-
業種・地域から探す
続きの記事
業界展望
デジタル変革(DX)―生成AI急速に普及 サービス構築急ぐ
日本の文化に合ったDX創出
IT各社が生成人工知能(AI)を活用した企業向けデジタル変革(DX)サービスの開発を本格化している。NTTやソフトバンク、リコーなどは自社開発した日本語特化型の大規模言語モデル(LLM)を活用し、日本の文化や商習慣に合ったDXサービスを生み出す。米オープンAIなど海外AI大手との連携も拡大。教育サービスの提供も本格化するなど、生成AIの急速な普及に対応したサービス体制の構築を急ぐ。
IT各社、開発を本格化
NTTは生成AIの基盤となる独自のLLM「tsuzumi(ツヅミ)」の提供を3月に控える。世界トップ級の日本語処理性能に加え、LLMの性能指標であるパラメーター数を米オープンAIの「GPT―3」の約300分の1に抑えた。事前学習済み言語モデルの外部に必要なサブモジュールを追加することで、少ない追加学習量でも業界特有の言語表現や知識を効率的に学ばせることができる特徴を持つ。
東京海上日動火災保険とは、ツヅミを用いて音声データを整理・体系化して知識化することにより、コンタクトセンター(電話対応部門)で働くオペレーターが顧客らとの通話後の年間事務稼働時間を半減する取り組みを始めた。京都大学医学部付属病院とは電子カルテに書かれた情報を二次利用可能な状態に自動変換する試験を始めている。
NTTの島田明社長はツヅミの反響について「百数十社から引き合いが来ている。このうち約50社が利用方法を明確に提示し、10社以上が採用する意向を示している」との手応えを示す。
NTTデータはツヅミと連携した生成AIを活用した文書検索・回答生成システム「LITRONジェネラティブアシスタント」の新サービスの提供を4月に始める。従来の関連文書検索機能に業務データを学習したツヅミを組み合わせて利用し、より業務に特化した日本語の回答文書を生成する。ツヅミは閉域環境で利用可能で企業の重要情報も扱える。効率的な業務運営とセキュリティーリスクの低減が見込める。
リコーもカスタマイズ(個別対応)を容易に行える日本企業向けLLMを開発し、今春にも提供を始める。米メタ・プラットフォームズの「LLM Llama2―13B」をベースに、自然言語の文章や使い方を大規模に収集して一般公開された日本語と英語のデータセット(オープンコーパス)を追加学習させて開発した。
LLMの性能指標となるパラメーター数は130億。学習に利用するデータの選定、誤記や重複の修正、学習データの順序や割合の最適化などの技術を駆使し、業種・業務に合わせた高精度なAIモデルを短期間で容易に構築できる。リコーデジタル戦略部の鈴木剛デジタル技術開発センター副所長は「業務文書の要約や質問応答の作業をAIに置き換えることで顧客企業の業務効率化を図る」と話す。
ソフトバンクは年内にパラメーター数が3500億で日本語に特化した国産LLMの構築を目指す。宮川潤一ソフトバンク社長は「計算基盤やLLMへの大規模投資は海外企業を中心に行われており、他言語のデータセットを基にした生成AI開発が先行している」と指摘。だが「当社が日本の文化やビジネスの慣習などに最適な国産LLMを開発することで、あらゆる産業への生成AIソリューションの導入をサポートする」と意気込む。
課題解決へカスタマイズ
KDDIは生成AIの社会実装に向け米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と連携した。人手不足や業務効率化といった課題を抱える企業や自治体向けにスタートアップが開発した生成AIやオープンソース(無償公開)の生成AIを活用する支援を行う。
具体的にはアイレット(東京都港区)などの傘下企業と共同でAWSのクラウド環境を活用したインフラ設計・構築や運用保守、データ活用基盤を提供する。企業・自治体とスタートアップのマッチングも行う。スタートアップの迅速な開発能力とKDDIグループのシステム構築能力を合わせ、企業・自治体の課題に対応した生成AIモデルのカスタマイズ(個別対応)を支援する。
楽天グループは米オープンAI(カリフォルニア州)の協力を受けて作成したAI基盤「楽天AI・フォー・ビジネス」を年内にも本格提供する。対話型AI「チャットGPT」を手がけるオープンAIが持つ先端技術を活用し、国内外の消費者や企業に新たなAI体験を提供する。
楽天AIフォービジネスは営業、マーケティング、カスタマー支援、戦略策定、システム開発など、さまざまな企業活動を支援する新しいプラットフォーム(基盤)。データ分析やチャート作成などを支援する「楽天AIアナリスト」、企業の担当者が効率的に高度な消費者向けサービスを提供できるようにする「楽天AIエージェント」、企業のあらゆる資料を分析し必要な情報を提供することで顧客からの質問に迅速に回答できる「楽天AIライブラリアン」などの機能を提供する。
活用促す教育も提供
生成AIの活用を促す教育サービスの提供も本格化してきた。
CTCテクノロジー(東京都港区)は、米マイクロソフトの生成AIサービス「アジュール・オープンAIサービス」を活用したアプリケーション開発を1日で学ぶエンジニア向け教育コースを提供している。生成AIを効果的に利用するスキルを身につけられる。 TISはチャットGPTなどの生成AIを活用して実践的なアイデア創出を支える「生成AI活用アイデア創出1DAYプログラム」を提供している。デザイン思考を活用して新事業の創造や業務改善を支える。
電子情報技術産業協会(JEITA)によると、生成AI市場の世界需要は2030年に23年比21・1倍の507億뗨(約7兆6000億円)に達する見通し。少子高齢化が進む中、業務効率化や技能伝承につながる生成AI活用サービスが急速に普及することになりそうだ。