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栃木産業人クラブ 産学官金情報交換会
栃木産業人クラブ(菊地義典社長)は2023年12月、ホテル東日本宇都宮(宇都宮市)でカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)をテーマに「産学官金情報交換会」を開催した。栃木県産業労働観光部や栃木県産業技術センター、栃木県産業振興センターが県の施策方針や企業支援施策を解説した。県内の大学、金融機関はそれぞれCNにつながる取り組みを紹介した。基調講演はナカニシの有賀浩一執行役員が二酸化炭素(CO2)排出を「スコープ1」「スコープ2」の双方でゼロにした取り組み内容を報告した。
カーボンニュートラル 産業成長の好機に
「とちぎグリーン成長産業創出プロジェクト」アクションプラン策定
石井 カーボンニュートラルは世界的な潮流が加速する中、産業界も長期的に取り組まなければいけないテーマだ。
県では22年に「とちぎ2050年カーボンニュートラル実現に向けたロードマップ」を策定するとともに、産業分野における県の取り組みの基本姿勢や方向性を示した「とちぎグリーン成長産業振興指針」を策定し、県民、企業、市町などオール栃木で脱炭素化を進めている。23年3月にはロードマップの重点プロジェクトの一つである「とちぎグリーン成長産業創出プロジェクト」のアクションプランも策定した。
モノづくり県の栃木には技術力を持つ中小企業が集積している。CNに資する新しい技術、事業、製品、サービスを打ち出せれば、企業の事業成長につながるので、その取り組みを支援し、経済との好循環を生み出したい。関連する支援を展開しており積極的に活用してほしい。
鱒渕 とちぎグリーン成長産業創出プロジェクトのアクションプランでは30年度までの目標と方策を示している。例えば、自動車では「電気自動車等関連部品製造による県内自動車産業の発展」や「サプライヤーの新分野進出が進み、県内企業経営基盤が強固になること」を30年の目指す姿とした。
このため県は次世代自動車の最新動向について知識取得の支援を800社に行うとともに、技術開発関連で電動化に向けた対応支援を1000社に行うこととしている。こうした目標と方策を各分野ごとに定めている。
現在の実施事例を二つ説明する。「カーボンニュートラル経営セミナー」で国内トップクラス企業の取り組みを伝えた。企業誘致と定着強化に向けた補助金事業も実施している。土地、建物、設備への投資を支援するもので、CNに役立つ投資には補助率を5%へ引き上げている。
岡本 自動車、航空宇宙、医療福祉機器の「戦略3産業」について産業ごとに産学官金の「産業振興協議会」を設置し、重点支援している。また「AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ロボット」「光学」「環境・新素材」の「未来3技術」として「未来技術フォーラム」を設置。交流事業や研究開発の助成、販路開拓に向けた技術展示会などを行っている。
CNでは「中小企業の製造工程脱炭素化の取り組みに対する支援」「脱炭素化に係る技術の育成支援」「脱炭素関連技術・製品の活用促進、販路拡大」「自動車産業の電動化等対応支援」の各施策を中心としている。
22年には栃木県産業振興センター内に自動車関連企業の電動化を支援する「とちぎ自動車部品サプライヤー支援拠点(AST)」が開設された。県もこの拠点と連携を図り企業の状況に応じた施策を行っていく。
久利生 「サービス産業におけるカーボンニュートラル機運醸成事業」において、県内サービス産業事業者の機運醸成を図るため、サービス産業を対象とした講演会や先進事例の紹介を実施したところ、約160人にご参加いただいた。
制度融資による資金繰り支援は「カーボンニュートラル推進融資」として中小企業のCNに向けた設備投資や技術開発を支援している。「原油・原材料高騰等緊急対策資金」は原材料価格の高騰や円安の影響を受けた企業が対象。23年度に創設した伴走支援型特別融資でも返済に苦しむ中小企業の借換などを支援している。
また、県内商工3団体、東京海上日動火災保険と協定を締結し、事業継続計画(BCP)策定を希望する事業者に対して、専門家を派遣し、BCP策定や見直し等の支援を無償で行っている。これらの施策を通じ、CN促進と経営改善や事業継続を支援したい。
関本 「脱炭素化技術開発等支援会議」にデジタル技術活用、新素材の活用など5プロジェクトチームを設置し、技術情報の収集や研究開発支援、人材育成に取り組んでいる。「脱炭素社会実現技術研究会」では自動車の軽量化に向けた金属と樹脂の接合などについて有識者による講演を実施。マルチマテリアル化と再生材料・バイオプラスチックの2ワーキンググループを実施している。
研究開発では、環境負荷が小さい「海洋生分解性バイオマスプラスチック」の用途拡大へ、22年度に高強度の複合材料を開発した。23年度は耐久性の高い「透明樹脂用紫外線遮蔽材」の開発や、焼成ドロマイドを利用してリサイクル樹脂から抗菌性樹脂を作成する条件の確立に取り組んでいる。これらのテーマで新たな知見を得て県内製造業を支援したい。
施設ではマルチマテリアル化に向け材料の表面改質や解析、評価の支援拠点を整備した。また、24年度の供用開始に向け、フードロス低減へ未利用食品などの素材化を支援する拠点の整備を進めている。
辻 「とちぎグリーン成長産業創出支援事業」として県内企業CNに資する新技術、新製品開発を検討段階から実用化開発まで支援している。県の補助金により基金を造成し、企業の研究開発を助成している。
経済産業省の委託を受けとちぎ自動車部品サプライヤー支援拠点を運営しており、専門コーディネーターの窓口相談や専門家派遣、セミナーにより自動車の電動化やCNの影響を受ける中堅・中小サプライヤーの事業再構築、事業転換を支援している。
「SDGs推進企業登録制度」は23年10月登録期までに788件、771者が登録した。SDGs(持続可能な開発目標)推進の機運醸成に努めている。
「とちぎ気候変動対策連携フォーラム」では気候変動の影響への理解を深め、対策や適応ビジネスの創出を支援している。今後も国や県をはじめ関係機関と連携し企業の取り組みを支援していく。
高山 宇都宮大学ではCN関連でいろいろな分野の教員が産学連携を求めている。
国際学部の高橋若菜教授らは県のCN移行戦略を練っており、モビリティーやエネルギー効率向上について基礎データを収集し、戦略策定する研究をしている。地域デザイン科学部の藤本郷史准教授はCO2を原料とする完全リサイクル可能なCNコンクリートの開発に参加している。農学部の菱沼竜男准教授はライフサイクルアセスメント(LCA)の取り組み事例について基礎的な検討を進めている。
エネルギー分野では水素の活用が重要だ。工学部の佐藤剛史教授は水素エネルギーの活用に向け、水素透過膜電極による水電解水素・水素キャリアの製造を研究している。電解により水素のみを取り出せる金属を用いて、液体状の水素キャリアを製造し、エネルギーとして活用する。
眞坂 交通分野で、特に通勤の低炭素化に取り組んでいる。運輸部門のCO2排出量は自家用車が4割以上で、低減が求められる。
社会実験では、健康増進効果を動機付けとして、徳島県の工業団地の14事業所で1カ月、できる範囲で自転車や徒歩通勤への転換を促した。参加者は136人で、環境効果として1カ月で4・2トンのCO2排出量削減効果があった。また自転車・徒歩通勤の継続によって、人体の高血圧発症リスクは16%、2型糖尿病発症リスクは15%削減できると予測できた。
他にも徳島県庁や中山間地域の町役場で社会実験を行っている。地域と共同で低炭素化を提案していく。企業には通勤の低炭素化も検討してもらえれば。
春日 人文社会科学系の大学として、省エネや再生資源の活用と、その実現に向けた人材育成の二つの方向性で取り組んでいる。CN推進に向け教育研究環境を整備している。「グリーン成長戦略」に向けては経営学部と人間文化学部の2学部で人材育成を進める。イノベーション推進の分野は情報センターが携わり、機能充実を図る。
自然災害への対応も重要だ。当大学では7年ほど前から防災士養成研修講座を開催し、人材育成に努めている。直接的にCNを実現するのではなく、グリーン成長戦略に置き換える形で推進していく。
竹内 「カーボン・マネジメントコンサルティングサービス」を展開している。顧客のCO2排出量を算定し、削減目標の設定を支援する。目標設定ではSDGsに準じた目標を設定し、認定の申請支援、削減手段の検討も実施している。
大手上場企業は取引先や調達先の排出量削減も求められるが、この把握と削減は困難。サプライヤー目線では新たなビジネスチャンスになり得る。
排出量の把握では、事業拠点のどこで多く排出しているか、その範囲を正確に把握することが重要だ。数値化することで削減余地の確認もできる。現状の把握と目標設定、削減実行のサイクルを回すことで計画的な排出量削減とPRにつながる。
SDGsはグローバルスタンダートとなっており、投資家や消費者目線でも重要性を増している。国内でも公共工事における加点や、補助金での優遇措置が受けられる。
大塚 クリーンエナジー・ソリューションズ(CES)は栃木銀行がアイ・グリッド・ソリューションズと共同出資で設立した。顧客の初期投資なしで太陽光発電設備を設置するオンサイトPPA事業を手がけている。
発電した電力は顧客に売電し、使用してもらう。電力会社から供給されていたうち2割程度をまかなうこととなる。初期投資に加え、メンテナンスのコストも不要となるメリットがある。デメリットとしては長期間の契約のため建物の修繕など自由度が低い。カワチ薬品やマニーで設置を進めている。
元々、地域内での経済循環による地域活性化のため事業開始した。県外に支払っていた電気代を県内で回せるようにしたい。再生可能エネルギーを地域の脱炭素化、レジリエンス(復元力)強化につなげ、地域経済の活性化を図っていく。
基調講演/GHG排出量削減「スコープ3」などの取り組み加速
ナカニシは「栃木の美しい自然の中でモノづくりをしている」ことを大切にしている。国内全産業の温室効果ガス(GHG)排出量は4億6800万トン(2020年時点)で、85%超を製造業が占める。また、栃木県内でもここ何年か地球温暖化が原因と思われる大きな自然災害が発生している。
自然環境は人々の生活に不可欠な社会資本であり、サステナブル経営の重要テーマでもある事から、ナカニシの排出量は小規模ながらも、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)に立ち向かっている。
対外的な評価も理由の一つだ。近年はSDGs(持続可能な開発目標)への機運の高まりから、投資家は当社がESG(環境・社会・企業統治)にどれだけ力を入れているか注視している。特に当社の販売比率が高い欧州では環境面での積極的な貢献が期待される。
ナカニシのCNの基本的な考え方は、省エネ活動がベースだ。これがなければ、CNが社内へ波及せず、全社的な機運も高まらない。21年に中期環境計画「グリーンプラン2030」を策定した。GHG排出量の削減目標を具体的に数値化し、従業員への浸透を図っている。この中期環境計画は21年8月の改定で事業者自らが直接排出するGHG排出量の「スコープ1、2」を30年までにゼロとする目標を掲げた。
再生可能エネルギーの導入や、GHG排出削減量を国が認証する「J―クレジット」の購入を積み重ね、21年12月より現在まで、スコープ1、2をゼロとしている。またGHG排出量の算定値及びCN規格の適合性について第三者機関の証明を受け、正確性と透明性を担保している。
省エネ活動では、これまで空調や生産設備などの更新、エアーロスの修繕、コンプレッサーの元圧低減、オイルミストコレクターの集塵機能適正化など、改善活動を継続的に実施してきている。常に改善点を探す中で、第三者機関による省エネ診断を受けることもある。
22年9月にはA1工場内に「A1+」棟を稼働させ、この建屋に太陽光発電設備を導入した。また、24年に一部操業開始する「M1」棟にも導入を予定している。
自社の省エネ活動で削減出来ない電力は、再生可能エネルギーを調達してスコープ2をゼロとしている。電力以外のエネルギーは「J-クレジット」を購入し、スコープ1排出量分と相殺している。
地元栃木県の環境保全に貢献している企業からの購入を優先し、足利銀行をはじめ関係各社の協力により県内で初めて森林吸収由来のJ-クレジットの導入を図った。
企業の生産活動以外で排出される「スコープ3」は、製品が使われた際に排出する二酸化炭素(CO2)や、取引先の部品生産で出るCO2も含まれ、当社だけでの低減は非常に難しい。顧客や協力会社と協力し進めなければならない。
ナカニシでは、事業活動に直接関係する範囲で、スコープ3の排出量削減を進めている。その一つが、廃棄物の排出量削減(スコープ3・カテゴリー5)だ。ナカニシの産業廃棄物排出量は19年には16万3000キログラムで、23年9月には4万5000キログラムまで削減できた。油脂やユニホーム、洗浄水など再利用する価値が残っているものを、資源として積極的に再利用した。
産業廃棄物排出量を削減することは、運搬回数や運搬車両台数の削減に繋がり、ガソリンの消費が抑制され、輸送時のCO2排出量も削減できる。
22年度からは、食堂の食品残渣(ざんさ)を鹿沼市が運営するバイオマス発電事業に提供するなど、資源の有効活用にも努めている。
スコープ3を含め、やるべきことがまだまだある。ナカニシは、これまで日本国内でモノづくりを行っていたが、昨今、海外の会社を買収したことで、ヨーロッパやアメリカにも生産機能を保有するようになった。そこで、改めてグループ全体の電力使用量を捉え、CO2排出量削減につなげていく事を検討する。また、スコープ3は各関係者と情報交換しながら、モノづくり工程の川上から川下も含め取り組む。
最近では、CNの実現にはサーキュラーエコノミー(循環経済)の考え方を取り入れることが重要と言われている。さらにCNを進める中でサーキュラーエコノミーを取り入れ、包装材や成型品など、我々の製品を支えるいろいろなものに、CO2排出量を抑制できる再生材を使うなど、さらにレベルを向上させていく。
これからはサーキュラーエコノミーにどれだけ踏み込めるかがカギだ。まず自分たちでできることを広げていく。これまでの取り組みにサーキュラーエコノミーを加え、持続可能な事業を実現し、栃木の美しい自然を守ることにつなげる。