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静岡県西部地区産業界
静岡県西部地区産業界に明るい兆しが見えている。しんきん経済研究所(浜松市中央区)が実施した県西部の「中小企業景気動向調査」で、2024年7-9月期の業種全体の業況判断指数(DI)は前期(同4-6月)比4・9ポイント増のマイナス14・5と3四半期ぶりに改善した。製造業では大手自動車メーカーからの受注が回復した。次期(同10-12月期)のDIも2・8ポイント改善のマイナス11・7を見込む。一方で上場企業は中国市場の不振などを踏まえ、25年3月期業績予想の下方修正が相次ぐ。期待と不安が入り交じる中にあって、各社がさまざまな取り組みを進めている。
地元メーカーが製品・技術を訴求
過去最多の193社で開催
やや鈍化しているとはいえ自動車の電動化は長期的な傾向としては進んでいくと見られる。輸送機器関連企業が集積する静岡県西部は産業構造の変革が避けられない。磐田商工会議所と磐田市商工会、同県磐田市が同市内で8、9日の両日に開いた「第14回産業振興フェアinいわた」では、自社商品の製造販売や新たな受注先の開拓に挑む中堅・中小企業の姿があった。
今回は「次世代技術で産業構造を転換」をテーマに過去最多となる193社・団体が出展した。そのうち初出展は78社。各社が光技術やデジタル技術、固有技術を生かした農業・医療分野への進出、学び直しなど地域のイノベーション創出に向けた取り組みを披露した。前回2023年開催時と同様に広域連携を重視。首都圏や長野県のほか、新たに愛知県東三河地区や岐阜県などを含め、前回比倍増の30社が県外から出展した。来場者数は2日間で約7400人だった。企画立案を担った磐田商工会議所の岩本憲市コーディネーターは、「初出展した企業や広域連携の効果もあり、出展者同士の交流が深まったという声が多かった」と話す。
地元では県西部の企業が自社製品や技術を訴求する場所として定着しつつある。兼子鉄工所(磐田市)は23年に続いてトラックの荷台の昇降作業補助器具「ステップマッシュ」を出展した。同製品は「昨年の同展示会初出展に向けて開発を進めた」(兼子達治社長)。
初出展の企業は自社固有の強みを積極的にアピールした。特殊な切削工具や自動車部品の製造を手がける三ツ安製作所(同)は「地元に工具メーカーがあることを知ってほしい」(安間勉社長)と考えて出展を決めた。鈴木製機(掛川市)は自社製品の垂直搬送機を紹介。自動搬送車(AGV)と連携する機種も提案した。プレス板金加工のN-proto(エヌ・プロト、磐田市)は加工品の実物を展示。「何か新しいきっかけになれば」(奈良間弘光社長)と期待を寄せた。
会期中は併催行事も実施。8日は「新事業創成に向けた支援機関の活動報告」をテーマに光産業創成大学院大学や浜松いわた信用金庫(浜松市中央区)、静岡大学イノベーション社会連携推進機構がそれぞれの取り組みを交えて討論した。9日には「学び直し・働きがいによる経営再起動」と題した講演会を実施。静岡県立工科短期大学校の猿田吉克技監は従業員を受け入れる「事業主推薦」制度を紹介し、「積極的に活用してほしい」と呼びかけた。
産業振興フェアは「次回は岐阜県などから特色ある企業を招聘(しょうへい)し、マッチングにも力を入れる」(磐田商工会議所の岩本氏)方針だ。25年は11月7-8日の開催を予定している。
企業間連携強まる
製造業の変革期に企業間の連携を模索する動きが活発だ。
浜松機械技術研究会(事務局=静岡県工業技術研究所浜松工業技術支援センター)は、浜松市内で設立60周年記念式典を開催した。6代目会長を務める横田輪業(同市浜名区)の横田尚久社長はこれまでの関係者に謝意を示し、「講習会を通じた支援や会員間の情報交換の場として役立つように運営していきたい」と述べた。
今後60周年記念事業として記念誌や、同センターが保有する金属3次元(3D)プリンターで外筒を積層造形した記念品のボールペンを作成する。
同研究会は同県西部の製造業の企業間交流や人材育成、技術向上を目指して1964年に設立した。現在県西部の製造業を中心に約60社が加盟する。年間を通じて、さまざまなテーマの技術講習会や工場見学会を実施している。静岡県工業技術研究所が事務局を担う県内の研究会の中でも最も歴史が古いという。
23年からは新たな取り組みとして静岡理工科大学との交流会を始めた。今後も継続して開催する方針だ。
先端分野への挑戦支援
浜松商工会議所は静岡県からの委託を受け実施する「新成長産業戦略的育成事業」の一環として、「2024国際航空宇宙展」に静岡県ブースとして出展した。自動車産業で培った高い技術を航空宇宙の業界に転用し活躍する静岡県内企業16社の製品や技術を紹介した。そのうち14社が航空機部品の機械加工・特殊工程・組み立てまで含めた一貫生産体制で共同受注を目指す「協同組合SOLAE」の参画企業だ。
城北機業(浜松市中央区)は2輪車や船外機部品に次ぐ新しい柱として航空機部品を育てたい考えだ。テクニカルサポート(同市浜名区)は計測や制御技術を活用して試験技術を駆使し、モーターの性能を評価する受託試験を提案した。加工対象物(ワーク)の高さ最大600ミリメートルに対応するワイヤ放電加工機を保有するブローチ研削工業所(同市中央区)は、加工サイズを実感できるサンプルを展示し、大型部品への対応力を訴求した。
人材育てる活動盛ん
事業活動の根幹である人材。現役世代や次世代を育てる「学び」の場を提供する活動が見られた。
ソミックマネージメントホールディングス(SMHD、磐田市)と一般社団法人CREATION DRIVE(CD、東京都目黒区)は、磐田市内で9-10日に、中学・高校生向けの価値創造人材育成プログラム「MONO-COTO CHALLENGE ENSHU 2024」を開催した。
遠州地域を中心とした中高生が他校の生徒とチームを組んで「デザイン思考」を学び、身近なプロダクトを〝見たことも聞いたこともないもの〟に進化させるアイデアを創出する。初日は「デザイン思考」の体験ワークを通してアイデアの生み出し方を学び、グループワークでインタビューや行動観察で得られた情報をもとにアイデアを考える。会場で製作した試作物を元にアイデアを再検討した。2日目は検討したアイデアについてプレゼンを実施。会場投票を行い、優勝チームを決定した。
最優秀賞チームのテーマは「スマホを見すぎて罪悪感を抱く人へ!new 3Dカバー」、2位チームのテーマは「ぬれたいけどぬれたくない 雨の日を最大限に楽しみたい」、3位チームのテーマは「ズボラにおすすめノンストレスハンガー」だった。
SMHDは4月にJR磐田駅前のビルを取得。「SOMIC N1 lab Iwata(ソミックN1ラボイワタ)」と名付けて本社を移転し、地域との関係を強化している。
インドビジネス学ぶ
スズキは浜松市内で同社が企画した、日本の社会人や学生がインドの文化やビジネスを学ぶプログラム「ラーン・イン・バーラト(LIB)」の参加者報告会を開いた。スズキがインドのインド工科大学ハイデラバード校(テランガーナ州)と共同で設置した交流拠点「スズキ・イノベーションセンター」と運営した。LIBではデリーなどインドの4都市を回り、同国のビジネスの現状を学んだ。
参加者報告会ではLIBを経て、自身の日常や仕事へどのような影響があったのかを報告し合った。参加した社会人からはインドの勢いやスズキの同国への長年の挑戦と浸透度を実感できたという。学生からは留学への関心が高まったとの声が聞かれた。
LIBは23年から始まった。並行してインドからの訪問者がスズキをはじめとする日本企業や社会に触れる「ラーン・イン・ニッポン(LIN)」も開催している。
今後は歴代のLIB参加者が集う行事を開催していく方針だ。
自社設備を一般公開 鉄道ファン集う
静岡県西部を走るローカル鉄道線の天竜浜名湖線(天浜線)を運営する天竜浜名湖鉄道(浜松市天竜区)は、自社設備を一般開放するイベント「天浜線フェスタ」を天竜二俣駅(同区)構内で開いた。県内外から家族連れや鉄道ファンが多く訪れた。列車検査の見学や高所作業車・転車台での乗車体験、鉄道模型を使った天浜線のジオラマ見学などを楽しんだ。
転車台は蒸気機関車の車両を進行方向に向けるための回転式の設備。近年では両方向に運転できる電車やディーゼル車の普及で不要となったため姿を消しつつある。天竜二俣駅には可動する転車台と関連設備が現存し、貴重な鉄道の歴史遺産として愛好家に親しまれている。天竜二俣駅や転車台はアニメーション映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の劇中舞台のモデル地になったことでも話題になった。
フェア会場内では天浜線の駅の愛称となる「副駅名」のネーミングライツや車両のラッピング広告のスポンサーが協力した。スズキ二輪(浜松市中央区)やC Nexsus(シーネクサス、森町)はブース出展し、自社製品や事業を紹介した。
ラッピング広告スポンサーのキャタラー(掛川市)は自社オリジナルのカードゲーム「原子ポーカー」のトーナメントを開催した。
天浜線は掛川駅(掛川市)から新所原駅(湖西市)まで、静岡県西部の5市1町を結ぶ路線。ヤマハモーターエレクトロニクス(森町)やヤマハ、ソフテック(浜松市中央区)、デンソー湖西製作所(湖西市)など沿線の企業がスポンサーとして支援している。