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サーボ駆動式プレス機
サーボプレスにはさまざまな特徴があるが、スライドフリーモーションだけでなく回生電力による消費電力の低減やクラッチなどのメカニカル部品低減など、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の視点で見ると、メカプレスに比べ多くのメリットがある。2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガス(GHG)の排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、各企業が生産活動におけるGHG低減に取り組む中で、サーボプレスの消費電力低減=GHG排出量の低減が注目されている。ここでは、サーボプレスによるカーボンニュートラルへの貢献について紹介する。
サーボプレスによるカーボンニュートラルへの貢献
【執筆】コマツ産機 開発本部 開発1部 本体・周辺機開発グループ 加藤 準也
サーボプレスによるGHG排出量低減効果
サーボプレスは電動サーボモーターを駆動源とするプレス機械であるが、メカプレスでは駆動源であるメインモーターはプレス回転数に応じた一定の回転を続ける定速回転であることに対して、サーボプレスの場合は、スライドモーションに応じてサーボモーターは加減速を繰り返すことになる。減速時にはモーターは発電機として機能するので、回生電力を発電しているということになる。加速・成形時には電力を消費することになるが、1サイクルでの消費電力は、回生電力との合算になる。トータルでの消費電力は定速回転で駆動されるメカプレスよりも非常に低い値となる。
またメカプレスではメインモーターでフライホイールを回転させ、フライホイールに蓄えられた回転エネルギーを成形エネルギーとして使用するため、プレス停止時においても次の成形のためにモーターを回転させ続ける必要がある。それに対して、サーボプレスではスライドを動かす時にのみモーターを回転させるため電力の消費を最小限に抑えることができる。
一例になるが、メカプレスとサーボプレスを同条件で運転した場合の1年間の消費電力を比較すると、サーボプレスではメカプレスに対して61%減の低減効果が得られる。
消費電力からGHGの排出量を換算するには、消費電力量に各電力事業者が公開している排出係数を乗じて算出するため、GHG排出量の低減率は、消費電力の低減率と同じ61%減になる(図1)。
DX活用によるGHG排出量の低減
サーボプレスはデジタル変革(DX)との親和性が非常に高く、例えば、サーボ電流波形をモニタリングすることも可能である。一例として当社では「Komtrax」という遠隔稼働管理システムを搭載しているが、これによるGHG排出量の低減について紹介する。
(1)予知保全
サーボ電流波形をモニタリングし、人工知能(AI)により波形を解析することにより「予知保全」機能としてサーボモーター自体の寿命を判定できるようになってきた。
サーボモーター単体についていえば、従来は予防保全的に一定周期で定期交換、あるいは事後保全的に実際に不具合が発生した際にサーボモーターを交換するといった保全方法であった。いずれにせよ、決してコストミニマムとはならないタイミングで予備品を準備しておく必要があり、ともすれば不要な予備品を長期保有する、あるいは不要なタイミングでサーボモーターを交換するというように、予備品を無駄にしているケースもあったと想定される。図2に示すよう、従来の保全方法では製品ライフで5個のサーボモーターの予備品を使用していたものが、予知保全を活用して最適タイミングで交換することにより4個の予備品でまかなうことができるというように、ライフ全体で予備品の個数を低減することができ、その予備品にかかるGHG排出量を低減することができる。
予知保全機能については、現在はサーボモーター単体を寿命判定できるレベルだが、適用範囲をモーターに連結された機械要素(ギアボックス、プーリー、タイミングベルトなど)にも拡大することを検討中であり、機械部品も予知保全機能を活用し最適タイミングでの交換が可能となれば、それらの部品製造にかかるGHGの低減も期待できる。
(2)製品の不良率低減
製品の不良率が低減できれば、製品破棄にかかるGHG排出量を低減することができる。そのために成形時の荷重をモニタリングすることが一つの有効な手段である。一例として「Komtrax」の「過負荷モニタ」「荷重トレンド」を用いて製品の不良率低減について紹介する。
製品精度の安定・金型寿命の向上
プレスの仕様(能力・偏心・仕事量)に対する使われ方をグラフとデータで把握できる。特に偏心荷重の状態が分かれば、金型の保護や摩耗・劣化・破損の原因究明が容易になる。
同じ製品を二つの金型で使い回しながら生産する場合、金型の新旧や作り具合で、金型への負荷状態が変わり、金型寿命や製品精度に影響する。
これは現物やプレス荷重値だけを見ても分からないが、「過負荷モニタ」では容易に確認することができる(図3)。この事例では、金型Aは荷重が中心に分布しているが、新品の金型Bは歯切れがいいため(打ち抜き)荷重が小さくなっている。しかし、荷重分布が左側に偏心しているため、パンチがダイに対し斜めに入り込み、偏摩耗による金型の早期寿命低下が懸念される。
このように、金型にかかる荷重を比較することで、金型の機差を修正でき、結果として①製品精度の安定②金型寿命の向上―につながり、製品の不良率低減に結び付くと考えられる。
生産中の荷重確認
プレスの荷重変化を管理することで、生産を阻害する要因を未然に排除することができる。荷重変化の要因としては、「ダイハイト設定ミス」「材料変化」「環境変化(温度変化)」などが考えられる。「荷重トレンド」では金型の経時的な荷重変化を自動でグラフ化し容易に見ることができるため、製品不良や金型劣化を早い段階で確認することができ、不良品の発生をミニマムに抑えることができる。
EVや省エネ機器生産への対応
自動車業界・電気機器業界においてはGHG排出量低減のため、電気自動車(EV)や省エネルギー性能の高い電気機器の生産が増加している。これらの製品においては、絞りの深い(製品高さが高い)ものやサイズが大きなものが増加傾向にあり、生産対応可能な新しいプレス機が求められてきている。
例えば当社では、400トンサーボプレス「H2W400―2=写真」を市場に導入した。
絞りの深い製品を成形するためには、スライドの高い位置からの成形が避けられないが、高い許容仕事量を持ったプレス機により可能になる。
また、絞りが深い製品をトランスファー加工や順送加工を行う場合、工程数が多くなり金型が大型化する傾向がある。サイズの大きな製品においても当然ながら大きな金型が必要となり、より広いダイエリアが要求されるようになってきた。
そこで高仕事量・広いダイエリアを備えたサーボプレスを市場導入することで、GHG低減製品の生産とDXによるカーボンニュートラルへの貢献が期待できる。
おわりに
サーボプレスの持つ柔軟性は、成形目的(難加工材の成形、成形品の精度向上など)や生産性向上を主眼として市場での広がりを見せたが、さらにサーボモーターの特性である回生エネルギーの活用や、サーボプレスとの親和性が高いIoT(モノのインターネット)ツールやDXの活用によりカーボンニュートラルへ貢献できることを浸透させていくべきだと考える。
また、今後、社会全体としてGHG排出量低減製品(EVなど)の増加が見込まれるが、それらの生産に対応できるプレス機の需要も高まってくると考えられるため、プレス機メーカー各社はそれに応えているところである。