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開発進む 産業団地・オフィス
埼玉県は製造業の事業所数で全国3位、従者数は全国4位でモノづくり立県ともいえる。鉄道や道路網が整備されており、首都東京に隣接していることから、企業進出も積極的だ。工場や物流施設が集積する産業団地とともに、オフィスビルや住宅の需要も高まっている。埼玉県企業局埼玉公営企業管理者の北島通次氏と、大栄不動産社長の石村等氏に県内の産業団地の現状やオフィスビル、住宅について現状や将来像を聞いた。


製造業の国内回帰進行 追い風
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埼玉県企業局 埼玉県公営企業管理者 北島 通次 氏
―物価高や円安が企業経営に影響を与えています。県内の産業団地の分譲状況を教えてください。
「コロナ禍の影響などで撤退する企業も出たが、再募集をかけると高確率で手が挙がった。こうした状況を見ても、需要は落ちていない。近年は、巣ごもり需要によって電子商取引(EC)のニーズ拡大し、県南地域を中心に特に物流業からのニーズが高い。その影響で地価が高騰し製造業からの需要が下がることを懸念していたが、電子産業など製造業からの需要も底堅い。あわせて、長期化する円安の影響により、国内での生産コストが引き下げられ製造業の国内回帰がかなり進んでいると感じる。この状況が続けば、県内の産業団地のニーズもまだまだ増加するだろう」
―2023年度に引き渡し予定の産業団地と、今後誘致する産業団地を教えてください。
「23年度に引き渡し予定の産業団地は『嵐山花見台(嵐山町)』で、今後募集をかけるのは『久喜高柳(久喜市)』、『吉見大和田(吉見町)』だ。『久喜高柳』は23年度中に企業の募集を開始する予定で、25年度の引き渡しを目指している。加須インターチェンジ(IC)から約4キロメートルと交通アクセスが良いのが特徴だ。『吉見大和田』は23年度に事業に着手して、24年度に企業の募集を開始する予定だ。そして26年度の引き渡しを目指している。北本ICから5キロメートル、川島ICから6キロメートルと、こちらも好立地で、企業からのニーズが高そうだ」
―自然災害が激甚・頻発化しています。そうした中でどんな産業団地を整備しますか。
「データセンターや工場設備をもうけるにしても、東京一極集中は都市災害が起きた際にリスクが高い。こうした点でいうと、企業にとっては本社機能の移転を含め埼玉県が魅力的に映るだろう。そうした中、市町村の『コンパクト』『スマート』『レジリエント』の3つの要素を備えた持続可能な街づくりを県が支援する『埼玉版スーパー・シティプロジェクト』が解決に向けたカギとなりそうだ。こうした県の重要施策を視野に入れながら、産業団地としても市町村の理想を応援したい」
―産業団地として具体的にどのように貢献できそうですか。
「災害があった際の避難場として、または飲料や食品の備蓄場所として、さらには近隣へのエネルギー供給拠点としての活用が考えられる。地域住民などの声を聞きながら、開発段階でそうした機能を組み込むことが考えられる」
未来を見据えた産業基盤づくり
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大栄不動産 社長 石村 等 氏
―埼玉県内の産業団地開発の状況をどう見ていますか。
「主要産業団地113カ所で民間による開発は22カ所ほど。残りは県が開発を進めた。歴史的に見ると、埼玉が農業県から工業県へと自ら変容を遂げようと努力した結果が、産業団地開発に現れていて、行政のリーダーシップの姿勢を感じる。今後は県だけでなく民間も、交通インフラ整備などと合わせて産業団地開発をさらに進めていく必要がある」
―大栄不動産の現在の取り組みは。
「坂戸市と当社は、県が昨年4月にまとめた『埼玉の持続的成長を支える産業地盤づくり取組方針』に基づいた共同宣言を出した。市内の坂戸IC(インターチェンジ)地区約47万平方メートルの産業基盤づくりに当たり、埼玉版スーパー・シティプロジェクトの基本的な考え方を踏まえて、コンパクトでスマート、レジリエントの視点で地域社会の持続的成長を実現する『未来を見据えた産業基盤づくり』に取り組む。同地区の農林調整が完了するめどが立ち、県から産業誘導地区の選定を受ける見込みとなったことを踏まえて共同宣言を出した」
―一方でオフィスビル需要は、どう捉えていますか。
「民間の調査によると、さいたまエリアと横浜市、千葉・船橋エリアで空室率を比較した結果、さいたまエリアが最も低く稼働率が高かった。賃料も横浜市よりさいたま市が高い傾向にあることは知られていない。これからもオフィスビルの強い需要が埼玉県にはあると期待している」
―今後の取り組みは。
「当社は9月、みずほ銀行と埼玉りそな銀行からポジティブ・インパクト金融原則に基づいた融資を受けた。建物の脱炭素化を推進するため、電力消費を実質ゼロにするネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB=ゼブ)やネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH=ゼッチ)の取り組みを加速させる。ビルは空調機器や換気システム、照明を最新設備に更新することで二酸化炭素(CO2)排出削減につながる。新築だけでなく既存ビルでもZEB化は可能だ。国連の持続可能な開発目標(SDGs)への関心が高まる中で、ZEB化したビルに入居したいという企業も増えてくるだろう」
―将来をどう見ていますか。
「東証は資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を上場企業に要請した。PBR(株価収益率)向上に向けて資産整理・処分を行う動きが加速するとみられる。また政府は半導体工場などを建設しやすくするため、土地規制を緩和する方針を明らかにしている。当社はそうした課題を解決するソリューションを提供することで、地域貢献や地域活性化につながる取り組みを将来の時代の変化に合わせて進めていきたい」