-
業種・地域から探す
変・減速機
変速機、増速機、減速機は、モーターなどの動力源からの回転運動を調節し、適切な速度に変換するために使われる。船舶や自動車、建設機械、工作機械、ロボットなど、幅広い用途で活躍している。最近では、産業ロボットや無人搬送車(AGV)向けといった工場自動化(FA)へのニーズの高まりに伴い、減速機とモーターを組み合わせた活用が増えている。そこで今回は、京都大学大学院工学研究科の小森雅晴教授と寺川達郎助教に「ギヤードモーターを活用したロボット機構の研究動向」について語ってもらった。
ギヤードモーターを活用したロボット機構の研究動向
【執筆】京都大学大学院 工学研究科 教授 小森 雅晴、助教 寺川 達郎
生産ライン省力化に期待
変速機や減速機はエンジンやモーターの出力を適当な大きさの速度・力に変換する役割を担い、これらを駆動源とする機械装置にとって不可欠なものである。
中でもロボットのようなメカトロニクス機器では減速機とモーターを組み合わせたギヤードモーターが主として利用されており、近年のギヤードモーターの性能向上に伴って多様なロボットが登場している。その一例として、搭載されているギヤードモーターの数よりも多くの自由度を制御可能なロボット機構の研究がある。
製造業を中心に近年注目を集めているロボットの一つにモバイルマニピュレーターがある。ロボットとしてはこれまでロボットアームや移動ロボットが多く利用されてきたが、それらを組み合わせた、両者の機能を併せ持つロボットがモバイルマニピュレーターである。
一般にモバイルマニピュレーターは移動ロボットの上にロボットアームを搭載した構造を有し、それぞれが協調して動作することで物品のピッキング、搬送、ハンドリング、投入といった一連の作業を1台で行うことができる。モバイルマニピュレーターを生産ラインに導入することで今まで以上の省人化、柔軟化の実現が期待されている。
一方、従来のモバイルマニピュレーターでは、ロボットアーム用と移動ロボット用のギヤードモーターが別々となることや、移動ロボットにとってロボットアーム用のギヤードモーターが死荷重となることが構造上避けられなかった。これに対し、「VEMOPAM」と呼ばれるモバイルマニピュレーター(図1)が提案されている[1]。
VEMOPAMは2台の駆動車、3組の受動ねじジョイント、3組の受動回転ジョイント、出力プラットフォーム、それらを接続するリンクから構成される。出力プラットフォームにエンドエフェクター(ロボットハンドなど)が搭載される。各駆動車の運動はリンクとジョイントにより出力プラットフォームの運動に変換される。これにより駆動車を適当な方向へ駆動することで、出力プラットフォームの位置と姿勢を変化させることができる(図2)。
VEMOPAMではギヤードモーターが駆動車のみに搭載されるため、移動時と作業時で同じギヤードモーターを使用することができ、またどのギヤードモーターも駆動車に対し死荷重とならない。
特筆すべきVEMOPAMの性質として、4個のギヤードモーターのみで構成される点が挙げられる。VEMOPAMの出力プラットフォームは図2に示した通り前後・左右・上下の移動とロール・ピッチ・ヨーの各方向への回転を合わせた6自由度に関して運動を行う。
通常のロボット機構の場合、出力部の自由度よりも多くの数のギヤードモーターが必要であり、実際に従来のモバイルマニピュレーターでは、6個以上のギヤードモーターが搭載されている。ところが図2においてVEMOPAMの駆動車は前後への移動もしくは回転しか行っていないため、例えば平行な車輪2輪を独立に駆動する移動機構を用いれば2個のギヤードモーターのみで構成できる。すなわち全体で必要なギヤードモーターの数は4個となる。
このようにVEMOPAMは搭載されているギヤードモーターの数よりも多くの自由度を制御可能という特徴を有する。ただしVEMOPAMと6個以上のギヤードモーターを備えたモバイルマニピュレーターの運動機能が必ずしも同等というわけではなく、VEMOPAMでは、例えば図2の動作を互いに切り替える際に駆動車の向きを調節する準備動作が必要になるなど、いくつかの制約がある。
いずれにせよ、1個のギヤードモーターに対し相対的により多くの役割を持たせられるという点でこのようなロボット機構はギヤードモーターの活躍の場を広げる手がかりとなり得る。
ロボ本体の回転を利用し車輪の向き、移動を同時制御
移動ロボットにおける事例を紹介する。図3は「CRoMop」と呼ばれる移動ロボットである[2、3]。CRoMopは3個の車輪を有し、それぞれギヤードモーターにより駆動される。また各車輪は受動回転ジョイントを介してCRoMop本体と接続されており、自由に向きを変えることができる。その構造は台車やオフィスチェアなどで用いられるキャスターと同様である。
CRoMopの動作について説明する。各車輪を適当な速度で駆動するとCRoMopは任意の方向に移動することができる。一方、CRoMopの構造では3個の車輪が特定の方向を向いたとき、適切に力を発揮できなくなる不安定な状態に陥ることが知られている。そのため、この不安定状態に陥ることなく移動し続けられる移動法が必要となる。
これに対し、本体の回転を利用する移動法が提案されている。図4はこの移動法によりCRoMopが紙面右方向へ移動する様子を模式的に示したものである。CRoMopは本体を一方向(反時計回りの方向)へ回転させ続けながら右方向へ移動しており、図中の各線は本体中心および3個の車輪の軌跡を表している。
ここで移動中の車輪と本体との位置関係に注目する。車輪が本体よりも右側(進行方向前方)にあるとき、本体は右方向へ進んでいるため、車輪が本体へ近づくように車輪の向きが変化する。逆に車輪が本体よりも左側(進行方向後方)にあるとき、車輪が本体から離れるように車輪の向きが変化する。また本体が一方向に回転しているため、本体に対する車輪の位置は右側と左側を交互に通過する。
以上の結果、CRoMopが移動している間、本体から見た車輪の向きは本体に近づく、遠ざかるを繰り返し、一定の範囲で周期的に変化する。従って、不安定状態となる車輪の向きがこの範囲に現れなければCRoMopは安定に移動し続けることができる。ここでは右方向へ移動する様子を取り上げたが、前後左右斜めいずれの方向に移動する場合でも同様の方法で移動が可能である。
CRoMopの運動とギヤードモーターの関係を考える。まず、CRoMopに搭載されているギヤードモーターの数は各車輪に1個、合計3個である。
一方、CRoMopにおいて制御される運動の自由度は、本体の位置と姿勢の3自由度および各車輪の向きの3自由度、合計6自由度である。従って、CRoMopもまた搭載されているギヤードモーターの数より多くの自由度を制御可能なロボット機構に相当する。
CRoMopの移動法では回転という制約と引き換えに、一般的な移動ロボットでは不可能な左右や斜め方向への移動を実現する。同様の運動はオムニホイールやメカナムホイールと呼ばれる特殊な構造の車輪を用いても実現できるが、CRoMopではさらに各車輪の向きを移動と同時に制御することにより通常の車輪(タイヤ付き車輪)の使用を可能にしている。
このことは、低振動性、耐荷重性、走破性などの面で有利と考えられる。以上より、CRoMopは機構と運動の工夫により限られた数のギヤードモーターで新しい機能を生み出した一例であると言える。
ギヤードモーターを利用したロボットに関するそのほかの研究事例として、モバイルマニピュレーターの機構設計法に関する研究[4]、全方向移動ロボットやライディングロボティクスの研究[5-9]、ロボットアームの操作性向上を目指す研究や能力マイニングの研究[10-17]などが報告されている。
また変速機や減速機に関する研究事例として、変速時の駆動力抜けのない変速システムの研究[18]や減速機を一体化した小型ギヤードモーターの研究[19]なども行われている。
【参考文献】
[1] Yao et al., J. Adv. Mech. Des., Syst., Manuf. 2023;17(2):JAMDSM0020.
[2] Lin et al., IEEE/ASME Trans. Mechatronics. 2024;29(4):2510–2521.
[3] 寺川 他,第23回機素潤滑設計部門講演会予稿集 2024;2C1-3.
[4] Long et al., J. Adv. Mech. Des., Syst., Manuf. 2022;16(1):JAMDSM0005.
[5] Komori et al., J. Adv. Mech. Des., Syst., Manuf. 2016;10(6):JAMDSM0086.
[6] Long et al., Mech. Mach. Theory 2021;163:104374.
[7] Terakawa et al., IEEE/ASME Trans. Mechatronics 2018;23(4):1716–1727.
[8] Terakawa et al., J. Adv. Mech. Des., Syst., Manuf. 2019;13(1):JAMDSM0006.
[9] 小森,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集 2020;2A1-O03.
[10] Komori et al., J. Adv. Mech. Des., Syst., Manuf. 2018;12(1):JAMDSM0009.
[11] 小森・宮内,設計工学 2018;53(7):511–26.
[12] Kato et al., IEEE Access 2021;9:45104–22.
[13] Komori et al., IEEE Access 2019;7:176266–77.
[14] Komori et al., Prec. Eng. 2018;53:96–106.
[15] Yao et al., Prec. Eng. 2020;64:288–99.
[16] Li et al., Mech. Eng. J. 2024;11(1):23-00547.
[17] 小森 他,ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集 2024;1P2-J01.
[18] 姜 他,日本機械学会論文集C編 2011;77(782):3871–80.
[19] 寺川 他,設計工学 2017;52(11):683–94.