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経営力向上へ―伴走支援
中小企業基盤整備機構東北本部「ハンズオンセミナー」
企業の成長につなげる「デジタル変革(DX)」推進は、どのように取り組むか。個々の抱える悩みはそれぞれ違う。進むべき道を選ぶには、専門家の知恵も必要になる。伴走支援に力を入れる中小企業基盤整備機構東北本部は11月7日、秋田市のさきがけホールで「ハンズオンセミナー」を開いた。中長期的に専門家を派遣し、個社の課題解決をサポートする制度で、利用企業からその活用事例が報告され、経営改善への一つの道筋が示された。
専門家を継続派遣 経営改善に道筋
「段階的に企業の成長につながるサポートを展開している」。ハンズオンセミナーの冒頭、宮本幹中小機構東北本部長は、各シーンごとに用意している支援制度の利用を呼びかけた。秋田のセミナーには、オンラインも含め約100人が参加した。
中小機構が手がけるハンズオン支援事業は、ITやマーケティング、会計など経験豊富な専門家を継続的に派遣し、企業の経営課題解決をサポートする制度になる。大きな特徴としては、「経営課題の掘り下げ」「全国約1500人の専門家ネットワーク」「企業が主体となる『プロセス型』の支援」「複数の目による丁寧なサポート」の4点を掲げる。
支援メニューには、専門家継続派遣事業、戦略的CIO育成支援事業などを用意する。例えば専門家継続派遣事業では、期間・日数が10カ月・20日程度(月2―3日)。その費用は税込みで1万7500円(専門家1人・1日あたり)になる。
今回ハンズオン支援を利用した事例紹介企業として登壇したユーテック(山形県酒田市)の上野光徳社長は「利用費用は(中小企業にとって)とてもリーズナブルかつ成長に役立った。(中小企業は)もっと利用をしたほうが良い」と指摘する。
事例紹介/ユーテック
今回ハンズオン支援制度の利用先として事例を紹介したユーテックのテーマは「全社員参加型業務システム(DX)による増収増益と人材育成の軌跡」。同社は医療向け滅菌装置などの圧力容器、真空容器(真空チャンバー)などを得意とする。放射光施設などに用いられる加速器用電磁石を製品化しており、独自の加工技術を持つ。
同社が中小機構の専門家派遣事業を利用したきっかけは、「リーマン・ショック」後の業績の下降に直面し、これを打破しようと考えたことが始まりという。事例紹介で上野社長は、「ピンチはチャンス」を強調した。専門家とともに現状分析から計画立案まで、実行から検証・改善まで、そして管理の仕組みづくりまで進めていった。第2段階として、ユーテック方式の管理手法を見いだし、現在の管理手法の礎を築いたという。管理会計の考え方を「TOC(制約理論)」に基づくスループット会計による原価管理に刷新した。
一連の専門家派遣事業を経て、自社取り組みとして、生産管理には生産スケジューラーを導入。「効果的なシステム(DX)導入」を図る素地をつくった。ユーテックが示すDXの定義では「DXは道具(手段)であることを明確化」した。ビジネス目標を達成するため、全員参加型経営による変革を掲げる。
コロナ禍の20年からは、戦略的CIO育成支援事業の活用に入った。プロジェクト・リーダーに選ばれたのが上野雄登生産管理部係長。当時は入社1年目で、「問題点の洗い出しを進めた」という。若手で組織するチームがプロジェクトを推進し、同事業(A型)の第3期を終えた。現在では、各業務のデジタル化により、収集できるデータの幅が広がった。今後は各部署でのそれぞれのデータのフル活用などを目指す方向性になる。
支援制度活用 成長へのポイント―パネル討論会
会場ではハンズオン支援による会社のDX化の取り組みについてパネルディスカッションも開かれた。ユーテックと中小機構東北本部が支援制度を活用した成長へのポイントについて意見交換した。
ユーテックの上野光徳社長は「全員参加型による社員一人ひとりの意識向上があってこそ今日があった」と強調した。自主自立に向けて、改めて組織づくりの重要性を指摘した。
ハンズオン支援とは伴走していくということになる。今回の支援の中で、どのような伴走が実施されたのか。
リーマン・ショック後、当初にアドバイザーとして同社と関わった八重嶋征夫元中小機構東北本部プロジェクトマネージャーは、「改善活動の継続により、体質的に企業の力が強化されてきた」と指摘する。組織体制が段階的に高まっていくための伴走がうまくできたと振り返った。社員全員参加の「見える化」も同社の文化として定着していくことになった。
最高情報責任者(CIO)の育成に向けた若手の活用もユーテックの特色となった。戦略的CIO育成事業の活用の中で、どのように社内で取り組みを進めたのか。
ユーテックの上野雄登係長は、「全社員からのヒアリングから問題点が把握できた」とし、当初のステップを説明した。約180件の課題が浮上し、それをシステムでどう解決できるのか。そこからアドバイザーとの伴走が始まったという。そして、社員が満足できるシステム選定にも取り組めるようになった。
実際にCIO育成へのサポートを務めた山口康雄中小機構東北本部中小企業アドバイザー(経営支援)は、「若手によるプロジェクトメンバーを見てびっくりした」という。果たしてIT導入できるのか。すでにスケジューラーを導入しており、システムの高度化にはハードルが高い印象を持った。若手の意見がどんどん出てくる雰囲気をつくりながら、プロジェクトが進むように配慮したという。
「トータルで約7年お世話になった」という上野社長。ハンズオン支援を活用し、ようやくスタートできる体制になったとみる。これからも全社員の力を結集して自助努力の道を歩み続ける。専門家とともに目標を達成してきたことが、「大きな自信にもなっている」と話した。