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業界展望
SDGs―「再生エネ導入」「人的資源」定着
SDGs終了まで6年
2016年にスタートした持続可能な開発目標(SDGs)は30年のゴールに向け“後半戦”に突入した。ここまで多くの企業が気候変動対策として再生可能エネルギーの導入を進め、人材への投資を企業成長につなげる「人的資本」の考え方も定着してきた。一方、男女の格差は埋まらず、日本はジェンダー平等(性差解消)の分野で後進国のままだ。
ゴール13/世界でCO2排出量の削減進む
SDGsの17分野のゴールのうち、ゴール13(気候変動対策)は関心が高く、ゴール7(クリーンエネルギー)とともに進展した。セイコーエプソンは23年12月、全世界の拠点で使う電力を再生エネに転換。同社グループの年間使用電力量8億7600万キロワット時のすべてを再エネ化し、二酸化炭素(CO2)を年40万トン削減する。
サントリーホールディングスも23年1月、日本と欧米の飲料、食品、酒類事業の生産・研究の全66拠点で購入する電力を再生エネ化した。温室効果ガス(GHG)排出量を年23万トン減らす効果がある。
富士フイルムホールディングスは23年11月、米国企業がテキサス州に建設する太陽光発電所から、再生エネを使ったとみなせる証書を購入する契約を結んだ。25年後半の稼働後、米国とカナダの北米42拠点が1年間に使う3億キロワット時の電力を再生エネに転換する。
アストラゼネカは従業員の出張に伴う排出量にも切り込む。24年4月からJR東海とJR西日本が再生エネ電気を用意し、同社の従業員が東海道・山陽新幹線を利用した排出量をゼロ化する。同社は国内拠点の電力に再生エネを導入し、1800台以上ある営業車の6割を電気自動車に切り替えている。事業活動に関連したすべての排出量(スコープ3)のゼロ化を目指し、出張時の排出にも対策を打つ。
再生エネを使った地域活性化も広がっている。九州の最西、五島列島の長崎県五島市は、市内の電力の半分が再生エネになっている。地元企業有志が出資して設立した五島市民電力が、風力発電や太陽光発電から電力を仕入れ、市内の家庭や事業者に売っている。五島市民電力は利益の一部を子どもの部活動の遠征費や農業の補助に使っており、電力の“地産地消”を地域課題の解決につなげた。
五島列島沖合では、浮体式洋上風力発電8基の増設が始まった。福江商工会議所が製造拠点を誘致したことで、市内に再生エネに関連する企業が9社、従業員が95人に増えた。市は経済波及効果を41億円、雇用を360人と見込む。
ゴール11/豪雨頻発 下水処理能力向上
ゴール11(防災)は、年々緊急性が高まっている。気象災害が頻発しているからだ。内閣府によると11年―20年度の10年間で全国の市町村の98%が水害を経験した。
自然災害が“日常化”する中、下水処理場の能力向上が課題となっている。集中豪雨によって想定以上の雨水が下水に流れ込むようになったためだ。能力を超えた下水処理場は廃水を十分に処理せずに放流するため、河川や海の水質が悪化する事態が起きている。
大阪市が4月に稼働させる海老江下水処理場(大阪市此花区)は、施設の老朽化に伴う建て替えのタイミングで豪雨対策も講じた。雨天時は晴天時の3倍以上の廃水を処理できる。23年12月、現地での式典で、国土交通省下水道部の松原誠部長は「各地の下水処理場を今の時代にふさわしい施設に変える必要がある。海老江はフルモデルチェンジであり、自慢できるモデル」と評価した。
複数の最新技術を導入したうちの一つが、メタウォーターが開発した「高速ろ過」システムだ。7・5ミリメートル以下の「ろ材」を槽に詰め、汚濁物を取り除く仕組みだ。原理はシンプルで、廃水を流すとろ材が密集してフィルター代わりとなって汚濁物を捕捉する。
通常、汚濁物が沈むのを待ってから処理が始まる。高速ろ過によって待ち時間も設置スペースも大幅に削減した。メタウォーターによると予定も含めると45件の下水処理場が高速ろ過を採用するという。都市部に限らず、各地で豪雨対策が急務となっている状況が背景にある。
ゴール8/社員との関係重要
人材をめぐる課題も関心度が高い。ゴール8(働きがいのある人間らしい雇用)に対し、産業界は長時間労働の是正に取り組んできた。最近は、人材を投資対象と捉えた「人的資本」の概念が広がりつつある。味の素や出光興産、伊藤忠商事など33社が参加する「人的資本理論の実証化研究会」は、人的資本を「能力」と定義。教育や経験によって従業員の能力を向上させるだけでなく、能力を発揮できる“会社と社員の関係性”が重要と分析している。
投資家も人的資本に注目する。離職率が高い企業には優秀な人材が定着せず、成長が見込めないためだ。企業に対して人的資本の開示要請が強まることから、経済産業省は「人的資本経営コンソーシアム」を発足させて旭化成、オリンパス、花王などの22社の事例を公開した。
ゴール5/性の格差解消進まず
ゴール5(性別による格差解消)は、改善が進んでいない課題だ。世界経済フォーラムがまとめた23年のジェンダーギャップ指数で日本は146カ国中125位。政治や経済界での女性リーダーの不在が著しく、過去最低の順位に転落した。
国内で一部企業に男女の賃金格差の公表が義務化された。国民生活産業・消費者団体連合会が23年9月に開いたワークショップで講師を務めた大崎麻子氏(ジェンダーダイバーシティスペシャリスト)は「賃金格差のデータは差別を可視化できる」と紹介。入社当初、男女の賃金格差は小さいが、年齢を重ねるほど男性が高給となる。性別による社内での役割分担や無意識の差別があり、男性が上位の役職を独占する傾向にあるためだ。
SDGsの終了まで6年。本気で対策に取り組まないと、ジェンダー平等の達成は険しい。