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サーボモーター用減速機の開発動向
【執筆】加茂精工 モノづくり本部技術部技術課 開発グループ主任 岸 賢吾
産ロボの進化支える
工場の自動化に最も重要な要素
労働人口の減少や急激なインフレによる人件費の高騰、生産性向上による競争力の強化などの理由により、工場の自動化を進める企業は年々増加の傾向にある。工場の自動化を考えるうえで最も重要な要素の一つが産業用ロボットの導入である。産業用ロボットは自動車や電子・電気機器工場、半導体の製造工程など幅広い産業で利用されており、今後も急速に成長を続ける市場であるとの見通しが立てられている。
これらの産業用ロボットは時代とともに性能も飛躍的に向上しており精密な位置決め動作、動作速度の高速化、高い剛性など大きく進化を続けている。この急速な進化に貢献をしてきたのがサーボモーターの存在である。
産業用ロボットは駆動源にサーボモーターを使用することで精密な高速動作を実現しているが、このような高速動作や重量物の移動などはモーターに非常に高い負荷を与える原因となっている。こうした高負荷領域での高速動作を可能にさせているのが減速機である。サーボモーターに減速機を組み合わせることでモーターから入力される回転速度を減速させ、減速比に応じた大きなトルクを出力することができるようになる。
軽量で省スペースが求められる産業用ロボットの駆動部においては、サーボモーターと減速機の組み合わせは精密動作と安定した高トルクを得るために必要不可欠なものとなっている。現在サーボモーター用減速機は「遊星歯車減速機」「サイクロイド減速機」「波動歯車減速機」などの減速機が主流であり、それぞれ特性が異なるため各減速機の強みが生かせる分野で使い分けられている。
超薄型PSRを開発
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薄型差動減速機の構造(差動式減速機構と薄型クロスローラーベアリングの採用により超扁平形状を可能にした) -
差動減速機構部(入力軸を1回転させるとトロコイドギアが公転するとともに反対方向へ1歯分自転、この入力軸とトロコイドギアの回転量比が速比となる)
精密加工技術を生かす
加茂精工は精密な位置決めが要求される産業用設備に合わせて、減速機構部にボールを用いたバックラッシのないユニークな減速機の製造を行ってきた。しかし、産業用ロボットに求められる性能は精密な位置決めだけではなく、位置決め後の作業時における振動抑制のための高い剛性や装置全体の小型化、省エネルギー化のための薄型、軽量である要素も求められる。
これらの産業用ロボットに適用するための条件を満足することができるような新たな機構の減速機を開発する必要があった。産業用ロボットに最適な仕様を検討し、当社が今まで培ってきた精密加工の技術を生かして超薄型の差動減速機「PSR」を開発した。
減速機構部はケースの内側に回転するローラーを配置して構成された内歯車と入力軸の偏心部に軸受を介して支持されるトロコイドギアからなる差動減速機構となっている。ローラーによって滑りではなく転がりで接触するためエネルギー損失が少なく高い効率が得られる構造である。
PSRの特徴としては、①扁平(へんぺい)・コンパクト②高剛性③高精度④高効率⑤低バックラッシなどが挙げられ、産業用ロボットが必要としている要素を十分に満たした性能の減速機となっている。そして、サーボモーター用減速機として、各社の主要なサーボモーターが直接簡単に取り付けられるような入力構造を採用しており、ユーザーの設計工数の低減や組み立て性の向上など使いやすさも重要視している。
30%の軽量化も実現
主要部材をアルミに変更
PSRシリーズは前述のような、産業用ロボットの用途だけでなく、扁平でコンパクトな減速機を必要とするさまざまな用途でのユーザーの要望に対応することが可能となっている。また、さらなる市場の要望に対応するため、PSRシリーズの強みをさらに強化させた「PSL」を開発し量産販売を開始した。このPSLシリーズは従来のPSRシリーズで使用されていた主要部品の材質をアルミニウムに変更することで軽量化を図ったシリーズとなっており、PSRシリーズより最大30%の軽量化を実現することに成功した。これにより、協働ロボットやサービスロボットなど、より高い軽量性が求められる用途への対応も可能となった。
働き手が不足する今後の社会においては、ロボット市場の拡大が加速度的に進んでいくと想定されている。特に「通信」「人工知能(AI)」「電気自動車(EV)」の分野での半導体需要が大きく伸びることで半導体製造ラインの増設が見込まれ、サーボモーター用減速機の市場はこれまで以上に拡大していくと考えられる。
産業用ロボットの中でも人と同じ環境で働くことのできる協働ロボットの市場が今後大きく成長すると言われている。また、産業用ロボットだけでなくサービスロボットの分野もAI技術の発展に伴い急速に市場が拡大することが想定されている。
汎用から用途特化へ
市場発展に貢献
このようにさまざまな分野、用途でロボットの市場が拡大することが予想されており、それに伴い汎用的なロボットよりも用途特化型のロボットを求める流れが加速していくことは間違いない。
それぞれの分野で求められる減速機の性能も当然異なってくることは容易に想像することができる。多種多様なロボットに対応できるよう当社では、今までと同様に多品種にわたる減速機の展開を続け、ユーザーにより良い提案ができるよう開発を継続的に行うことで、サーボモーター用減速機が必要とされる市場の発展にこれからも貢献していく。