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静岡県産業界
静岡県産業界は積極的に海外展開する企業が数多く集積し、中堅・中小企業は手堅い経営で着実に業容を拡大している。一方で昨今は、米国の通商政策や国際政治情勢の混迷、グローバル経済の不透明感の影響は避けられない。国内でも物価上昇や少子高齢化といった課題が山積する。しかし、これまでも難局を乗り越えてきた県内企業はさらなる成長を目指し、新製品の投入や新たな戦略の実行に動き出している。
新製品投入相次ぐ
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同時4軸制御のB軸採用 スイス型自動旋盤を発売
スター精密は棒材の最大加工20ミリメートル対応のスイス型自動旋盤「SR―20RIVモデル」の新機種「タイプE」を開発し、8月に発売する。同時4軸制御の工具旋回制御軸(B軸)を採用し、従来機よりも広範囲な加工ニーズに対応する。自動車、医療機器など向けに年間240台の販売を目指す。
同時4軸制御が可能なB軸制御付き回転工具ユニットを搭載し、数値制御(NC)プログラムによる回転工具ユニットの自由な角度割り出しが可能。加工中に機械を止めずに角度を調整でき、加工の効率化とともに、3次元ミリング加工などの同時4軸制御を駆使して複雑形状部品の加工に対応する。
SR-20RIVモデルに共通する独自の均等荷重クロスガイド構造を採用した高剛性刃物台などの特徴を装備。安定した精度で長時間連続稼働を実現する。27ポジションの工具ステーションに最大41本の工具を搭載できる。同モデルは手動式の角度調整型回転工具ユニット搭載仕様など、これまでに2タイプを用意。2012年の販売開始以来、累計販売台数は2400台を超える主力機種となっている。
レント(静岡市駿河区)は交通量に合わせた待ち時間コントロールと安全機能を備えたソーラー式信号機「AIガードマンロボット信号機」を商品化し、レンタルを開始した。AI(人工知能)信号機と現場監視機能を持つ「ガードマンゲートユニット」で構成。従来の信号機の誘導効率と安全性を向上し、道路工事現場の業務改善につなげる。同ロボット信号機はレント、ティオック(長野市)、中村建設(浜松市中央区)が共同で商品化した。AI信号機は超音波を利用した車両感知センサーを搭載。交通量を常時計測し、道路状況に応じた規制を実施する。
ガードマンゲートユニットはAI信号機と連動してゲートを上下開閉させる。転倒した際は担当者にメール送信して知らせるほか、工事区間の侵入側と出口側に設置したドライブレコーダーで現場を監視するなどの機能も備える。レンタル機材を使う工事現場は深刻な人手不足と安全性向上への対策が急務となっている。AIガードマンロボット信号機の活用により、交通誘導員不足などの状況改善への貢献を図る。
投資活動活発
新棟や新拠点開設、新会社設立とさまざまな投資活動が活発だ。
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導入した発泡型製作用のNC加工機
平野鋳造所(掛川市)は本社敷地内に鋳造用木型倉庫と鋳造用発泡スチロール製模型(発泡型)の内製現場を兼ねる新棟を完成し、稼働した。既存の鋳造工場と移動しやすい場所に建設し、木型を搬送する手間を削減した。新たに発泡型製作用のNC加工機を増設し、作業スペースも広くして鋳造品の単品の受注能力も高めた。今後鋳造工程の生産性が現状比1割以上向上する見通し。
新棟は鉄骨2階建てで、延べ床面積は約920平方メートル。2階部分を木型倉庫として利用する。今後2年以内には、敷地外に立地する既存倉庫から木型を新棟に集約する。
1階部分は発泡型製作やコンピューター利用設計・製造(CAD/CAM)の作業室にした。新設のNC加工機に加え、既存建屋からニクロム線加工機も移す。24年に2割程度だった発泡型の内製化比率を3割以上に高める。
伊藤鈑金工業所(湖西市)は県外初となる拠点「福岡営業所」(福岡県筑紫野市)を開設し、九州で半導体製造装置の部品加工の受注活動を始めた。成長の期待が高まる半導体業界で精密板金や切削加工の顧客を開拓し、現状の主要顧客である光学機器や電子機器に次ぐ柱に育てる。また早期に九州に製造拠点を設置する考えで、M&A(合併・買収)の活用も視野に入れる。
福岡営業所は半導体製造装置の開発、製造を手がけるKNE(福岡市博多区)と連携して営業活動を展開する。同営業所に当面人員は常駐せず出張で業務を行うが、年内に担当者を1人派遣する。KNEとは伊藤鈑金工業所が外部から招いた人材のつながりで接点が生まれ、24年から取引している。
現状では静岡県内で加工した切削品やカバーなどの板金部品を九州に輸送しているため、混載便の活用で輸送コストを極力引き下げる。半導体製造装置のほかにも、同装置関連周辺機器やさまざまな業界の自動組み立て装置などの部品の受注にも取り組む。設置を目指す九州での生産拠点の能力規模は、今後の受注状況を慎重に見極めながら検討する。
ロボット事業に参入
浜松貿易(浜松市中央区)は、自律移動ロボット(AMR)の販売事業に参入した。近隣の自動車関連企業に工作機械などを提案する事業からの多角化を図る。AMRを全国規模で営業して自動化の需要を取り込み、自動車以外に新たな業種の顧客を開拓する。
取り扱うのはロボットバンク(東京都新宿区)が輸入し、国内向けにカスタマイズした海外製AMR。浜松貿易は専任部署「ロボット事業室」を設置し、ロボットバンクと営業戦略の立案を含め協業する。両社でAMRのアフターサービスを手がける新会社、ロボットバンクサービス(浜松市中央区)も設立した。長期的には両社で連携し、浜松市内でのAMRの開発・製造への参入を構想する。
AMRは搬送物や棚を持ち上げる方式や配膳用など、積載重量は80キロ-600キログラムで複数の仕様を用意した。すでに機械加工後の製品を検査に送る工程間の搬送などに納入した実績がある。工程間の搬送を自動化する提案を軸に、強みを持つ生産設備などの商機にもつなげる。
地域防災支える技術専門校の取り組み
地域貢献がモノづくり産業を担う次代の人材育成につながっている。
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提供しているホース巻き取り機
静岡県立浜松技術専門校(浜松テクノカレッジ)は溶接加工科の職業訓練の一環で作成した「消防ホース巻き取り機」を近隣の自治会に提供した。全長20メートルのホースを装置に取り付け、ハンドルを回すと容易に巻き取ることができる。浜松テクノカレッジでは2020年に学校所在地の自治会からの依頼を受け、消防ホース巻き取り機を作成した。同年別の自治会にも提供している。そのほかの近隣自治体から要望を受け新作した。
浜松市内の各町は地域防災隊が編成をし、ホースを用いた放水訓練を行う。ただメンバーの高齢化もあり、ホースの巻き取り作業が負担になっていた。自治会は材料費のみを負担し、浜松テクノカレッジは地域貢献として巻き取り機を提供した。今後も依頼があれば提供する方針だ。
浜松テクノカレッジは1938年開設の職業訓練施設を前身とし、これまでに1万5000人以上の修了生を輩出している。