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業界展望
化学―持続可能な産業へ知恵絞る
脱炭素・資源循環に対応
化学業界では、脱炭素対応や資源循環対応に向けた動きが活発になってきた。各社は事業環境の変化に対応すべく、コンビナートでの連携や、環境負荷低減につながる技術開発に相次いで取り組んでいる。モノづくりの上流を支え、経済安全保障上でも重要性が増す化学作業を持続可能なものにするため、各社いずれも知恵を絞っている姿がうかがえる。
コンビナートで連携
「国際競争力を高め、安全操業に細心の注意を払い、国民生活におけるエッセンシャルインダストリーとして安定供給をしっかりと果たしていく」―。石油化学工業協会の岩田圭一会長(住友化学社長)はこう力を込めた。
化学業界では、主に中国のプラント増設による需給環境悪化といった事業環境変化をはめ、脱炭素対応の重要性の高まりの中にある。多くの変革が求められており、こうした中で、石化コンビナートでの具体的な連携に向けた動きが活発になってきた。カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向け新たな「グリーンコンビナート」を目指す取り組みだ。
2023年2月に住友化学と三井化学、丸善石油化学の3社が、千葉県の京葉臨海コンビナートでのCN実現に向けた3社連携の検討開始を公表。原料の多様化に向けバイオマスの活用や、ケミカルリサイクル(CR)、マテリアルリサイクルの技術開発などの検討を進める考えを示した。
国内コンビナートがある各地でも連携に向けた動きが広がりつつある。京葉臨海コンビナートでは産学官による「カーボンニュートラル推進協議会」も立ち上げた。三重県の四日市コンビナートでも「四日市コンビナートカーボンニュートラル化推進委員会」の会議が発足。岡山県の水島コンビナートの「カーボンニュートラルネットワーク会議」も会合を重ねている。
出光興産や東ソーなどが取り組む山口県の周南コンビナートでのカーボンフリーアンモニア供給網の構築などは、公正取引委員会から「問題なし」との回答を受け、活動を加速させる構え。
三菱ケミカルグループは茨城県と鹿島コンビナートの循環型コンビナート形成に向けて連携する。三菱ケミカル茨城事業所(茨城県神栖市)でENEOSと立ち上げるケミカルリサイクル(CR)設備を活用し、廃プラスチックを油化してエチレンやプロピレンなどを生産する計画だ。持続可能な製品の国際認証を活用した供給を視野に入れ、素材から脱炭素化に貢献する動きを広げる。
大分コンビナートでレゾナックや日本製鉄などが進める工場排ガスに含まれる低濃度二酸化炭素(CO2)を分離回収する技術開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業に採択された。
西日本では、瀬戸内海に接するコンビナート間での連携の構想もある。「CN実現などには巨額の資金や最先端の研究開発が必要だ。各社が単独で競争力強化、構造改革を進めるのは難しい」(三菱ケミカルグループの筑本学執行役エグゼクティブバイスプレジデント)だけに、化学業界では産学官を含めたコンビナート連携が活発になっているもようだ。
CO2からメタノール
一方、各社は独自のリサイクル技術などを生かした環境負荷を低減させる製品の開発にも余念がない。その一つがCO2を利活用する技術。住友化学は愛媛工場(愛媛県新居浜市)で、CO2からメタノールを高効率に製造するパイロット設備の運転を始めた。従来のCO2からメタノールを製造する技術に比べて、収率を2倍以上にする。28年までに実証を完了し、30年代の事業化や他社へのライセンス供与を目指す。
旭化成は触媒技術を生かし、CO2を原料としたポリカーボネート(PC)などの「CO2ケミストリー」に力を入れる。
CRに関する各社の取り組みも目立つ。廃プラなど使用済み資源を燃やさず化学的に処理し、原料などに転換して再利用する手法だ。廃プラの焼却量などを減らせれば、環境負荷の低減につながり期待されている。三井化学は廃プラ分解油を原料にした化学品やプラスチックの生産、販売に乗り出す構え。CFP(広島県福山市)から廃プラ分解油を調達し、大阪工場(大阪府高石市)のナフサクラッカーに入れて誘導品を生産する。国際的な認証を取得し、マスバランス方式による販売を想定している。
レゾナックは川崎事業所(川崎市川崎区)で廃プラを水素やアンモニアに再利用するCR活動を進めている。伊藤忠商事と協力し、使用済みのプラスチック・衣類を活用し、アンモニアなどにリサイクルするよう取り組んでいる。
出光興産は廃プラ由来の生成油を原料に化学品や燃料油の製造に取り組む方針だ。子会社のケミカルリサイクル・ジャパン(東京都中央区、CRJ)を通じ、千葉事業所(千葉県市原市)隣接地に処理能力年2万トン規模の油化CR設備を建設し、25年度の稼働を目指している。
ほかにも、旭化成はバイオエタノールから多様な基礎化学品を製造する技術開発を続けている。エチレンやプロピレンなど、生産する基礎化学品の幅を広げ、自動車向けなどで求められる環境負荷の低いバイオマス原料由来の部材として提供することも視野に入れている。
化学業界はモノづくりの上流を支え、経済安全保障上でも重要な産業だ。持続可能な業界の未来には、より多くの仲間と知恵を絞り、新たなイノベーションを創出することが欠かせない。各社はこうした意識を胸に取り組みに邁進している。