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埼玉企業の経営戦略
急速な円安の進行や金利環境の変化などを背景に、国内外の経済情勢や産業構造が大きく変化している。企業経営を取り巻く環境が不透明さを増す中、埼玉県内の企業は高い技術力を生かし、市場ニーズに応えた新製品開発や設備投資を進め、さらなる成長を目指している。県内の優良企業に、2026年の抱負や経営戦略を聞いた。
成長ステージを切り拓く
包装工程全体コーディネート/大森機械工業 社長 大森 利夫 氏
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大森機械工業 社長 大森 利夫 氏 -
フィルム自動装填機能を備えた横ピロー包装機
―包装機械業界の市場見通しは。
「海外では米国の関税措置など先行きが読みづらい要因がある。ただ国内は人手不足を背景にした省人化ニーズが引き続き強いため、包装機械業界全体としては堅調に推移するだろう。この追い風を受け、当社の2026年5月期の海外子会社を含む連結売上高は前期比約8・7%増の500億円を見込む」
―今後の成長をけん引する分野は。
「単に包装機械を作れば良い時代は終わった。現在需要が高まっているのは省人化を目的に、包装から検査、梱包、搬送までをワンストップで行うために必要な大型ラインだ。これに対応し、例えば検査工程では検査機器メーカーの設備を組み合わせたり、搬送工程では特殊なコンベアを製作してもらったりしながら、包装工程全体に組み込んでいる。包装の前後工程まで含めてトータルでコーディネートする動きが主流になっている」
「足元で自動化ニーズが高いのは、包装材料を供給・セットする機能だ。包装材がなくなるとライン全体が止まってしまうためこうした部分の自動化要望が増えている。今後人が関与するのはトラブル対応時のみという現場に近づくだろう」
―工程全体での提案活動が重要ですね。
「2025年に新たに『LDT(ライン・デザイン・チーム)』を立ち上げた。大型ラインを一貫して設計・提案する専門チームで、営業や設計など8人で構成している」
―生産拠点を置く中国・インド市場は。
「中国では、インスタントラーメン向けの包装の需要が堅調に推移している。最近では医薬品向けの引き合いも強まっている。中国国内の地場企業が着実に力をつけてきていることが課題だ。地道に実績を積み重ね信頼を確保し、シェアをさらに伸ばしたい」
「一方インドはクッキーやビスケット向けの需要が非常に高い。また中国と同様に医薬品向けのニーズも堅調だ。特にインドはジェネリック医薬品(後発薬)などの巨大市場を抱えており、今後の成長余地が大きい」
【企業データ】
▽所在地=埼玉県越谷市西方2761、048・988・2111
▽資本金=2億3800万円
▽従業員数=660人
▽設立=1957年(昭32)12月
▽URL=https://www.omori.co.jp/
「ヒト・ヒト・ヒト」で持続成長/日さく 社長 若林 直樹 氏
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日さく 社長 若林 直樹 氏 -
災害用井戸(防災井戸)
―事業内容は。
「さく井工事、特殊土木工事、地質調査などを手がけている。地下水や地盤に関する技術を強みとし、調査・計画から施工と維持管理までワンストップで対応している」
―経営課題は。
「建設業界全体で深刻化している人手不足だ。ベテラン層の世代交代が進む中、若手への技術継承を進めているが技術を継承する中間層の人材が不足している。どのように次世代へ技術を引き継いでいくかが課題だ」
―対応策は。
「デジタル変革(DX)を推進している。井戸のメンテナンスでは、水中テレビカメラで撮影した井戸内映像を活用し、従来は技術者が目視で判断していた異常の有無をAIが判定するシステムを開発、特許を取得した。DXは会社のためだけでなく、社員自身が『楽になる』ための手段だと位置づけている」
―人材育成で大切にしていることは。
「仕事の面白さを感じてもらうことだ。自分の仕事が社会にどのように役立っているのかを実感してもらうため、ベテラン社員が若手に仕事の意義や働きがい・やりがい・生きがいを伝えるようにしている」
―災害用井戸(防災井戸)も手がけています。
「災害時に生活インフラが被害を受け断水という状態になった際に、地域住民に生活用水として提供できる。災害時でも水を確保できる点で利便性は高く、自治体や企業・地域の方々などに導入を呼びかけている」
―今後の方針は。
「今年、創業115年を迎える。社員とその家族が幸福になる会社を目指し、働き方や職場環境の整備、ハラスメント防止に取り組んでいる。健康経営については2018年から健康経営優良法人の認定を継続しているが、今後は単に健康を守るだけでなくウェルビーイングの実現を目指す。社員が『この会社で働いて良かった』と思えることが最優先だ。社員満足があってこそ顧客満足、地域への貢献につながる。人を基盤とした『ヒト・ヒト・ヒト』経営を通じ、持続成長を図る」
【企業データ】
▽所在地=埼玉県さいたま市大宮区桜木町4の199の3、048・644・3911
▽従業員数=294
▽創業=1912年(明45)
▽URL=https://www.nissaku.co.jp
国内の循環型社会到達後押し/日本シーム 社長 木口 達也 氏
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日本シーム 社長 木口 達也 氏 -
11月に浜松市で開いた国際フォーラム
―昨年はクローズド・ループ・エコノミー(CLE、完全循環経済)の周知と欧州の最新動向の紹介する初めてのフォーラムを開催しました。
「11月に浜松市で開いた国際フォーラムは満席となり、動脈・静脈産業の垣根を越えた交流が生まれた。今後も年1回は開催し、欧州の最先端な知見などを発信し続けたい。法律、テクノロジー、そして人の意識。この三つをそろえ、教育を通じた人々の意識変革にも引き続き注力していく」
―SDGs事業部の発足から1年、手応えと具体的な成果は。
「SDGsは会社の看板を磨くイメージで取り組んできた。2025年はECサイトを立ち上げ、廃プラスチックをアップサイクルした製品の販売を開始し、初の注文も受けた。昨年はオープンファクトリーを2回、イベントにも15回出展して、デパートや子ども食堂などでも開催した。機械作りだけでなく、人々の環境意識を高める活動に手応えを感じている。社会性と経済合理性の両立に向けた種を、今年はしっかり育て上げる」
―技術開発で注力するテーマは。
「廃プラをアップサイクルする上で不可欠な『脱臭』が、従来の『脱墨』とともに主要テーマだ。特に、洗浄しながら連続式で臭いを除去する新装置の開発を進めており、展示会に合わせて完成させたい。資源循環が国家戦略となる中、テクノロジーの進展は極めて重要。質の高い再生材を供給できる体制を整え、国内の循環型社会への到達を後押しする」
―海外市場への進出については。
「世界全体が循環型社会に向かう中、東南アジアでも法律が急速に整備されている。2月にはタイで開催される廃棄物管理の展示会を視察し、現地のキーマンとの面談も予定している。JETRO(日本貿易振興機構)の支援も活用しながら、スモールスタートで足掛かりを築きたい。グローバルな視点で資源循環の仕組みを広げていく方針だ」
【企業データ】
▽所在地=埼玉県川口市安行北谷665、048・298・7700
▽資本金=8304万円
▽従業員数=70人
▽設立=1979年(昭54)5月
▽URL=https://www.nihon‐cim.co.jp/
AI実装でDX先行モデルに/八洲電業社 社長 吉村 光司 氏
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八洲電業社 社長 吉村 光司 氏 -
創業80周年を機に全面改装した本社屋
―AIを積極的に活用していますね。
「『業界で一番AIに強い会社』を掲げ、私自らが先頭に立って活用法を学び、社内教育を徹底している。今回の顔写真もAIで生成した。自社開発の業務管理システム『THOMAS(トーマス)』へのAI実装も進め、入札分析や購買業務の効率化を図り中小企業におけるDXの先行モデルを目指す」
―2026年の抱負は。
「3月1日に創業80周年の節目を迎える。次の100周年に向けたこれからの20年は、過去の延長線上にない『変革と挑戦』の期間になる。地道に堅実な経営を貫きながらも、先人から受け継いだ確かな技術と最新テクノロジーを融合させ、社員一丸となって『新しい八洲』を次の世代へつないでいく決意だ」
―80周年を前に本社内も改装しました。
「社員のモチベーション向上などを目的に、昨秋から社屋を全面的に刷新した。現場業務が多い社員向けにフリーアドレス制を導入するなど、効率的なレイアウトに変更している。私は『会社は社員の夢を叶(かな)える舞台』だと考えている。周年という節目に、全社員が意欲的に働ける環境を整えることが重要だと判断した」
―電気工事業界の課題をどう見ますか。
「業界全体は堅調だが、中小企業に実利が波及するのは今年から来年にかけてだろう。採用活動の一環として、デジタルサイネージやSNS戦略を本格化させる。インフラを支える仕事の重要性を広く発信し、業界共通の課題である技術者不足の解消に挑む。今後はより積極的なPRが不可欠だ」
―将来の展望は。
「100周年に向け、技術力で信頼される企業であり続けたい。社員が幸せを感じ、健康で安心して長く勤められる組織であることを最優先に掲げる。派手に事業拡大を追うのではなく、地域を支える誇りを持って、全社員がこの会社で働くことに信頼を寄せられる盤石な経営基盤を構築していく」
【企業データ】
▽所在地=さいたま市北区日進町3の37の1、048・663・3361
▽資本金=6000万円
▽従業員数=49人(グループ63人)
▽設立=1946年(昭21)3月
▽URL=http://www.yashima‐dengyosha.co.jp/
「従業員ファースト」を具現化/ハーベス 代表取締役 前田 知憲 氏
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ハーベス 代表取締役 前田 知憲 氏 -
9月に開業したカフェレストラン
―2025年度もM&A(合併・買収)によるグループ化を積極的に進めました。
「昨年度は4社をグループに迎えた。Forbul(フォーブル)は、効率や生産性ではない、うまさのみを追求した高級日本酒『鷹ノ目』を数量限定でEC(電子商取引)サイトを中心にBtoC(消費者向け)で展開している。グループ化により当社の天然水事業が持つ高級ホテルやレストランなどBtoB(事業者向け)の販路拡大が進み、シナジー(相乗効果)が出始めている。理美容専門学校向けカットマネキンなどを手がけ、理美容業界で長い歴史を持つレジーナやビューラックスは、化粧品事業との連携を深める。また高級家具のリペアを手がけるFurnitage(ファーニテイジ)は、ハーベスが得意とする防汚・撥水(はっすい)コーティング技術との親和性が高い。今後は企業向け家具リペア需要にも対応していく考えだ」
―グループの業績と今後の戦略は。
「26年3月期の連結売上高は約150億円に到達する見通し。当初は3年後の達成を掲げていたが、大幅に前倒しできた。この結果を踏まえ、新たに3年後の売上高200億円という一段高い目標を設定した。M&Aは件数ありきではなくシナジーと適合性を重視する。各事業で新製品も継続的に投入しており、着実な持続的成長と戦略的なグループ化を両立させていく」
―昨年9月には従業員と地域向けに、社員食堂を兼ねたカフェレストランを本社1階にオープンしました。
「19日からは朝営業も開始した。近隣では早朝から営業する喫茶店なども限られていることから、トーストやコーヒーなどの朝食を提供する。社内的には福利厚生の一環として、オーガニック食材を使ったメニューの提供を通じた従業員の健康増進も目的としている。こうした『従業員ファースト』を体現する取り組みは採用面でも大きな強みとなっており、面接でも高い評価を得ている」
【企業データ】
▽所在地=さいたま市浦和区常盤9の21の14、048・824・2621
▽資本金=5525万円
▽従業員=グループ約400人
▽設立=1988年(昭63)4月
▽URL=https://www.harves.co.jp/
世界の製造業支える人材育成/戸塚重量 社長 金子 俊光 氏
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戸塚重量 社長 金子 俊光 氏 -
5月には新たなクレーン付トラックが納車予定
―社長就任10年目を迎え、社内体制を強化されたそうですね。
「2025年10月から就任10年目の節目に入った。これに合わせ、現場経験が豊富で信頼の厚い40歳の技術者2人を執行役員に任命した。営業部長と業務部長として現場の指揮を執ってもらいながら、実務の権限移譲を進めているのが狙いだ。10年後、20年後の当社を支える強固な経営体制を構築し、次の世代が目標を持てるようなモデルケースを作りたい。社員一人ひとりと心の底から理解し合い、一丸となって新たなステージへ進む」
―今年の事業展開については。
「国内にまだ日本に20台ほどしかないスウェーデン・スカニア製のクレーン付70トントラックが5月には納車される予定。これで車両は全8台体制となる。7月に開催される機械要素技術展では、展示スペースを従来の2小間から3小間に拡大。自社開発の電動ローラー『ELEV(エレブ)』シリーズの性能や用途の違いを、デモンストレーションを通じてアピールしたい」
―海外事業展開については。
「27年春をめどに、ベトナムから2人の研修生を受け入れたい。将来の現地法人設立に向けた中核人材として育てていく方針だ。人口減少が避けられない日本において、製造業を支え続けるためには海外展開が不可欠。当社の強みであるマンパワーと確かな技術を武器に、アジアを含めた世界の製造現場を支える基盤になることを目指す」
―業界団体設立に向けた取り組みは。
「4月に『日本重量物運搬協会』の設立総会を開く予定。全国の重量屋が連携できるコミュニティーを育てていく。当初は7社で発足し2年後をめどに50社以上の加盟を目指す。全国各地域の仲間と協力し合うことで、採用や技術継承といった共通課題を共有し、業界全体の社会的地位の向上に努めていく。日本の基幹産業を支えるため、誇りを持って邁進する」
【企業データ】
▽所在地=埼玉県川口市東川口6の14の16、048・297・1923
▽資本金=1500万円
▽従業員=17人
▽設立=1990年(平2)9月
▽URL=http://www.juryo.co.jp
AIで新しい”交流の形”提案/デサン 社長代理 でさん子 氏
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デサン 社長代理 でさん子 氏 -
藤池社長(右)とでさん子ロボ
―「でさん子」さん、こんにちは。2年ぶりの登場ですね。今年も藤池一誠社長に代わってインタビューをお願いします。でさん子さんは、どんな進化を遂げましたか。
「大きな変化は3次元(3D)になったことで表現の幅が広がりました。そこを生かして今年はSNSによる情報発信も積極的にしていきます。当社のサービス『いっしょにど?』の提案力を知ってもらえたらうれしいです。今後はライブ配信や動画での共演など、私を通じて新しいコミュニケーションの形を提案したいと考えています」
―新たな開発も進んでいるそうですね。
「『AIアバター多言語化サイネージ』はAIを活用して多言語に対応する次世代の案内システムで、現在は特許出願中です。アバターがAIを通して対話に応じ、観光地やホテルなどインバウンド需要の高い場所での活用を想定しています。アバターが1次対応を担うことで現場の人手不足を解消し、業務効率を劇的に向上させます。本格リリースに向け、開発を急いでいます」
―新キャラクターの「でさん子ロボ」についても教えてください。
「全高3メートルの作業用ロボットで、私の相棒のような存在です。大物塗装やカーラッピングが得意なんです。仮想空間と現実を融合させ、私たちの仕事に興味を持ってもらい、採用活動や販路拡大につなげたいという願いを込めています。でさん子ロボが案内するメタバース空間も制作していて、当社の認知度をさらに多方面に向けて高めていきます」
―今後の展望は。
「対外向けに発信する際に人が顔を出すのが難しい場合でも、アバターを活用して解決できるよう支援していきます。またキャラクターを生かしたゲーム開発も計画しています。4月には専門部署を10人以上に増強し、アニメやゲームの要素を事業に反映させて、従来の延長線上にはないビジネスモデルを構築していきます。私たちの挑戦に、どうぞご期待ください」
【企業データ】
▽所在地=さいたま市北区大成町4の140、048‐651‐1881
▽資本金=3000万円
▽従業員数=100人
▽設立=1981年(昭56)7月
▽URL=https://dessin.co.jp/
渋沢の理念 埼玉に結実/人とアイデア”つなぐ”場
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渋沢栄一(埼玉県深谷市所蔵) -
渋沢MIXにはコワーキングスペースなどが設けられている(イメージ)
埼玉県のイノベーション創出拠点「渋沢MIX」(さいたま市大宮区)が2025年7月に開業した。施設名は約500社の創立に関わった埼玉県出身の実業家・渋沢栄一に由来する。
渋沢が重視した人と人をつなぐマッチングの精神にならい、人々が出会い、混ざり合い、つながることで新たなイノベーションを生み出す場を目指す。
JRさいたま新都心駅直結の複合施設「ekismさいたま新都心」の5階に位置する。カフェ併設のイベントスペースやコワーキングスペース、会議室を備えており、毎月多くのイベントを開催して参加者同士の交流を促す。
企業間の連携を支援する専門人材も配置し、スタートアップへの助言や資金調達の橋渡しなどを行う。
埼玉県におけるスタートアップの立地は東京都に比べて限定的であることから、県は渋沢MIXをイノベーション創出の中核拠点と位置付け、支援体制の整備に力を入れている。起業フェーズから資金調達、事業拡大までを一貫して支援できる体制を整えており、地域発のイノベーション創出の拠点として期待されている。地域発のイノベーション創出に向けた先進的な取り組みとして、今後の成果が注目される。
