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埼玉県産業技術総合センター(SAITEC)
技術といえばSAITEC
埼玉県産業技術総合センター(SAITEC)は県内中小企業の技術支援拠点として、依頼試験や機器利用(機器の貸出)などを実施している。機械・金属製品などを対象とした本所(埼玉県川口市)と、食品関連を担う北部研究所(同熊谷市)で構成。依頼試験は年約1万8000件、機器利用は同4万7000時間と、企業の成長を下支えしている。「技術面での困りごとがあれば気軽に相談してほしい」と話すSAITECの福田保之センター長に、支援内容や今後の展開を聞いた。
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埼玉県産業技術総合センター 福田 保之 センター長
―SAITECの特徴は。
「中小企業が自社での導入が難しい高機能設備を複数保有し、依頼試験や機器利用のほか、受託研究や共同研究にも対応している。3Dプリンター、強度試験機器、精密測定機器、評価試験機器など約170機器を有し、職員による操作指導も行う。このほか関東圏では数少ない大型の電波暗室を有し、電子機器に対する電磁波の影響を調べる試験を行うことができる」
「本所では22室の貸研究室を有し、入居企業は最新機器を必要時に利用できるほか、製品を試作できる。さらに技術職員からのサポートやインキュベーションマネージャーの経営支援を受けられる。貸研究室は年に数回、入居者を募集している」
―具体的相談内容は。
「金属製品などの製造において、工業規格への適合や性能要件の充足、さらには強度の確認を目的とした依頼が多い。こうした試験をSAITECが実施し、試験結果を記載した成績書を発行。企業がこれを納品先などに提出することで製品の品質や信頼性を証明している。また、製造工程で異物が混入した相談を受けた際には、混入した異物の種類や原因の究明を支援している」
―中小企業のデジタル変革(DX)を推進しています。
「SAITECに検証ラボを設けて各種デジタル設備の導入試験を行える環境を整えた。既存の生産設備に搭載するセンサーや制御網の配備、情報通信網による接続、生産管理システムの導入などの改善提案を行っている。一例として、職員が低コストで制作したデジタルサイネージの技術紹介もしている」
―今後の展開は。
「中小製造業のBツーC(対消費者)進出の支援をさらに強化したい。『商品企画デザイン塾』として、SAITECとデザイナーがモノづくりや商品開発に必要な講義を実施している」
―SAITECの課題は。
「もっと多くの県内企業に利用して貰うために認知度を高めたい。現在、SAITECの保有設備や支援事例などを約3分間で紹介する動画を動画投稿サイト『ユーチューブ』で配信するなどして周知している。『技術といえばS A I T EC』と認識していただける支援機関を目指す」
UCHIDA/C F R P インソール「バクソール」を開発・販売
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バクソールは子どもだけでなく高齢者からもニーズが高い
UCHIDA(埼玉県三芳町、内田敏一社長)は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの複合材の成形加工を得意とする。C F R P の軽量で丈夫、腐食しない特徴を生かした開発力で、自動車や航空・宇宙など多分野へ展開中だ。
2020年に埼玉県産業技術総合センター(SAITEC)などと連携し、初めてのBツーC(対消費者)商品として子ども向けCFRPインソール「BAKUSOLE(バクソール)」の開発に着手した。「コロナ禍で運動が制限された子どもに外で笑顔を取り戻してほしい」と落合隼平取締役は背景を説明する。地面を踏み込む際の衝撃を吸収し、カーボンの反発力で前進運動へと変換。足裏全体が効果的に曲がるように材料設計・構造設計されている。普段履いている靴にインソールとして入れるだけで「走りの変化」を体感できる。
同社は対消費者向け製品のデザインや販売方法に関するノウハウが不足していたため、SAITECが主催する「商品企画デザイン塾」に参加。そこでマッチングしたデザイナーとともに商品化を進めた。ロゴデザインやプロモーションなどに関する多様なアドバイスを受けて、23年に販売にこぎ着けた。現在までに150セットを売り上げ、子ども向けだけでなく高齢者の歩行サポートとしても需要を集めている。
「今後はシューズメーカーと連携してOEM(相手先ブランド)としても販売したい」(同)としている。
藤倉コンポジット/「バッテリーレス液体検知センサ」開発マグネシウム空気電池応用
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発売した「バッテリーレス液体検知センサ」(左)と印刷方式のセンサー素子(右)
藤倉コンポジットはマグネシウム空気電池の技術を活用した「バッテリーレス液体検知センサ」を開発した。従来は外部電源が必要だが、水にぬれるとセンサー部自体が発電する自己発電タイプのため、外部電源が不要。発電した電力で無線を発信して液体検知を伝える。
建物や配管・設備などの漏水、工場の漏水や漏液検知のほか、医療分野では透析装置の漏液や臨床現場での漏血や薬液の検知、介護現場での排尿検知など幅広い導入が期待できる。センサーを印刷方式で製造する方法も検討しており、試作品も製作した。将来は低コストで大量生産することを目指している。
先進技術戦略室次世代技術開発部の高橋昌樹部長は「現在は『液体検知センサ』の発電原理を応用し、さまざまな外力や物理変化を検知できる『バッテリーレス多用途センサ』の開発を進めている」と話す。物理的外力が加わると、センサー内で水が漏れて発電して無線を発信する。
「液体検知センサ」はすでに同社が製品化している非常用マグネシウム空気電池や非常用モバイル充電器の技術を発展させた。マグネシウム空気電池の開発では、主に電池性能の評価手法について埼玉県産業技術総合センター(SAITEC)に相談。それが契機となって、2018年には両者共同でマグネシウム蓄電池を試作した。SAITECの研究シーズと同社の製造技術を組み合わせることで、実際の機器に搭載して試験が可能な試作品を完成した実績がある。
佐竹マルチミクス/バイオ事業の拡大にセンター施設を活用
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SAITEC内のバイオ事業部の研究室
佐竹マルチミクス(埼玉県戸田市、西岡光利社長)は2023年4月、バイオ事業部を埼玉県産業技術総合センター(SAITEC)内の研究開発型インキュベーション施設に移転した。同社は20年に創業100周年を迎えた撹拌機の総合メーカー。新規事業分野のバイオ事業は、細胞や微生物を大量に培養して産業化する装置やシステムを手がける。研究開発本部長兼新規事業副本部長の加藤好一常務は「バイオリアクターの製品開発・アッセンブリ・検査・バリデーション・メンテナンスができる特殊な施設は、SAITECの貸研究室しかなかった。事業を加速させるための非常に手厚いサポートに感謝している」と話す。
バイオ事業の主力は再生医療分野。iPS細胞(人工多能性幹細胞)の大量培養システムを開発して、がん免疫療法に向けたNK(ナチュラルキラー)細胞の生産、1型糖尿病治療のための膵島細胞の生産、iPS血小板、心筋などのiPS細胞の分化誘導など、社会実装に向けた取り組みを大学やバイオベンチャーなどと進める。
さらに同社は経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」(2次公募)に採択された。シングルユース( 使い捨て)バイオリアクター(培養装置)とシングルユースミキサー(撹拌機)を製造する国内初の生産拠点をさいたま市桜区に建設。稼働は26年8月の予定で、施設完成に合わせて、バイオ事業部は、SAITECから同拠点に移る予定にしている。
テクニカルアーツ/医師が使いやすい医療用穿刺針
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SAITECと連携して開発した刃先の形状が6面の医療用穿刺針(医療未承認品)
テクニカルアーツ(埼玉県熊谷市、山形龍司社長)は紙やシールなどに丸い穴を開ける丸刃を主力とする。現在力を入れているのは埼玉県産業技術総合センター(SAITEC)の技術協力を得て開発した医療用穿刺針(せんししん)だ。
医療用穿刺針は手術時に不要な血液を排出するためのドレーンチューブを通すために使用する針のこと。テクニカルアーツは丸刃で培った技術を応用。独自の刃先先端加工を施して鋭利にした。医師にとって使いやすいため、手術の効率が高められるのが特徴だ。
もともとテクニカルアーツは自社で医療用穿刺針を開発・製造していたが、刃先先端のバリ取りに時間と手間がかかっていた。そこでSAITECが保有する電解研磨技術を活用。電解研磨液が入った容器に針を入れ、電流を流すことで先端のバリが溶ける仕組みを取り入れた。針の先端処理を効率化したことで、従来1本あたり7分かかっていた処理時間が、20本あたり1分半で対応できるようになった。同社専用の研磨機を1台導入し、月産約1万5000個を製造中だ。量産需要の対応を検討している。さらにSAITECと現在流通する穿刺針より穿刺抵抗が低く、傷跡が小さくなる穿刺針の開発に成功。刃先の形状を6面にした。
現在は国内の医療機器メーカーから需要を集めるが「今後は海外展開を目指している」と山形社長は将来を展望する。