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中部の表面処理(2023年12月)
表面処理は材料に強度や耐久性などの付加価値を与え、製品の長寿命化に貢献するモノづくりを支える重要な工程。メッキや溶射、焼き入れ、ショットピーニングなど、さまざまな方法が存在し、ニーズに合わせて日々新たな技術の開発が進んでいる。製造業のメッカである中部地区では、本格化する電気自動車(EV)化に向け、長寿命化や耐久性の向上に貢献する表面処理技術が広がっている。
付加価値与える新技術の開発進む
EV化のニーズを反映
中部地区は自動車や航空機産業などが集積し、モノづくりで産業を発展させてきた。材料や部品に強度や耐久性などの付加価値を与える表面処理関連企業も多く立地し、付加価値の高い製品を生み出している。特に近年重要視されるようになっているのが、製品の長寿命化に関わる技術だ。中小企業にも脱炭素化社会の実現に向けた取り組みが広がり、長く使用できる製品を生産しようという動きが加速している。材料や構造を変えずに耐久性を付与できる表面処理は製品の長寿命化を実現する技術として注目が高い。
さらにEV化が本格化する自動車産業においては車体の軽量化や部品の大型化に対応するため、表面処理の活用も広がる。部品そのものの耐久性を高めるだけでなく、部品の大型化に伴い金型にも従来以上の耐久性が求められている。今後、大物部品を一体成型する「ギガキャスト」も普及すると見られ、金型の耐久性の向上は同地区の産業にとって重要な課題となる。EVが主流となれば部品点数が大きく減少し、表面処理全体の需要も減少する。選ばれるメーカーとなるためには、付加価値の高い技術の提供が不可欠だ。表面処理事業者だけでなく、各部品メーカーらも蓄積したノウハウを活用し、新たな表面処理技術の開発を進めている。
脱炭素化、腐食対策など
二酸化炭素(CO2)の排出がない表面処理としてあらためて注目されているのが、高周波焼き入れだ。対象物を高周波電流で加熱し、急冷することで表面を硬化させて耐久性を向上する表面硬化処理。電気で加熱するため処理そのものにはCO2が発生せず、脱炭素を目指すメーカーにとってはメリットが大きい。加熱に使うコイルの選択で部分的な焼き入れも可能。必要な部分だけ処理を施すことができるのも利点だ。
溶射は、セラミックスや金属などの材料を加熱し、対象物に吹きつけて被膜する技術。耐食性や耐熱性、耐摩耗性、絶縁性などを付加することが可能だ。EVでは軽量化や放熱対策にアルミやマグネシウム、銅などボルト材料に鉄とは異なる材料の採用が増え、異種金属の接触で起こる腐食(ガルバニック腐食)の対策が必要となる。ボルトに被膜を作る技術の研究が進められている。
金型の耐久性を高める処理として、ガス軟窒化処理やショットピーニングを活用するメーカーもある。ガス軟窒化処理はアンモニア(NH3)を含んだガスを高温にすることで、材料の表層に窒化物と炭化物の化合物層を形成。耐摩耗性や耐焼き付け性、耐久性などを向上させる表面処理。ショットピーニングは微細な金属の球を加工物に打ち付け、表面に細かい凹凸をつけることで耐久性を高める。二つを組み合わせればより高い性能を引き出すこともできる。ギガキャストの普及を見据え、大型のダイカスト金型への表面処理の受託を始めた金型メーカーでは、ショットピーニングとガス軟窒化処理に加え、酸化皮膜で金型の表面を保護する「コーキャスケア」を提案する。ダイカスト金型の耐久性を2―3割向上できるという。今後も表面処理技術の進化に期待がかかる。