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スペシャルインタビュー
日本株4万円は“道半ば”/野村ホールディングス会長 永井 浩二 氏
2024年の世界経済はまだら模様だ。米国や日本が株高に沸く一方で、中国は不動産不況による社会不安が消費を鈍らせデフレの足音が近づく。エネルギー問題が直撃する欧州も回復の兆しが見えない。主要国・地域の選挙が集中する「選挙の年」であり、内政重視の自国第一主義がはびこる可能性もある。野村ホールディングス会長の永井浩二氏に今後の景気見通しを聞いた。
―日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新しました。
「現在の株価水準は全く違和感がない。23年春の景気討論会で年末の株価を聞かれ、『年末で3万5000円、うまくいけば来年には最高値の更新もありうべし』と答えたら会場から失笑がもれた。もちろん少子高齢化や東京一極集中など構造的な課題はあるが、バリエーション上の割高感は全くない。米国大統領選挙や中国経済の行方は気になるが、日本株にとって4万円は“オン・ザ・ウェイ(道半ば)”だと思っている」
―日本経済の先行きをどう見ますか。
「この30年、日本はバランスシートの改善を最優先し、企業は内部留保を積み上げ、個人も貯蓄に走り、結局、成長投資ができなかった。ただ、ここにきてデフレが終わってインフレに変わろうとしている。人々のマインドセットが本当に変われば、成長のための投資へ動き出すはずだ。いろいろな意味で、全部が良い循環に変われる大チャンスが到来しているのは間違いない」
―約30年ぶりの物価上昇を受け、賃金と物価の好循環実現に向けて期待が高まっています。25年以降も続く構造的な賃上げは可能でしょうか。
「人々は値段が上がることをある程度受け入れ始めている。政府や企業が賃上げの機運を高め、賃上げモメンタムができてお金が回り出した。一時的な賃上げで終わることなく、来年以降も続くことを期待している」
―日本にとって大事な隣国である中国の景気減速が鮮明になっています。
「中国経済を一番心配している。コロナ禍を除いて10年以上毎年出張しているが、中国の不動産バブルが崩壊し、街角景気は明らかに悪化している。保有する不動産などが値下がりすると、やはりみんなお金を使わなくなる。日本がかつて通った道と同じで、要は逆資産効果だ。1990年前半に起こった日本のバブル崩壊を中国も勉強したはずだが、逆資産効果は簡単には止められない。また、中国経済は沿海部と内陸部でかなり状況が異なるが、4%台の成長では内陸部はマイナス成長に陥ることも懸念される」
―欧米経済の先行きはどう見ますか。米国は大統領選挙次第でしょうか。
「欧州経済はエネルギー問題を含めてネガティブな圧力が大きく、厳しい状況から当分抜け出せそうにないだろう。米国は堅調。懸念はインフレの行方だ。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長のスタンスを見ていると、景気が少し悪くなろうと、とにかくインフレの抑制を優先している印象を受ける。本来金利を急速に引き上げれば景気は悪くなるが、その影響が出てくるのはこれからだろう。マーケットは金利引き下げを期待しているものの、個人的には大幅な利下げにはならない気がする。もしトランプ前大統領が返り咲けば、中長期的にグローバルベースで取り組む政策の行方はわからなくなる。ただ、自国に有利な政策をとるので、足元の経済はそれほど悪くならないだろう」
【ポイント】
日本の株高に対する評価は分かれるところだ。期待先行で実体経済との乖離を危惧する声も一部で聞かれる。目先の期待として東京証券取引所改革による低PBR(株価純資産倍率)改善などが挙げられるが、変わる日本経済への期待もあろう。つまり成長と分配、賃金と物価の好循環が本当に実現するかが今試されている。(編集委員・鈴木岳志)
米大統領選挙 波乱要因に/コマツ社長 小川 啓之 氏
2024年、建設機械の世界需要はどのような動きを示すのか。前年は北米市場の伸びや資源価格の高止まりで比較的堅調に推移した。米中対立や国際紛争などの地政学リスクに加え、米大統領選挙を筆頭に世界各国で大型選挙が控え、様子見姿勢が強まる。経済情勢を含め、コマツの小川啓之社長に見通しを聞いた。
―世界経済と建機業界の見通しは。
「為替については日銀のゼロ金利政策解除を背景に円高を予想するが、程度は鈍いとみる。日米の金利差は大きい。北米市場は住宅関係が底を打ち、上昇に転じている。金利がこの先、下がるとみられていることも追い風だ。公共投資関係のインフラや、エネルギー関係も堅調だ」
「波乱要因は秋の大統領選挙。トランプ氏が大統領になったらどうかと聞かれるが、建機業界にとっては悪い話ばかりではない。電動化をはじめ環境対策の流れにはブレーキがかかるだろうが、他方で石炭・石油などの化石燃料開発を加速させるだろうから、鉱山機械の需要は伸びる。一方、一般建機については24年度は前年度比マイナスとみる。他方で鉱山機械は堅調が続きそうだ。資源価格の高止まりが続いており、需要が多い。鉱山機械の高い稼働率を背景に部品関係も伸びが続くのではないか」
―カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の潮流に変化は。
「電動化の流れ自体は不可逆だ。トランプ氏は米国第一主義者だから米での脱炭素の動きは後退するだろうが、中国と北欧では変わらず進むとみる。ただ電動化は中国ではもっぱら補助金頼みだ。北欧も水力発電による安い電力で支えられている実情がある。電動化は現状、車体の高価格や長い充電時間、稼働時間の不足などのネックがあり、なかなか普及しないが、これらの課題は、国の政策支援次第でガラリと変わる。その時に備え、企業はしっかり準備しないといけない。鉱山機械については電動化の流れがより明確だ。大手鉱山会社が30年や40年までにそれぞれ脱炭素化を果たすとの企業目標を掲げており、鉱山ダンプや超大型ショベルで対応が進む」
―運転の自動化への対応も必要です。
「鉱山機械を中心に進むだろう。自動化はそれだけをやっても効果は薄く、周辺機械との協調制御が求められる。鉱山ダンプを無人化できても、同じ現場で稼働するショベルやブルドーザー、ダンプに積み込む動作などもセットで自動化しなければ意味はない。我々は23年3月に湘南工場(神奈川県平塚市)に新開発棟を開設し、自動化・自律化・遠隔操作の研究開発機能を集約した。開発速度を一段と速める」
―能登半島地震をはじめ、大規模災害を想定したサプライチェーン(供給網)強靱化の取り組みは。
「石川県は当社創業の地であり、地域社会と共生を目指す精神は創立時から受け継がれている。1次、2次、3次下請けに至るまで協力企業のデータベースも完備しており、今回の地震でも直ちに連絡を取って各社の状況を把握することが出来た。発電機などの機材無償貸与や、建機の保守サービスも進めている。地政学とグローバル対応では世界各地に工場拠点を持つ強みを生かし、クロスソーシングやマルチソーシングを徹底し、為替変動や政変など不意のリスクに備えていきたい」
【ポイント】
コマツは23年度を電動化建機の導入元年と位置付け、0・1トンクラスから20トンまで、多数の電動ショベルを投入している。温暖化の進行で排ガスをめぐる世界の目は年々厳しさを増す。建設現場の人手不足や人件費高騰を考えれば自動化も急務だ。小川社長は「現時点では利益に貢献しなくとも、将来のために必要だ」と話しており、社会課題の解決と自社の持続的成長の両立を中長期目線でしっかり捉えている。(編集委員・嶋田歩)