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サウンドテクノロジー
人々の生活を彩ってきた音楽は現在では先進技術と融合し、新たな可能性を生み出し続けている。浜松市に本社を置くヤマハとローランドは、電子楽器やオーディオ機器製造などで培った技術を生かし、現代人の生活に合わせた楽器や、クリエイターの創作スタイルに沿った製品の開発を進めてきた。蓄積したノウハウを活用し、最新製品の投入にも余念がない。両社はたゆまぬ技術開発により、音楽の新たな可能性を追求している。
蓄積したノウハウを技術開発に活用
ヤマハ/新たな音楽文化生んだボーカロイド 昨年発売20周年
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ボーカロイドの普及により多くのユーザーが作曲を楽しむようになった
2024年に発売から20周年を迎えた「VOCALOID(ボーカロイド)」は、ヤマハが開発した歌声合成技術とその応用ソフトウエア。歌詞と旋律を入力するだけで「歌声(楽曲のボーカルパート)」を作れる。現在は80種類以上の歌声のデータベース「ボイスバンク」から歌声を選び、楽曲制作時のボーカルとして使用できる。現実の歌手なしに、パソコンだけで歌唱制作ができることが多くのユーザーに受け入れられている。米津玄師やYOASOBIのAyaseなどボーカロイドで作曲していた著名アーティストも多い。
ボーカロイドは03年の独楽器ショー「Musikmesse」で発表された。「vocal」と「android」を組み合わせ名付けられ、歌声の電子楽器化という新しい試みに関心が集まった。04年の米楽器ショー「The NAMM Show」では、ボーカロイド1を使用した最初のソフトを一般販売した。
さらに大きな注目を集めたのが、07年にクリプトン・フューチャー・メディア(札幌市中央区)が発売した歌声合成ソフト「初音ミク」だ。第二世代ボーカロイド2をエンジンに、クリプトン製の歌声データベースをセット。アニメキャラクターのような女の子の歌声を簡単に作り出せると大ヒットした。
ボーカロイドはアーティストとのコラボレーションでも話題を呼んだ。08年にインターネット(大阪市中央区)が歌手GACKTの声をベースに制作した「がくっぽいど」を開発。15年にはヤマハが小林幸子をもとにしたボイスバンク音声ライブラリ「Sachiko」を開発・発売した。さらに19年には故美空ひばりの歌声を再現する取り組み「AI美空ひばり」に携わった。故人の歌声から新しい曲の作成にAI(人工知能)を活用した取り組みは記憶に新しい。
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AI機能対応の新たなボイスバンクも増えている
楽曲制作機能も進化を続ける。14年発売のボーカロイド4では、声を震わせてうなるような効果が得られる「グロウル機能」、ボイスバンクから二つの歌声を交ぜて音色を調整できる「クロスシンセシス機能」などを追加した。18年発売のボーカロイド5では、制作フローを刷新。2000種類以上のプリセットフレーズやオーディオをドラッグ&ドロップするだけで歌の土台が作れる新しいフローを追加した。22年に発売した最新のボーカロイド6は、歌声合成エンジンに同シリーズで初めてAIを搭載。実在の歌手の音色や歌い回しなどを学習したデータをもとに、入力された旋律と歌詞に応じた歌い方を推定して合成する。また専用のボイスバンクでは、日本語、英語、中国語の3カ国語を織り交ぜた歌唱ができる「マルチリンガル機能」を用意し、国際的な作曲活動も支援する。
ボーカロイドは作曲活動をより多くのユーザーに広げ、新たな音楽文化や派生流行を生み出してきた。今後も時代を先駆ける製品開発が注目される。
ローランド/静粛性高めた電子ドラム 従来比75%軽減
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家庭や集合住宅でも振動を気にせず演奏できる
電子楽器メーカーのローランドは全てのドラマー向けに電子ドラム「VQD106」を提案する。同製品は40年にわたる同社の電子ドラム開発で培った多種多様な独自技術を生かし「静粛性の追求」をコンセプトとした。品質の高いサウンドと演奏性を備えながら、打撃音と振動ともに同社従来製品の「Ⅴドラム」より同社設定条件下で75%軽減した。集合住宅に住むユーザーも周囲への騒音や階下への振動を気にせずドラム演奏が楽しめる。
ドラムパッドやスタンドの設計を一新し、振動の発生を抑えた。スネアパッドには、リムショットに対応するリム径10インチの「PDQ-8S」、タムパッドにはパッド径8インチの「PDQ-8」を採用。シンバルはエッジショットとシンバルチョーク奏法対応の12インチシンバル「CYQ-12」で構成する。フローティング構造を採用し、演奏感を損なうことなく高い静粛性を実現した。いずれもハニカム形状のソフトラバーと「メッシュヘッド」を組み合わせた。底面を多孔構造にすることで叩いた際に空気の圧力が解放され、打面やシンバル、パッドのフレームが鳴るのを防ぐ。
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各パッドに静粛性を高める構造や技術を多数採用した
バスドラム(キック)用のパッド「KDQ-8」は、2層のメッシュヘッドと多層クッションに加え、フローティング構造の多孔フレームを採用。心地良い打感と演奏感を保ちつつ、振動・打撃音を抑制した。半球状のゴム足とボール・ビーター「KDB-Q」で構成。形状、材質を最適化し静粛性をより高めた。ツインペダル奏法にも対応する。
各パッドを支えるスタンドは半球状の防振ゴム足をセットし、振動の伝わりを軽減。パッドやスタンドに加え、キックペダルとハイハット専用のノイズイーターを組み合わせることで床面への振動の響きを減少。階下への騒音を防止する。動画配信サイト「ユーチューブ」ではVQD106を住宅の2階で演奏した際に1階に伝わる騒音検証を配信。平均値29・4デシベルとささやき声程度の大きさに抑制した。
音源モジュールには「TD-07」を採用し、25種類のキット(音色の組み合わせ)を搭載した。音色はユーザーが編集することも可能だ。また独自のセンサー技術で演奏の繊細なニュアンスも表現する。自然な音色変化で、アコースティックドラムと遜色ない演奏感を実現した。
さらにスマートフォンとワイヤレスで接続して音源やレッスン動画に合わせて演奏も可能。リズム感覚を鍛える基礎練習機能「コーチ・モード」も内蔵し、さまざまな演奏レベルのユーザーが技術を磨くことができる。USBケーブルでパソコンと接続し、録音もできる。
音源モジュールが付属しないモデル「VOD106PADS」もラインアップ。同社のドラム用音源モジュール「Ⅴ71」「TD-50Ⅹ」「TD-27」「TD-17」に対応する。