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変・減速機
減速機、増速機、変速機は動力伝達を担う主要機器として自動車や工作機械、ロボットなど多様な分野で活躍している。中でも自動車業界では燃費性能の向上や電動化に向けた取り組みにより、部品の軽量化が進められている。これらのニーズに応え、大学やメーカーなど研究の最前線では、高効率、高精度、小型・軽量化などの技術追求を続けている。そこで今回は東海大学の工学部機械システム工学科の山本建教授に「電気自動車用変速機の技術動向」と題して語ってもらった。
電気自動車用変速機の技術動向
【執筆】 東海大学 工学部 機械システム工学科 教授 山本 建
eーAxleの高回転化
日本の新車販売における電気自動車(EV)の比率はいまだ2%にも達しておらず、また米国や欧州の情勢変化により一時の熱気はなくなったが、環境やエネルギー問題を考えれば長期的に電気自動車の比率は高まっていくと思われる。
そのため世界中の自動車メーカーやサプライヤーが電気自動車用パワートレイン、特に機電コンポーネントを一体化したe—Axleの開発に注力している。本稿ではe—Axleの主要コンポーネントである変速機に焦点を当て、その技術動向を概説する。
自動車のタイヤを駆動するに必要なトルクに対し、車載可能なサイズのモーターが出せるトルクは一ケタ小さく、変速機でトルクを増幅することが一般的である。この変速機とモーター、インバーターを一体化したユニットをe—Axleと呼んでいる。構造が単純であり、内燃機関や無段変速機、ハイブリッドシステムに比べて技術的ハードルが低いため、多くの中国メーカーが参入し価格競争が激しくなっている。
これに対し、日欧メーカーは差別化を図るためユニットの小型化を最重要課題の一つとして取り組んでいる。その目的は、車両デザインの自由度を飛躍的に高めることと、モーターを小型化することで磁石や電磁鋼板に用いるレアアース(希土類)の使用量を低減することにある。
モーターの発生するトルクはその寸法に依存するが、出力はトルクと回転速度の掛け算であるため、高速化することで出力を維持したままモーターを小型化することができる。トヨタ自動車の「プリウス」のモーターは1997年の発売当初、最高毎分5600回転であったものが現在は同1万7000回転と3倍以上、高速化し、出力密度を4倍に向上させている。
また2010年に発売された日産自動車の「リーフ」の同1万回転に対し、17年に発売された米テスラの「モデルS」は同2万回転であり、オーストリアAVLは同3万回転、愛知製鋼は同3万4000回転のプロトタイプを発表している。
モーターに合わせて変速機も高回転に耐える必要がある。振動騒音の増加、歯車や軸受の温度上昇、潤滑油の攪拌抵抗や回転体の風損による伝達効率の低下といった課題の解決が必要であり、日本の自動車および変速機メーカーが設立した自動車用動力伝達技術研究組合(TRAMI)は同5万回転を目標に変速機の研究を行っている。またドイツにおける同様の組織であるFVAも同5万回転をターゲットとしている。
変速機の構造と種類
2000年代までは、2輪または4輪のタイヤ内径側にモーターを配置するインホイールモーターの開発が盛んに行われていた。しかしながらモーター、インバーターの数が多くコストが高いわりに、量産車向けとしては大きなメリットが見いだせないことから、現在ではユニットを車体にマウントし、ドライブシャフトでホイールを駆動するe—Axleの開発が主流である。モーター1個の出力をディファレンシャルギア(差動装置)で左右輪に分配するものが多いが、高性能車向けにモーター2個で左右輪をそれぞれ制御するトルクベクタリングを行う例もみられる。
モーターは無段変速機の機能を持つため、多くの場合は固定速比の減速機を用いているが、2段変速機を使うユニットも提案されている。
目的は①モーターを高効率な条件で運転し航続距離を延ばす②最高車速を上げる(またはモーター回転数を下げる)③駆動力を増加させる(またはモータートルクを下げる)—ことにある。
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写真1 2段変速機を有するe—Axle(日本精工 提供) -
写真2 遊星歯車を用いたe—Axle(ニデック 提供)
ただし2速化により変速機の構造が複雑となり伝達効率が低下するので①への効果は大きくない。②は高性能車、③は商用車に適用すれば効果が期待できる。写真1は遊星歯車と湿式多板クラッチで2段変速機を構成した例である。クラッチの締結には油圧ピストンではなく電動アクチュエーターを用い、効率向上を図っている。
現在、市販されている多くの電気自動車用変速機は伝達要素に平行軸歯車を用いているが、小型高回転化を考えた場合は遊星歯車が有利となる可能性もある。複数の歯車で動力を分担するため一つの歯車のサイズが小さく、周速を下げられること、円筒形状であるためモーターと形状の親和性があることが理由である。いくつかのメーカーや研究機関がユニットを提案している(例えば写真2)。モーターと変速機を中空とする場合もある。ドライブシャフトも含めて一軸上にすべてを配置することで全体をコンパクトにできる。
ただし中空化によりローターや歯車の径が大きくなるので、高回転化には注意が必要である。また内燃機関用遊星歯車において最弱部位であるピニオン軸受が、高回転化によりさらに運転条件が過酷になり、潤滑がシビアになることも考慮しなければならない。
トラクションドライブを用いた高回転変速機
電気自動車は高い静粛性が要求されるため、高回転では歯車の振動騒音が懸念される。また歯車の凹凸形状が潤滑油をたたくことにより攪拌抵抗が増大する恐れもあるため、伝達要素として、これらの懸念が小さいトラクションドライブも有力な候補となる。トラクションドライブとは高圧化で固体化する特殊な油を用い、ローラー間に形成される油膜で動力を伝達する要素である。噛(か)み合い振動がないため静粛性に優れ、形状がスムーズであるため攪拌抵抗が小さいと言われており、工作機械主軸の増速機や航空機の発電機に使用されている。
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図1 歯車とトラクションドライブの性能比較
筆者らは毎分5万回転での運転が可能な伝達性能試験機を設計製作し、高回転における歯車とトラクションドライブの性能比較を行った。図1は回転数と伝達トルクに対する摩擦損失の測定値である。トラクションドライブは伝達力を発生するために押し付け力を与える必要があり、軸受でこの大きな力を支えるため摩擦損失に対する伝達トルクの感度が高い。歯車は回転数の感度が高く、これは前述した攪拌抵抗によると思われる。
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写真3 遊星ローラー試験ユニット -
図2 遊星ローラーの伝達効率
トラクションドライブで遊星機構を構成した遊星ローラーは、押し付け力が内部で相殺されるため軸受に大きな力が働かず、摩擦損失を小さく抑えることができる。そこで筆者らは電気自動車用変速機を想定した遊星ローラ(写真3)を設計・製作し、伝達効率の測定を行った。減速比は9、サンローラーの最高回転数は同5万回転である。サンローラー上で同9000回転、同1万8000回転、同5万回転の3水準の回転数での減速遊星の伝達効率を図2に示す。9000回転では最高効率は98%を超え、一般的な遊星歯車と同等の高い効率を得た。回転上昇とともに伝達効率は低下するが、急激な低下は見られない。筆者らは同様の構成で遊星歯車の試験ユニットを製作し、伝達効率の測定を行ったところ、平行軸と同様、高回転低トルクでは遊星ローラーが高効率であった。すなわちトラクションドライブは高回転低トルクで歯車よりも摩擦損失が小さく、高回転モーターの変速機に適している。
電気自動車用変速機においては静粛性が最重要課題になると思われ、この点において有意差を出せれば実用化の可能性も高まる。
