-
業種・地域から探す
変・減速機
クラッチ制御調整で、動力伝達を最適化
【執筆】日立ニコトランスミッション 大宮事業所 設計部 設計第一課 主任技師 河野 哲也
近年、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指す取り組みが世界的に進んでおり、化石エネルギーを中心とした産業・社会構造から二酸化炭素(CO2)を排出しないエネルギーへの転換の取り組みが進んでいる。
電力事業では、石炭やガス燃料に水素やアンモニアの混焼・専焼が検討されており、船舶事業などモビリティーでは内燃機関の燃費やCO2排出量低減が注目されている。
燃料の多様化に伴い、変速機においても貢献できる技術がある。変速機の高効率化、軽量化はもちろんだが、燃料アンモニアは化石燃料に比べてエネルギー密度が低いため、内燃機関は燃焼特性に合わせてストールしないための工夫が必要となる。機関の負荷を軽減するため、変速機内の嵌脱(かんだつ)クラッチの制御を変更するなどカスタマイズを行っている。この技術は陸用のポンプ駆動用減速機に応用され、動力伝達系の最適化に貢献している。
また水素や燃料アンモニアなどの製造・輸送・貯蔵のインフラ整備のため、高速回転仕様の変速機や可変速機構のニーズがあると考える。以下に技術の例を紹介する。
ポンプ駆動用クラッチ付き歯車変速機
-
図1 湿式多板クラッチ説明図 -
図2 流体継ぎ手給油システム系統図
主な公共用製品として河川ポンプ用の変速機があげられる。河川ポンプ設備は近年の気候変動による台風や局地的な大雨により、重要度は増している。気候変動は温暖化による影響が大きく、今後も大雨の発生は増加するものと予想される。
河川ポンプ設備は昭和40年代より排水機場の整備が進められ現在は新規で建設することは減少しているが、老朽化した設備の修繕や更新の需要が増加している。
河川ポンプ用変速機の主な役割はディーゼルエンジンやモーターなどの原動機より生じる動力を排水ポンプへ伝えることで、その際の原動機の回転速度をポンプに最適な回転速度への減速や動力の伝達方向を変換するために用いられる。その他の機能としてクラッチがあり、変速機に搭載することで動力の切り替え(オン/オフ)が可能となる。
当社採用のクラッチは湿式多板油圧クラッチで、油圧クラッチの構造を図1に示す。
油圧クラッチは表面に摩擦材が貼られている摩擦板と、摩擦材がない相手板からなり、お互いの板に外歯のスプラインと内歯のスプラインが切られており、それぞれの板は軸方向に摺動(しゅうどう)する。クラッチ内部のピストンに油圧が働くことで、互い違いに組み込まれた摩擦板と相手板を圧着させ、互いの板の間に摩擦力が働きトルクが伝達される。
近年のディーゼルエンジンは省エネルギー、省スペース化のために小型化、高速化の傾向となっており、クラッチ接続時の急激な負荷の変動によりエンジンの回転低下が問題となる場合がある。エンジンの回転速度が低下すると異常と判断され起動時の動作が停滞しポンプの排水が実施されず、大きな被害が発生することになる。
この問題解決のためにクラッチ内部のピストンに作用する油圧を制御することで、伝達トルクの増加勾配を緩やかにし動力切り替え時のエンジンへの負荷を低減させる必要がある。
当社ではクラッチに作用する油圧を機械的に制御するための制御用バルブを採用しており、現在はさらなる油圧の制御性向上のために、これまで採用していたバルブを見直し解析ソフトと実証試験を行い開発に取り組んでいる。
また、新たな取り組みとして大容量クラッチの変速機への搭載を検討している。従来の河川ポンプ用変速機の動力の切り替えは、伝達動力がある一定の容量を超えるものの中では流体継ぎ手が採用されてきた。流体継ぎ手は流体を介して動力を伝達する機構であり、潤滑油を充満した容器内に二つの羽根車を対峙(たいじ)させ容器内の潤滑油を循環させることでトルクを伝達させる。
流体継ぎ手はクラッチに比べ伝達効率が低く、潤滑油も1000-2000リットルの量が必要となる。この大量の潤滑油を保有するために変速機全体のケーシングも大型化となる。
ポンプ設備全体の省エネ、省スペース化を図るために現状の許容できるクラッチサイズの枠を広げ、従来の流体継ぎ手からクラッチでの対応を目指す(図2)。
高速遊星歯車装置
-
図3 高速動力循環式遊星歯車試験装置構造および実測結果
遊星歯車変速機は入・出力軸が同芯になり、平行軸歯車変速機と比較してコンパクトな機器配置が可能である。遊星歯車変速機は複数の歯車が同時に噛(か)み合う機構のため、部品の製作誤差によって歯車に作用する荷重に不均衡が生じる。この荷重不均衡は歯車装置の効率、耐久性の低下につながるため、高い製作精度と荷重等配機溝を採用している。
変速機自体も小型化することが可能で、中小型のガスタービン原動機とした機械設備や圧縮機用駆動用の設備では、原動機と被動機の間に減速・増速用途で遊星歯車装置が設置されることがある。
このような高速機では、歯車の噛み合いによる動的な荷重不均衡により振動や騒音の原因となることがあり、実験的・解析的に把握することは設備の安定運用に重要である。
当社では、高速動力循環式遊星歯車試験装置を使用し、回転速度を変化させて遊星歯車支持軸に生じる動荷重、および歯元応力を実測することに成功した(図3)。
その結果は日本機械学会に報告し、研究成果として優秀と認められ、同会の機素潤滑設計部門の2023年度年次大会一般表彰で、優秀講演に選ばれた。今後は解析結果との検証を進め、低振動・低騒音の歯車変速機の開発を継続していく。
機械式可変速装置
-
図4 機械式可変速装置
次に、機械式可変速装置を紹介する。ここでの機械式可変速装置とは、電動機の回転速度をインバーター制御などの電気制御方式ではなく、クラッチや流体継ぎ手、トルクコンバーターなどの機械要素で可変速する機構を指す。
当社では、差動遊星歯車とトルクコンバーターを組み合わせて電気式と同等の高効率を達成した変速機を完成させた。差動遊星歯車には前述の高速遊星歯車の荷重等配機構を用いることで高速回転に対応でき、オイル&ガス市場や新エネルギー関連市場に投入するため準備を進めている(図4)。
おわりに
今後も動力伝達システムの省エネ、環境対策は、さらなる進化を遂げていくものと思われる。原動機、被動機はデジタルを活用した状態監視を含め環境対策を進めており、変速機製品も原動機、被動機の進化に併せ進めていかなければならない。
変速機の高効率化はもとより動力伝達システムの省エネ・環境対策の一つの要素として、日立ニコトランスミッションの変速機が少しでも貢献できればと考える。