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6月1日は「ねじの日」
日常生活のさまざまな場面でモノとモノをつなぐねじ。そんな社会にとって不可欠なねじを広く発信するため、6月1日は「ねじの日」と定められた。ねじの日は1975年7月に業界団体の日本ねじ工業協会と日本ねじ商業協同組合連合会で組織した「ねじ商工連盟」が制定。6月1日とした理由は、49年(昭24)のこの日に工業標準化法が制定され、日本工業規格(JIS)にねじ製品類が指定されたことに由来している。
変わる時代、進化するメーカーと商社
インド視野に海外攻勢
米国・トランプ大統領の就任以来、混迷を深める世界経済。急変する市場環境に警戒感を強めて“様子見”の姿勢を取るモノづくり企業は少なくない。そんな中、攻めの姿勢で海外の市場開拓に力を注ぐメーカーがある。
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インドの展示会に継続的に出展。市場開拓を進める(アンスコ提供)
アンスコ(愛知県瀬戸市)は六角穴付きボルト(キャップスクリュー)と六角穴付き止めねじ(ホーローセット)の製造、販売を手がける。呼び径3ミリ—5ミリメートルが主力。自前の緩み止め加工で付加価値を高め、工作機械や産業機械、自動車向けに展開する。同社が狙うのはインド市場だ。
コロナ禍が収束した2023年から継続的に、インドで開かれる展示会に出展する。「するべきことが見えて組織的な行動ができはじめた」、アンスコの安藤秀文社長は力を込める。
12年にタイ工場を構えた同社だが、海外売上高は当初のもくろみ以上に伸びてこなかった。そこで近年、国内と海外の事業部門を統合。今はタイ工場も国内の各部門幹部が一体的に管理する。保有技術や機能、値付けの根拠など、さまざまな製品に関する共通の価値観の発信に力を入れており、「受注は伸び、活動量が増えてきた」(同)。この勢いでインドを攻める。
インドではパートナー企業との合弁設立、現地生産を視野に入れる。さらに海外での人材教育から得た知見を国内の人材開発にフィードバックする。「数値に基づいた説明が現地顧客獲得のカギ。展示会で認知度を高め、ネットワークを構築していく」と安藤社長。長期的な視点で市場を攻略する構えだ。
海外の知名度向上図る 日本国際芸術祭に出展
海外の市場に関心を寄せるのはメーカーだけではない。サンコーインダストリー(大阪市西区)は約205万点もの商品をそろえるねじ専門商社。東大阪市に物流センターを構え、効率化した供給体制を築いている。
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サンコーインダストリーの海外向け無料雑誌
「SOCKET BOY」
同社は海外での知名度向上のため、自社で刊行している海外向けの無料雑誌「SOCKET BOY(ソケットボーイ)」の発信に力を注ぐ。ねじや東大阪のモノづくりの魅力を伝える情報マガジンで、24年1月に創刊し、これまでに6冊発刊。米国など海外の展示会にも積極的に出展し、配布している。今夏には専用のホームページを開設し、メールマガジンによる定期配信を行う予定だ。
6月30日—7月6日には日本国際芸術祭に出展し、ソケットボーイを配布する。場所は25年大阪・関西万博のイベント会場「WASSE」で、一般公開は7月2日から。出展テーマは「ねじ is future」。アートとして捉えたねじの魅力を発信する。
ブースではねじで作った万博会場のジオラマを展示予定。さらに、来場者がねじ作りを体験できるコーナーも設ける。タップやローリングなどの加工機を使い、ねじ切り加工などが体験可能。作ったねじはキーホルダーにして持ち帰られる。
同社は25年度の海外売上高を前年度実績より1億円高い4億3000万円に引き上げる目標を掲げている。ソケットボーイによる発信を通じて、海外の顧客獲得を図る。
人材確保・定着に注力
変化する情勢に対応するためには、企業の「人」も事業戦略のカギを握る。人手不足が重要な課題となっている中、あるメーカーでは社内制度や会員制交流サイト(SNS)を活用し、人材の確保や定着に取り組む。
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新幹線の台車にも同社の六角ボルトが使われている(金剛鋲螺提供) -
新幹線台車の拡大写真(金剛鋲螺提供)
金剛鋲螺(大阪府東大阪市)は国内では業界に先駆けて六角ボルト「菊水ボルト」を商標化。六角ボルトと座金組み込みボルトを主力とし製造・販売を手がける。
同社のホームページやSNSでは、新幹線の台車部分やバスケットゴールなど、自社の六角ボルトが使われている場面の写真が数多く掲載されている。実はこれらは社員が撮影したもの。社員が自社製品が使われている場面を撮影し、会社に写真を提出すると、1枚につき300円が支給されるという。
この報奨制度を設けたことについて、金剛鋲螺の辻󠄀本康則社長は「(自社製品が)さまざまなところで使われているのを知ってもらい、誇りを持ってほしい」と狙いを語る。
また、これらの写真をSNSで発信することで、面接に来た人に自社製品を知ってもらえる機会にもなっている。さらに、同社は投稿プラットフォーム「note」で、福利厚生などの情報や社員インタビューなども掲載。事前に企業情報を見てもらい、入社後のミスマッチを減らす。こうした取り組みの結果、関西圏外からの入社実績も出てきている。
同社は2022年に奈良県に工場を新設したのを機に、若手人材の採用を強化。今では30歳以下の正社員が全体の3分の1を占める。資格取得支援や社内の教育プログラムも充実させており、働きやすい職場づくりに尽力している。
在庫化と自動化で安定供給
一方で、安定供給と加工ラインの自動化で、生産性を高めているメーカーもある。
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日本鋲螺の商品センター
日本鋲螺(大阪府東大阪市)は六角ボルトや冷暗圧造部品のメーカー。特に工作機械や建設機械向けといった高強度な穴付きボルトで差別化を図っている。西川倫史社長は、先代社長から「効率化を最大限に」の言葉を引き継ぎ、生産性向上に注力。在庫化と工程の自動化で効率的かつ安定した供給体制を築いている。
一般的には在庫を多く持つことはリスクだと言われるが、ねじは腐らず、デザインの流行がなく、規格も頻繁には変わらない。このため、西川社長は「ねじ業界に関しては、在庫はある種必要なもの」と話す。同社は立体自動倉庫を備えた商品センターを持ち、多種多様な製品を在庫化。4000トンの在庫能力によって、顧客の要望にきめ細やかに応えられるようにした。
また工程の自動化や社内業務の効率化にも取り組んでいる。商品の梱包(こんぽう)作業は半自動化で対応。呼び径16ミリ—30ミリメートルのボルトの製造ではヘッダーからローリングまでの加工ラインを自動化している。今後は、呼び径5ミリ—8ミリメートルの小型ねじ用のヘッダー加工に対して、オペレーターが不要の無人運転の実現を進める。
さらに、同社は2年前から社内の基幹システムを刷新。生産や在庫管理、販売などの業務管理を一つに集約した。業務改善で生産性を高め、顧客満足度の向上を図る。
締め外しできるネジチョコ
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ネジチョコ(オーエーセンター提供)
一見、古びたナットとボルト。と思いきや、素材はなんとチョコレート。さびついた感じはチョコパウダーで再現している。本物のねじのように締めたり緩めたりできる。
この「ネジチョコ」を手がけるのは福岡県にある通信機器の販売会社。官営八幡製鉄所の関連施設が世界文化遺産に登録されたときに、北九州市のご当地土産を作れないかと考えた。
今では北九州市外からも買い求められる人気商品だ。