日市工場で稼働評価試験を始めた。25年に欧州市場向けに電動ミニショベルと小型重機ショベル、国内市場向けに電動式クローラークレーンを投入予定だ。住友建機も電動ショベルの開発を進めている。電動建機が市場として育つにはまだ期間があるが、開発結果次第では業界内や世界での地位も変動しかねないだけに、各社しのぎを削っている。
クレーン大手のタダノも23年12月に世界初となるフル電動ラフテレーンクレーン「EVOLT eGR―250N」を発売し、24年は北米での販売、続いて欧州や豪州市場でも販売を目指す計画。このほか、EVトラック利用高所作業車、ハイブリッド製品なども品ぞろえを強化し、脱炭素製品のラインアップ拡充を図る方針だ。