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静岡県産業界
静岡県産業界は積極的に事業を展開する大手企業が数多く集積し、中堅・中小企業は手堅い経営で着実に業容を拡大している。一方で昨今は、米国の通商政策や国際政治情勢の混迷、グローバル経済の不透明感の影響は避けられない。国内でも物価上昇や少子高齢化といった課題が山積する。しかし、これまでも難局を乗り越えてきた県内企業はさらなる成長を目指している。自動化や防災、外部との連携、既存技術を生かした開発など、各社が実行していく新たな戦略は多種多様だ。
新製品や技術の開発進む
ベーパーチャンバー内製化
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高い熱伝導性と熱拡散性を兼ね備えたベーパーチャンバー
アルファ(沼津市)は、電子機器向け放熱部品のベーパーチャンバー市場に参入した。市場では台湾製や米国製が多く、生産する国内企業は少ないという。生産設備を自社で製作し、内製化してコストを削減することで、他社製品と同等性能を維持しつつ価格を10%程度安価にできる。電子機器の熱対策に使うベーパーチャンバーの需要拡大を見込み、主力製品のヒートシンクに次ぐ事業の柱に育成する。年間1億円の販売を目指す。
ベーパーチャンバーは銅製の薄肉ケースの内壁に銅の金網を接合し、熱源部に多孔質ウイックと呼ばれる毛細管を配置した構造。内部を真空状態にして純水を封入している。作動液体は熱源側で蒸発し、冷却側で凝縮するサイクルを繰り返す。毛細管現象によって流体がウイック内を循環することで、熱を効率的に広範囲に拡散、輸送できる。
1個から製作し、80ミリ—120ミリメートル角に対応。消費税抜きの価格は90ミリメートル角で6000円。
自動運転トラック支援
鈴与(静岡市清水区)は、T2(東京都千代田区)に出資した。T2は2027年に特定の状況で自動運転可能な「レベル4」でのトラック輸送を事業化することを目指している。鈴与は出資を通じてT2が描く次世代の物流の創造を支援し、社会全体が直面する課題の解決に貢献する。
鈴与は7月からT2、月桂冠(京都市伏見区)と共同で、T2が開発した「レベル2」の自動運転トラックで日本酒を幹線輸送する実証実験を関東・関西の高速道路一部区間で始めた。9月までに計3回(片道)を予定。自動運転トラックによる物流の持続可能性が確保できるかを検証する。T2は22年8月に設立したスタートアップ。
12月に新機種投入
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スター精密が投入する自動旋盤「SP—32」
スター精密は主軸移動型(スイス型)自動旋盤「SPシリーズ」の新機種を12月から国内外で発売する。最大径32ミリメートルまでの加工が可能なほか、バリ取りを機械内で簡単に行える新機能を追加した。同シリーズの工具取り付け本数の多さなども訴求し、データセンター(DC)向けIT関連機器や自動車、空圧装置など幅広い業種の加工ニーズに対応する。価格は消費税抜きで1090万円。年300台の販売を目指す。
新機種の「SP—32」は主軸回転数が正面、背面ともに最大毎分7000回転。正面加工用刃物台は、2023年に発売した「SP—20」と同様、中央のガイドブッシュを取り囲むように構成した門型刃物台を採用した。手前側にバイトホルダー6本型、奥側に6軸型のクロスドリルユニットを搭載。6軸のうち4カ所をカートリッジ式ポジションとして、加工部品の形状に応じて多彩な工具ユニットを装着できる。
背面加工専用刃物台は、4軸型ユニットまたは5軸型ユニットを選べる。正面と背面でさまざまな回転工具を使い、工程分割と同時加工によりサイクルタイムの短縮を実現する。
ノウハウ生かし、自動化支える/バリ取りロボをパッケージ化
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必要な装備一式を筐体内に収めた
松下工業(磐田市)は、鋳物に中空部分を作る砂型「中子」用のバリ取りロボットシステムのパッケージ製品「中子バリ取りロボット(NBR)」を開発し、発売した。必要な装備一式を筐体(きょうたい)内に収めた。中子メーカーである自社の自動化ノウハウを活用した。主に自動化が進んでいない中小企業に、省人化やサイクルタイム削減などの導入効果を訴求する。NBRは、産業用ロボットや中子のバリを取るダイヤモンドヤスリ、工具回転用のモーター、テーブル、安全装備などを角パイプフレームに収納した。
上位仕様2機種は付加軸でテーブル上の中子を反転できる。ロボットは安川電機製かファナック製の可搬重量8キログラムモデルを選択する。
本体のサイズは縦・横ともに1000ミリ×高さ2050ミリメートル。加工対象物(ワーク)のサイズは最大で縦300ミリ×横450ミリ×高さ300ミリメートルを想定する。バリ取り後に発生する砂は外に漏れない構造とした。
松下工業は自社技術を生かし、中子の製造工程に特化したロボットシステムインテグレーター(SIer)事業を展開する。実機は社内でも複数台活用するほか、SIer事業の拠点である富里工場(同市)に常設する。今後NBRはラインアップの拡充や、中子以外のワークへの転用も模索する方針だ。
CGでロボ動作確認
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CG空間でAMRの動作を確認できる
三栄ハイテックス(浜松市中央区)は、自律移動ロボット(AMR)や飛行ロボット(ドローン)の動作をコンピューターグラフィックス(CG)空間で確認できるシミュレーター「ロボットシナリオシミュレータ」を開発し、発売した。ロボットの運用検討時に、現地まで行かなくても繰り返し試験を実施できる。半導体設計やソフトウエア開発を受託してきた同社として初のソフトの標準商品の販売で、新たな顧客を開拓する。
CG空間は3種類。農園での収穫作業を再現できる「収穫ロボット」や都市部で飛行経路を設計する「ドローン」、グリッド上でAMRを模したロボットを動かす「シンプルビークル」。シンプルビークルではロボットオペレーティングシステム(ROS)で設計した制御プログラムをアップロードして実行できる。シミュレーションを複数人で同時に確認・共有できる「メタバース機能」も搭載する。
今後、再現環境の追加や要望に応じたオリジナルのCG空間の作成も受ける。
停電時に自動給電
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PHVなどの外部電源をつなぎ屋内へ自動で給電する
AEF(磐田市)は、停電時に複数の電源と建物を外部から容量15アンペアの最大3系統で接続し、建物内の指定回路や各種機器に自動で給電するシステム「バックラックス」を開発、発売した。
各種電源を専用プラグケーブルで各系統に接続。停電時は電源から各系統と、それぞれが独立してひも付いた機器やコンセントに自動で給電する。一般家庭や介護施設、医療機関などの需要を取り込む。
想定する電源は発電機やプラグインハイブリッド車(PHV)のような給電機能付きの車両、蓄電池のほか、可搬型外部給電器を介せば電気自動車(EV)からの給電も可能になる。外部給電時に15アンペアを超える負荷がかかると給電が止まる。バックラックスの製品構成は屋外中継ボックスと商用電源から外部電源への自動切替スイッチを内蔵した分電盤、専用プラグケーブル。工事は別途必要になる。
近年は災害発生時に、状況に応じて自宅避難を推奨される場面がある。商用電源が止まってもそのほかの電源で給電できれば、安全に自宅避難できる。
バックラックスの実機はAEFの本社で見学できる。
オーディオ向け整流器に新製品
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アンプ向け半導体整流器「SSR—SB」
テクソル(浜松市中央区)は、交流電源を直流電源に変換するオーディオやギターアンプ向け半導体整流器のラインアップに「SSR—SB」を追加し、発売した。炭化ケイ素(SiC)ショットキーバリアーダイオード(SBD)を採用し、逆電流時のノイズがほぼ発生しない。消費税込みの価格は3960円。年間販売目標は1000個。
真空管整流器から半導体整流器に置き換えることで、真空管の寿命を気にせず使用できる。整流効率が高まりアンプの出力が増加するほか、起動時間を短縮できる。SSR—SBは近日中に浜松市のふるさと納税の認定を受ける予定。
バリ取りの専門展、浜松で初開催
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2024年12月に開かれたDSC協会の展示会でも取り組みが注目された
バリ取り・表面仕上げ・洗浄協会(DSC協会、東京都大田区)は今日と明日に浜松商工会議所(浜松市中央区)で、展示会「第1回DSC協会仕上げ加工技術展in浜松」を初開催する。浜松での開催には同市に拠点を置き、3社の連携でバリ取りの課題を解決する「TAFLINK(タフリンク)」が関わっている。タフリンクは東洋鉄工所(浜松市中央区、北村和彦社長)とアラキエンジニアリング(同区、荒木弥社長)、藤本工業(同市浜名区、藤本武洋社長)が技術を持ち寄りバリ取りを自動化する事業で、2020年から活動している。今回浜松での展示会では実質的な事務局を担っている。
DSC協会は加工の最終工程であるバリ取りや表面仕上げ、洗浄の技術向上を目的に23年に設立された。理事長はバリ取り技術の第一人者である北嶋弘一関西大学名誉教授で、荒木社長は監事を務める。2輪や4輪、船外機の一大生産地である静岡県西部はアルミニウムダイカスト製品を大量に取り扱い、バリ取りの委託側と受託側が集積する。バリ取りへの関心は高い地域だ。荒木社長は「展示会を通じバリ取りに関わる工法を発信できたら」と話し、経営者や生産管理部門の来場者を見込む。
展示会はDSC協会会員外を含め18社が出展する。バリ取りや表面仕上げ、洗浄と多彩な出展内容で、「多様なバリ取りや仕上げに関する課題を解決するヒントがそろった」(藤本社長)。小物であれば会場に実物を持ち込んで、「その場で出展社に相談して欲しい」(同)と呼びかけている。
来場者は出展社に直接バリ取りでの課題や自動化などの相談ができ、課題に応じた技術提案も聞ける。出展各社によるセミナーも開催する。来場には協会のウェブサイトからの事前登録が必要。当日会場での登録も可能。
