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医療・医薬―世界の医療 大きく変える
製薬業界、ニーズに対応
多様化する医療ニーズに応えるため、製薬業界は取り組みを加速させている。高齢化社会にも関連が深い脳神経疾患やがん領域は、特に新薬開発が活発化。医療を大きく変える革新的な医薬品も登場し、患者の新たな治療選択肢になると期待される。また製薬企業は医薬品の安定供給にも力を入れる。生産能力の増強や効率化などに取り組むなど供給体制を構築し、医療を支える。
認知症治療薬「レカネマブ」
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レカネマブは米国と日本で投与が開始した
エーザイはアルツハイマー病(AD)治療薬「レカネマブ」を実用化した。2023年7月に米国、同年9月に日本で承認を取得。これまで疾患に伴う症状を抑える治療薬はあったが、疾患の根本に働きかけ進行を抑制する治療薬は世界初となる。
米メガファーマ(巨大製薬会社)のイーライリリーも同領域で治療薬の承認申請しており、AD治療は転換点を迎えつつある。
レカネマブはAD型認知症患者を対象とした治療薬で、脳内に蓄積して病気の原因になるとみられるたんぱく質「アミロイドベータ(β)」を除去する効果が期待される。これにより病気の進行を平均約3年遅らせると推定される。
レカネマブのように世界でも画期的な医薬品の市場浸透について、エーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は「既に市場がある医薬品とは異なる。医療関係者と協力しながらマーケットを作り上げるため、パイオニア的な努力を続ける」とした。
米国ではこれまでに約2000人が投与を開始しているが、まだ投与されていない待機患者が約4倍いるとされる。自社の生産体制の整備だけでなく処方できる医療機関の拡大や専門医への情報提供も強化し、市場浸透を目指す。
ADが疑われる人に向けた受診のきっかけづくりも重要だ。レカネマブの投与が対象となる人が適正に医療にアクセスできるよう、多方面からの働きかけに注力する。
さらなる普及にも取り組んでいる。現在、レカネマブは点滴静注での投与に限られるが、24年度中の皮下注射製剤の実用化を見込む。実用化すれば自宅での投与が可能となり、通院が不要となるため家族や介助者の負担軽減につながる。さらに投与時間も1分程度と大幅に短縮する。
認知症の治療を大きく変えるレカネマブだが、課題として高額な治療費が指摘される。薬価だ。日本での薬価は、体重50キログラムの患者の場合、年間約298万円となる。患者負担額は、高額な医薬品に対し、患者の年齢や所得に応じて自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」の適用により十数万円程度に抑えられるものの、医療費増加が進むことが懸念される。
一方、レカネマブの投与対象は早期AD患者の1%程度と想定される。また医療費増の懸念はあるが、病気の進行を抑えることで介護負費用削減の効果が期待できる。
国内でも投与が始まったレカネマブは、社会的な効果の検証も重要となる。内藤CEOは「安全性を十分確保しつつ有効性が発揮され、的確な患者に届けられるよう全力を尽くす」とし、まず必要な患者に届ける体制の構築が求められる。
iPS細胞で再生事業加速
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住友ファーマが5月に他家培養胸腺組織「リサイミック」の実製造を始める米国の細胞製品製造施設(CPC)
住友ファーマはパーキンソン病や脊髄損傷、腎不全など向けに、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来細胞を活用した再生・細胞医薬事業を加速する。パーキンソン病向けドパミン神経前駆細胞について、2024年度の市場投入を目指し、5月に米国で小児先天性無胸腺症向け培養胸腺組織「リサイミック」の実製造を始める。野村博社長は「よりイノベーティブなソリューションが社会に評価される」という。
塩野義製薬は感染症や生活の質(QOL)が落ちる疾患分野の開発に注力している。新型コロナウイルス感染症治療薬では重症化リスク因子を持つ患者や濃厚接触者の発症予防で臨床試験する。米国やシンガポール、韓国で承認や製造許可の申請手続きを進める。ワクチンも国内第3相追加免疫試験を始めた。
QOL低下疾患では24年度に変形性膝関節症や栄養障害型表皮水疱症向け治療薬を申請する見込みだ。肥満症向けはフェーズ3試験を始める。
田辺三菱製薬は中枢神経や免疫炎症、がん向けを主要ターゲットに開発を進める。中枢神経関連では、パーキンソン病向け持続皮下注投与ポンプ製剤を申請中で、末梢性神経障害性疼痛向けTRPM8遮断剤や大阪大学と共同創製の脊髄損傷向け抗RGMa抗体などで臨床試験している。
免疫炎症では全身性強皮症や子宮内膜症など向けでフェーズ2やフェーズ3試験を行い、がん向けではスイスのADCセラピューティクスから導入したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫向けで臨床試験している。
海外企業と提携 創薬に挑む
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東和薬品が山形工場に導入する錠剤など大量スケール生産機
小野薬品工業は海外企業と創薬に向けた提携を加速している。米国のインヴェニAIやシャタック、スイスのニューマブ・セラピューティクスと提携。新規治療標的の探索研究や自己免疫疾患・炎症性疾患向け融合たんぱく質の創製、がん領域向けの新規多重性マクロファージエンゲージャーの開発・商業化を進める。滝野十一取締役専務執行役員は「世界中の患者に新たな治療選択肢を届けたい」としている。
ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーは安定供給という課題克服に向け増産体制構築を急ピッチで進めている。沢井製薬(大阪市淀川区)は、第二九州工場(福岡県飯塚市)の新固形剤棟や旧小林化工を引き継いだトラストファーマテック(福井県あわら市)で、それぞれ早期に年産20億錠を目指す。「他工場で作りきれない需要ある製品を生産し、制限出荷品目を減らす」(木村元彦社長)。
東和薬品は4月に山形工場(山形県上山市)で年産能力35億錠の第三固形製剤棟を稼働予定で、全社合計で同175億錠に引き上げる。「安定供給体制の構築は社会的責任」(吉田逸郎社長)と力を込める。