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商社―総合商社、事業創出力生かす
カーボンニュートラルを後押し
大手商社によるカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)に貢献する事業開発が活発になってきた。風力などの発電所建設や電力需給の調整役となる蓄電所の開発から、二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)に至るまで注力事業は広範に及ぶ。総合商社の産業ネットワークと事業創出力を生かしてエネルギーのサプライチェーン(供給網)の上流から下流までをつなぎ、CN社会実現を後押ししている。
伊藤忠商事/蓄電池で再生エネ安定供給
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伊藤忠は再生エネ需給の調整役となる蓄電池設備の開発を推進している(兵庫県豊岡市)
伊藤忠商事は、発電量の変動が大きい再生可能エネルギーの安定供給につながる蓄電池事業を強化している。国内では公表ベースで7件の蓄電所開発を手がけるほか、東京都と共同で電力系統用の蓄電池に投資するファンドの運営を始めた。
このファンドは、関東エリアで2―6件程度の蓄電所開発に投資し、2026年―27年ごろから順次稼働させる計画だ。東京都のほか、金融機関などから資金を募って最大100億円規模のファンドを組成し、融資や補助金も活用して合計50万キロワット時規模の蓄電所開発を目指す。
再生エネの普及が進む中、電力需給の調整役となる蓄電池の重要性は高まっている。伊藤忠の村瀬博章次世代エネルギービジネス部長は「再生可能エネルギーの拡大と電力の安定供給の両立を図っていく」と語る。
伊藤忠は家庭用蓄電池の販売にも力を入れており、累計出荷台数は約6万台に上る。資本提携先の米ルナーエナジーの人工知能(AI)が太陽光発電量の予測や電力消費パターンを基に充放電を最適制御する。再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)が19年以降順次終了することを見据えて強化したシステムが、電力の自家消費ニーズを捉えて販売を伸ばしている。
今後は、家庭や店舗で余剰となった太陽光由来の電力などを直接売買できるネットワーク構築に取り組む。再生エネの需要家間をつなぐことで分散型電源の効果的な制御を狙う。
伊藤忠は再生エネの上流開発も強化しており、国内では秋田県沖の洋上風力発電開発の公募をJERAなどと共同で落札した。北米では土地の確保や電力系統への接続といった太陽光発電所の設計業務を手がけるなど、CN社会実現に向け着実に取り組みを進めている。
三井物産/CO2回収・地下層に貯留
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三井物産は回収CO2を原料に低炭素メタノールの生産を開始した(米フェアウェイメタノールの工場、テキサス州、三井物産提供)
三井物産はエネルギー企業などとのグローバルなつながりを生かし、CN事業の開発を進めている。マレーシアでは同国の国営石油会社ペトロリアム・ナショナル・ブルハドなどと共同で、30年ごろの開始を目指すCCS事業を開発する。アジア太平洋地域でCO2を回収して液化輸送し、ガス埋蔵量が減退したマレーシア沖の地下層などにCO2を貯留する計画だ。
すでに中国電力とは同社グループの石炭火力発電所からのCO2回収とマレーシアへの輸送について共同検討の覚書を締結した。エネルギーの安定供給には当面、化石燃料の利用が必要とされる中、CO2排出を相殺する手段を提供することでCNを推し進める。三井物産は「(今後もグローバルでのCCS事業の展開を通じ)環境と調和した社会の実現に貢献していく」としている。
また米国では、テキサス州のメタノール生産プラントの周辺工場から回収したCO2を原料に、低炭素メタノールの生産を始めた。米化学品大手セラニーズと13年に開始した共同事業が発展した形だ。供給網は日本にもつながり、旭化成が三井物産を通じて米国から低炭素メタノールを調達することを決めた。
三井物産は、グリーン水素や家畜の排せつ物由来CO2から低炭素メタノールを生産するデンマークのカッソー・ミドコに出資し、将来はアジア圏への販売を計画する。ポルトガルの石油・ガス大手ガルプとの間では、使用済み食用油などを原料とする再生可能ディーゼルと持続可能な航空燃料(SAF)を共同生産することで合意。三井物産が築き上げてきた産業ネットワークを生かし、CN社会実現を後押しする。
豊田通商/ケニアで発電→送電→使用まで
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豊田通商はケニア政府と再生エネ活用などで覚書を締結した
豊田通商は、2月にケニア政府と再生エネの活用などについて覚書を締結した。同国で発電から送電、電力使用までの事業をつないでCN実現に貢献する供給網構築を推進する。
ケニア政府は30年までに発電量の100%を再生エネで賄う目標を掲げており、豊田通商は地熱や太陽光、風力などを活用した発電事業の開発を進める。さらに送電ロスの削減に向けて高効率変圧器の実証事業を通じたエネルギー効率の向上や、高効率変圧器の現地生産に向けた検討と人材育成に取り組む。
また地域のエネルギー事情に応じて最適な自動車を提供する施策「マルチパスウェイ」を推進し、充電インフラが不要なバイブリッド車をはじめとする電動車普及も進める。「日本企業のケニアでの経済活動がさらに活発化するよう、両国の関係強化に引き続き尽力する」(豊田通商の貸谷伊知郎社長)とし、5%程度の高い経済成長が続くケニアと日本をつないでケニアの産業発展などをサポートする。
豊田通商は12年に買収したフランスのアフリカ専門商社セーファーオーの基盤も生かし、アフリカ事業を拡充している。アフリカ全54カ国での自動車販売を軸に食品や医薬品の流通も手がけるほか、近年はエジプトの風力発電所やベナンの太陽光発電所の建設受注など再生エネ事業も推進。若年層を中心とした人口構成で高い経済成長率が見込まれるアフリカで、CNと両立するインフラ開発需要の取り込みを進めている。