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デベロッパー、役割 重要に
修繕・改修で資産価値向上
マンションは主に鉄筋コンクリート造(RC造)もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)で建設されており、戸建住宅に多い木造建築と比較して耐久性が高い。
長期的に堅牢(けんろう)性や住環境の快適性を維持するには定期的なメンテナンスが欠かせない。「長期修繕計画」を作成し、計画に沿った修繕・改修をすることで資産価値の維持・向上にもつながる。
適切な時期に大規模修繕が行われないと、外壁の剝落やひび割れ、鉄筋の露出・腐食、雨漏り、給排水管の劣化などの経年が進み、建物ばかりでなく周辺環境にも悪影響を及ぼすこともある。
耐震性が低い場合、大地震発生時にマンションが倒壊する恐れもある。特に耐震基準の大きな見直しがあった1981年以前に建てられたマンションは、耐震性に不安のあるものも多い。巨大地震発生に備え、これらのマンションの耐震化は喫緊の課題となっている。
老朽化したマンションの再生には主に四つの選択肢がある。①外壁塗装工事、屋根防水、給排水管などの更新工事を行う「大規模修繕」②耐震補強やエレベーターの設置など設備機器を追加する「改修」③建て替え④敷地の一括売却―である。老朽化の程度、耐震性、容積率や高さ制限などの建築的な制約、所要費用と改善効果などから総合的に比較・検討して選択することになる。
国土交通省によると2022年末時点でのマンションストック総数は約694万3000戸に上る。そのうち老朽化の目安とされる築40年を超えるマンションはおよそ125万7000戸で、42年には445万戸程度になる見込み。一方で、マンションの建て替え実績は建設中の案件を含めて全国でわずか292件にとどまっている。
立地条件に恵まれた物件は建て替えが進みやすいものの、多くの場合は区分所有者の合意形成や費用負担、所有者の高齢化、容積率など複数の課題を抱える。特に合意形成は住民や管理組合だけで「建替え決議」に至るにはハードルが高く、課題解決には専門知識とノウハウを備えるデベロッパーやゼネコンなどが大きな役割を果たしている。
長谷工コーポレーション/容積率など緩和、建て替えへ
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多摩川住宅で先陣をきって建て替えが進むホ号棟(完成予想図)
長谷工コーポレーションではこれまで首都圏、近畿圏、東海圏で計46件のマンション建替えに携わっている。昨年、建て替え工事に着手した「多摩川住宅ホ号棟」では着々と工事が進んでいる。
1968年に建てられた「多摩川住宅」は、東京都住宅供給公社が手がけた初の大規模団地で、東京都の調布市と狛江市にまたがる約50ヘクタールの広大な土地に約1800戸の賃貸住宅と約2100戸の分譲住宅の中層マンションが立ち並ぶ。商業施設や公園、運動施設、教育施設も整備されている、一つの「街」といえる大きな団地だ。
築40年を迎えるあたりから、建物の老朽化や設備の経年劣化が目立つようになり、住民の高齢化が進む中、エレベーターなどの設備が整っていないという問題も出てきた。
建て替えの検討で障害となったのが容積率だ。周辺地域の容積率は200%だが多摩川住宅は「一団地の住宅施設」の規制により60%という容積率だった。そこで、2009年に多摩川住宅全体で「多摩川住宅街づくり準備会」を立ち上げ、容積率を増やして建物を建て替える、新たな街づくり案を調布市と狛江市に提出し根気強く交渉。17年に「多摩川住宅地区地区計画」が決定し、容積率も170%までアップが認められ、ホ号棟は380戸の住宅を905戸まで増やす計画となった。
長谷工は12年からホ号棟の建て替え検討を支援し、建て替え計画づくりの事業協力者、参加組合員として携わっている。20年には「団地一括決議」が成立。「仮住まい探しや、住戸選定後、約80%の組合員が希望した有償オプション工事についてもお手伝いした」と建替・再開発事業部の今井文雄部長は話す。
同物件で長谷工は設計・施工も請け負う。「共用部や外構計画の説明会を実施し、組合員の意見も取り入れた。また、長期優良住宅やCASBEE(建築環境総合性能評価システム)のAランク、災害対策が評価され、マンションストック長寿命化モデル事業にも採択された」(今井部長)。25年には再入居が始まる予定となっており、組合員も心待ちにしている。完成から半世紀を経て、多摩川住宅は新たな街への再生の第一歩を踏み出した。
旭化成不動産レジデンス/合意形成へ、総合的サポート
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旭化成不動産レジデンスは建て替えを通じて都市のレジリエンス強化にも貢献する
旭化成不動産レジデンスは、2001年以来、全国事例の13%程度に当たる47件のマンション建て替えを手がけた。社員自ら合意形成に携わり、全国初のケースにも取り組み、さまざまなノウハウを蓄積してきた。
本年度、無事に建て替えられた都内のマンションは、1981年に「投資用マンション」として分譲されたものであった。旧耐震基準の設計であり、コンクリートの劣化も進んでいたことに加えて、水周り設備は老朽化が進み、居住性も現在の水準からはるかに劣る状態であった。過去には修繕積立金の値上げが総会で否決された経緯があり、築後30年頃には積立金の不足に危機感を募らせていたという。
区分所有者が内部居住であれば、設備の劣化などに生活の実感を伴うため、再生検討に理解が得られやすいが、賃貸しているなど外部居住の区分所有者だと、この理解・共感を得るのは容易でない。全84区画のうち賃貸が5割を超えるこのマンションにおいて、建て替えに向けた合意形成で重要な役割を果たしたのが訪問による個別説明対応だ。事業協力者に選定された同社では、遠方に住む区分所有者であっても社員自らが無償で各戸へ訪問し、今のマンションの状況や再生検討の内容について丁寧に説明を行った。事業協力者の選定から「建替え決議」まで1年半の間で2度の個別面談を行い、最終的には約97%の賛成を得て「建替え決議」が可決された。
多数の建て替え実績の背景には、こうした丁寧な対応がある。同社には、注文住宅事業や賃貸管理事業、仲介事業など、顧客と直接に相対する場面を経験してきた社員が多い。
一人ひとりに寄り添う姿勢が社内に醸成されており、これが困難とされる合意形成を実現できる要素の一つである。また、本件の建て替えでは、区分所有者のうち再建マンションの住戸を取得したのは約40%程度であった。別の場所への住み替えや、別の投資物件の取得を希望する区分所有者に対して、総合不動産企業としての対応力を発揮。買い替えや融資の借り換えのサポートも積極的に実施したことが、円滑に事業を進めることができたもう一つの大きな要素である。