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業界展望
進化する自動化―人とロボ深く共生 技術革新で身近に
人とロボットが深く共生する世界が間近に迫ってきた。自動化を身近な存在に変えたのが、数々の技術革新。人工知能(AI)や協働ロボットなどの出現はその一つだ。工場における適用範囲の拡大にとどまらず、医療や物流、建設業まで幅広い分野で導入への期待が高まる。少子高齢化に伴う労働人口の減少や自然災害の多発といった多くの困難に直面する今、「課題解決型技術」として注目されるロボットが果たす役割は大きい。
「未来社会」見据え
2023年11月末から東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれたロボット見本市「2023国際ロボット展」。「ロボティクスがもたらす持続可能な社会」というテーマにふさわしく現実の課題解決に資するアプリケーションから未来社会を想定したソリューションまで趣向を凝らした展示が並んだ。
ファナックは電気自動車(EV)の多様化に対応する可搬質量500キログラムの重可搬ロボットや中型ハンドリングロボットの新製品のほか、食品工場での導入を想定した食品仕様の協働ロボット「CRX」などを披露。幅8メートルを確保したブースの通路が埋まるほどの盛況ぶりで、自動化に対する市場からの注目度の高さを裏付けた。同社の山口賢治社長は「商談獲得件数は前回比約3倍となり、可能な限り受注につなげたい」と意欲を燃やす。
EV多様化・物流など課題解決
川崎重工業は物流の「2024年問題」解決に貢献するロボットや、医師の相棒として期待される手術支援ロボットなどを展示。一歩進んだ未来のロボットとして黒山の人だかりができたのが、二足歩行ヒューマノイド「カレイド」の災害現場での活用を見据えたデモンストレーション。カレイドが進行を妨げる構造物を器用に持ち上げて撤去したり、人との協力プレーで机を移動させたりする様子は未来社会のワンシーンを想起させた。
国際ロボット連盟(IFR)は24年2月に本年のロボット業界におけるトレンドを五つ発表した。具体的には「AIと機械学習」「用途が広がる協働ロボット」「移動式マニピュレーター」「デジタルツイン」「ヒューマノイドロボット」の五つだ。こうしたキーワードは自動化の敷居を下げる可能性が広く、生産技術部門を持たないような企業におけるロボットの普及にも寄与すると見られる。事実、生産性など何らかの理由で導入できなかった“ロボット未踏の地”をにらんだ製品開発なども旺盛だ。
安川電機は産業用ロボット業界で初めて自律性を備えたロボットと銘打った「MOTOMAN NEXT(モートマンネクスト)シリーズ」を23年11月に発表した。「従来のロボットは大量生産の現場では一定の貢献をしてきたが、頻繁に計画やモノの状況が変わる領域には不得手だった」(安川電機の小川昌寛社長)。一方、モートマンネクストシリーズは変化する状況に合わせてロボットが計画を立案・実行する逆転の発想が特徴。小川社長は「新たな市場や活用の場面が広がってくる」と自信を示す。
協働ロボットも進化が著しい領域だ。不二越は安全性と生産性を両立した協働ロボット「CMZ05」を投入。最高速度は非協働時で毎秒2500ミリメートルのほか、位置繰り返し精度も±0・02ミリメートルを実現した。開発担当者は「高精度化によって、従来は諦められていた組み立て用途などでも導入できる」と話す。
また、デンマークのユニバーサルロボット(UR)も可搬質量30キログラムの協働ロボットを開発した。リーチが短いなどの理由で、同程度の可搬能力を持つ競合他社のロボットより40%程度軽量。軽量という強みを生かし、無人搬送車(AGV)に搭載する際もAGVの大型化が不要で、別用途で利用する際も移設の負担が小さい。
産業用ロボットの新規導入台数の10台に1台まで比率が上がってきた協働ロボット。ただ、本格的な競争局面ではなく、肩を組んで市場を創出していくフェーズという認識も業界内では根強い。UR日本支社の山根剛代表は「他メーカーと協力したイベントなども考えられる」と明かす。
幅広いニーズ 参入相次ぐ
日本ロボット工業会の統計によると、産業用ロボット市場は受注額ベースで1兆1117億円(22年、非会員含む)にまで成長。工場自動化(FA)関連銘柄のロボットビジネスへの参入も相次ぐ。
日本精工は23年11月、ロボットハンド市場への参入を明らかにした。人の指の形状に似た基本モジュールをつかみたい加工対象物(ワーク)の形状に合わせて組み替えることで汎用性を確保する仕組み。薄いワークならば基本モジュールを二つ、球体ならば同モジュールを三つ組み合わせるといった具合だ。
市販品のロボットハンドは二極化の様相を呈する。定型品しかつかめないタイプは機能が限定されているため安いが、幅広いワークに対応できるハンドは高額という構図だ。日本精工は生産を基本モジュールに絞ることで、大量生産による低価格化を視野に入れる。加え、前述の組み合わせ方式によって、汎用性も両立。独自開発のマグネット式脱着メカニズムによって、基本モジュールのレイアウト変更も手間が生じないようにした。
THKは22年6月に「サービスロボット事業部」と「サービスロボット研究所」を新設した。近年は高性能ロボットハンドの単品発売に乗り出したほか、けん引能力を同社従来製品比2倍に高めた搬送ロボット「SIGNAS」も投入した。
SMCも市場ニーズを見極めながら、ロボット関連の製品を拡充している。国際ロボット展で披露した産業用ロボット向けのアタッチメントはその一つ。ワークをつかむ工程に課題を抱えるユーザーが多いことを受けて開発した製品で、当初想定していた食品だけでなく、工業製品や医療機器まで幅広いワーク把持で注目される。
23年は設備投資の様子見が長期化したためロボットの受注水準は一時的に低下した。ただ、大手ロボットメーカー幹部は「お客さまがずっと投資を止めることは難しい。投資マインドが再び上向いた時に乗り遅れないようにしたい」と説明。今後も使いやすさなどにこだわった製品開発は活発に続きそうだ。