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業界展望
電子部品―高付加価値製品で成長に挑む
スマートフォン市場の減速や電気自動車(EV)の販売環境悪化などで需要のけん引役が見えにくい電子部品業界。各社は高付加価値製品の投入で成長を図ろうとしている。TDKはスマホの薄型化などにつながるリチウム電池の新製品を投入、シェア拡大でスマホ市場の成長鈍化の影響を打ち消し、収益性向上につなげた。京セラは航空宇宙関連で需要が広がるノイズの少ない水晶部品に力を入れる。
スマホ用 新技術で拡大
スマートフォンなど最終製品の需要回復の遅れを背景に2023年度は電子部品メーカーの多くで業績が伸び悩んだ。大手各社が23年4―12月連結決算発表と同時に24年3月通期予想の下方修正を明らかにする中、利益を上方修正したのがTDKだ。けん引役の一つが23年前半に出荷を始めたスマホ用小型リチウム電池の新製品。シリコン含有率の高い負極を使い、従来品よりエネルギー密度を5%程度向上させた。スマホの薄型化につながる点が評価され、中華系スマホ市場でシェアを高め、販売増につなげた。
「スマホ用小型電池は価格一辺倒の成熟市場と言われるが、新技術による付加価値の高い製品を供給出来ればシェアを伸ばせると示せた」。齋藤昇社長は同製品が新たな成長ドライバーになることに期待を示す。TDKによると今後、エネルギー密度を30―40%向上できる余地があり、25年3月期も一段のシェア拡大を目指す。
25年3月期以降に収益性向上への寄与が期待される高付加価値製品はほかにもある。例えば小型の微小電気機械システム(MEMS)マイク。従来より実装面積は小さいが、高い音圧でも音割れなく集音し、高品質の交信が可能だ。スマホやパソコン分野では内部に人工知能(AI)を組み込み、生成AI機能を使えるようにした新製品が今後登場するとされ、MEMSマイクも搭載増が見込める。
TDKは近年、フリーキャッシュフロー(FCF)の創出力を高める施策を進めてきた。電動バイクなどに使う中型電池の事業は合弁会社に移管。電池本体(セル)関連の投資負担を軽減しつつ、販売増の果実を得られる体制を構築した。今後、高付加価値製品の出荷が本格化すればFCF創出力は更に高まる。野村証券の秋月学アナリストは1月、TDKの株主資本コストを従来の6・7%から業界平均水準の6%に引き下げた。ROEを上げることが出来れば、株価もプレミアム付与の局面に移行できる可能性が高まりそうだ。
宇宙開発でも機能安定
京セラは中長期的なエレクトロニクス市場の成長をにらみ、電子部品事業の強化に取り組んでいる。携帯通信端末向けで世界シェア首位製品を持つタイミングデバイス分野は、製品ラインアップを拡充中。米国では新工場を建設し、2025年にも過酷な環境でも安定的に機能するハイエンド水晶発振器の量産を始める。電子機器が機能する上で必要不可欠な同デバイスの製品群を拡充することで、幅広い分野から需要を取り込み、さらなる成長につなげる。
京セラが新工場で量産するのは、恒温槽付き水晶発振器(OXCO)。OXCOは恒温槽によって温度を一定に保ち、周囲温度の変化による出力周波数の変化を少なくできるのが特徴だ。谷本秀夫社長は「宇宙空間のような過酷な環境でも機能を維持できる、ハイエンドな水晶デバイス」とし、人工衛星など需要の拡大が期待される航空宇宙関連分野での需要を想定する。
水晶発振器は一定間隔で安定した周期の信号を発するタイミングデバイスの一種。電子回路が正常に機能するために必要な部品だ。
同社はクロック用発振器(SPXO)や電圧制御水晶発振器(VCXO)、温度補償型水晶発振器(TCXO)など幅広い水晶デバイスを手がけるが、OXCOは従来ラインアップになかった。
京セラは23年に米国の電子部品子会社京セラAVXコンポーネンツ(京セラAVX)を通じて、米ブライリー・テクノロジーズの人材や設備、知的財産といった資産を取得。同社の持つ低ノイズ、低消費電力技術や同デバイス製造技術などを獲得した。谷本社長は「(今後の成長を見据え)水晶デバイスのラインアップを増やしたかった」と狙いを話す。
新工場は、京セラAVXが約数十億円投じてペンシルベニア州立大学エリー校内に整備する。まずはブライリーから承継した事業規模(15億円程度)と同水準から新工場での量産を立ち上げ、その後に生産規模を順次引き上げていく方針だ。