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業界展望
建設・セメント―自動・省人・脱炭素化急ぐ
防災・減災対策やインフラの維持・修復の観点で、建設とセメント業界に対する注目度が一段と高まっている。こうした中、建設業界は自動化・省人化を通じた生産性の向上やデジタル変革(DX)技術の活用などによる業務効率化を推し進めている。一方、セメント業界ではカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向けた取り組みが活発化しており、脱炭素化技術の早期の社会実装が期待されている。
工期短縮 実証
鹿島は道路橋床版取替工事を高速化できる「スマート床版更新(SDR)システム」で、既設床版の撤去から新設床版の架設までの工期を最大85%短縮できることを実証した。関越自動車道阿能川橋床版取替工事と広島自動車道奥畑川橋床版取替工事に同システムを適用している。
大型クレーンによる標準的な施工方法では、1日(7時間)当たり3枚の床版取替が一般的。一方、同システムを適用した関越自動車道阿能川橋では同12枚、広島自動車道奥畑川橋では同22枚の床版を架設でき、大幅な工期短縮を実証した。
大林組は鉄骨の火災損傷を防ぐための耐火被覆作業に使う耐火被覆吹き付けロボットで、小型・軽量化とともに自律移動機能を向上させた新型機を開発した。2023年11月から都内の建設現場で適用している。
自律移動機能では、位置決め時の測量で利用されている後方交会法を採用し、より正確な移動を実現した。また既存の耐火被覆吹き付けロボットと同様の作業性能を保ちつつ、横幅は従来機比500ミリメートル縮小、重量は同500キログラム軽量化しており、仮設エレベーターを用いた運搬作業などを円滑化できる。
ロボ・VR・AIなど駆使
清水建設は人の腕と同等の動きができるロボットアーム型の3次元(3D)プリンターを利用し、有筋構造部材を自動造形する技術を開発した。ロボットアーム先端のノズルからプリント材料を斜め下方に噴射。鉄筋内部への充填が完了した後、表層全体に配合の異なる表層用プリント材料を重ねて吹き付ける。表面仕上げや出来形計測までロボットアームが担う。
実用化できれば施工の省人化・省力化につながる。鉄筋コンクリート構造物の施工に利用する木製型枠の使用量が減り、環境負荷の低減効果も見込める。
大成建設は災害発生時の施設内の状況をリアルに再現した3次元(3D)仮想空間内で、複数人が会話しながら避難行動などを体験できるメタバースシステム「T―Meta JINRYU」を開発した。火災時の炎や煙の拡散、群集の動きなどのシミュレーション結果に基づく最適な避難計画、効果的な災害対策の検証に役立つ。
仮想現実(VR)デバイスを介して臨場感のあるメタバース空間を可視化し、災害時の人流などが再現された状況を仮想体験する。平時の人流を考慮した施設計画の検討などでも活用が見込める。
竹中工務店は人の行動を現実に近い形で再現し、目的や状況に応じたさまざまなパターンの模擬実験ができる「人流シミュレーションシステム」を開発した。面白い展示物の前で立ち止まったり、疲れた時に休憩するといった人の自然な行動を再現・可視化できる。混雑を回避できる通路幅の設計や屋外公共空間での安全性検証など、建物や空間の計画策定で活用が見込める。
今後は人工知能(AI)学習に必要な人流データの計測・収集・分析を通じて最新の情報に更新。商業施設などさまざまな建物の計画にも役立てていく。
CO2利用してコンクリ
太平洋セメントが2050年のカーボンニュートラルに向けた技術開発を加速している。分離・回収した二酸化炭素(CO2)の利用方法の一つとして検討する「カーボフィクスセメント」では現在、普及に向けて簡易な炭酸化養生装置の開発などが進んでいる。多くのCO2排出を伴うセメント産業において、削減に向けた革新的技術をいち早く確立し、自社の競争力強化に結びつけられるかが問われている。
カーボフィクスセメントは、CO2との化学反応で硬化する点が特徴。より低温度で焼成できるため、エネルギー由来のCO2を削減できるほか、一般的なセメントと比べカルシウム原料が少なく、原料由来のCO2排出量も減らせる。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業では、プレス成型の工程を経るコンクリート製品に同セメントを適用した。水、骨材にカーボフィクスセメントを投入して練り混ぜ、成型後のブロックに、炭酸化養生設備を用いてCO2を吸収させる。
ポルトランドセメント1トンあたりのCO2排出量は789キログラムなのに対し、カーボフィクスセメントでは約400―500キログラムのCO2削減効果を発揮した。このうち、50%以上が硬化過程でのCO2固定によるもの。同セメントで製造した製品の強度など、性能についても問題がないことを確認している。
一方、実用化に向けては汎用性の高い用途への展開が重要だ。従来はコンクリート製品に同セメントを適用してきたが、足元では「流し込みコンクリートの製造方法もめどがついた」(太平洋セメント中央研究所の江里口玲セメント・コンクリート研究部部長)。
もう一つの課題は製造設備だ。当初は大型炭酸化養生設備を用いていたが、費用が高額で移設も困難なため、導入時の負担にもなりかねない。そこで太平洋セメントは、持ち運びやコストの低減も可能な養生設備を開発。実際に製品工場での実証試験も行っている。
今後、カーボフィクスセメントを用いて製造した製品を実際の工事にも使用してもらい、問題なく使えることが分かれば、事業展開について検討に入る。同社カーボンニュートラル戦略に沿った技術開発ロードマップで掲げる通り、30年以前の市場投入を目指す。
製造や原料由来のCO2排出量が多いセメント業界で、カーボンニュートラルの実現は持続成長のカギ。カーボフィクスセメントなど脱炭素化技術の早期実装が期待される。