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マンションの再生・建て替え
住宅や資産の一つとして重要な役割を持つマンションは、戦後の高度経済成長期以降、主に都市型の居住形態として広く普及してきた。今では都心部を中心に、「億ション」と言われる高級分譲マンションも数多く建設されている。一方で、経年に伴う建物の老朽化などの課題も顕著になってきた。新耐震基準以降のマンションでも築40年を超えるものが出てきており、劣化具合に応じた適切なメンテナンスが求められている。分譲して数十年が経つマンションを中心に、建て替えへ向けた取り組みが加速している。
デベロッパー 役割重要
専門知識・ノウハウで課題解決
マンションは主に鉄筋コンクリート造(RC造)もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)で建設されているため、一戸建て住宅に多い木造建築と比較して耐久性が高い。
しかし、長期的に住環境の堅牢(けんろう)性や快適性を保つためには定期的なメンテナンスが欠かせず、「長期修繕計画」を作成して計画に沿った修繕・改築をすることが重要だ。
適切な時期に大規模修繕が行われないと、外壁の剥落やひび割れ、鉄筋の露出・腐食、雨漏り、給排水管の劣化などが進み、建物だけでなく周辺環境に悪影響を及ぼすこともある。適切な時期に大規模修繕を行うことで、周辺の環境・景観保持に役立つ。
マンションの耐震性が低い場合、大地震発生時に建物が倒壊する恐れがある。特に耐震基準の大きな見直しがあった1981年以前に建てられたマンションは、耐震性に不安のあるものも少なくない。巨大地震発生に備え、これらのマンションの耐震化は喫緊の課題となっている。
国土交通省によると2024年末時点でのマンションストック総数は約713万1000戸に上る。そのうち老朽化の目安とされる築40年を超えるマンションはおよそ148万戸で、10年後の34年には293万2000戸、20年後の44年には482万9000戸になる見込み。10年後に約2倍、20年後に約3・3倍となる計算で、計画的な修繕・改築が求められる。
老朽化したマンションの再生には主に四つの選択肢がある。①外壁塗装工事、屋根防水、給排水管などの更新工事を行う「大規模修繕」②耐震補強やエレベーターの設置など設備機器を追加する「改修」③建て替え④敷地の一括売却—だ。老朽化の程度、耐震性、容積率や高さ制限などの建築的な制約、所要費用と改善効果などから総合的に比較・検討して選択することになる。
立地条件に恵まれた物件は建て替えが進みやすいものの、多くの場合は区分所有者の合意形成や費用負担、所有者の高齢化など複数の課題を抱えている。こうした課題の解決のために専門知識とノウハウを備えるデベロッパーやゼネコン、コンサルタントの役割が重要となっている。
長谷工コーポレーション/グループ総力、建て替え推進
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「小川住宅」の建て替え後(イメージ)
長谷工コーポレーションでは2025年に52物件の着工、46物件の建て替え事業の竣工を迎えた。これは日本のマンション建て替え実績の約14%にあたる。
「小川住宅」は1971年に日本住宅公団(現都市再生機構)により建設された5階建て・8棟・230戸の団地である。組合員の高齢化に伴う、理事の担い手不足や建物の老朽化で管理運営が困難となった。さらに、耐震性、防火・防犯性、バリアフリー、遮音・断熱性能など、現代の生活様式に必要な機能を満たせず、スラム化の懸念が高まったことから、建て替え事業の推進を決断した。
建て替えの検討にあたり、都市計画の「一団地の住宅施設」の制約が障害となった。現況では容積率70%・建ぺい率20%までしか建てられないため、これを打開すべく、2020年2月に「小川東町二丁目地区まちづくり協議会」を設立し、同年、URリンケージと長谷工コーポレーションを事業協力者に選定。ワークショップなどで住民の意向を取りまとめ、「小平市民等提案型まちづくり条例」による地区計画の第1号案件として、23年3月に「小川東町二丁目地区 地区計画都市計画」決定告示に至った。これにより、容積率180%・建ぺい率40%まで建設が可能となり、8階建て・575戸の計画となった。
23年5月に「団地一括建替え決議」が可決、同年11月に「マンション建替組合」の設立が認可され、24年11月に権利変換計画の認可を取得した。建築費の高騰が続く中、長谷工コーポレーションは参加組合員と設計・施工の両方の立場からコストコントロールの徹底と事業計画のバランスを取り、今年10月に本体工事の着工に結びつけた。
事業は長谷工グループの総合力で推進され、同社は参加組合員としての事業協力の他に設計・施工を担い、新築マンションの分譲は長谷工不動産、販売業務は長谷工アーベスト、管理業務は長谷工コミュニティを予定している。住戸面積は30平方メートル台から80平方メートル台と、建て替え事業ならではのプランバリエーションを用意。再入居者と新規購入者の多世代が共生できるコミュニティー形成の仕組みづくりにも取り組む。
旭化成ホームズ/知見・経験で信頼—合意形成
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2025年10月に竣工した「アトラス麻布台」
旭化成ホームズは2000年にマンションの建て替え事業へ参画して以来、多くのマンション建て替え・敷地売却に携わり、これまでに80件のプロジェクト(竣工済み45件、工事中6件)を手がけている。直近では、「飯倉三生マンション」の建て替えが特筆すべき事案として挙げられる。
同マンションは1971年に竣工し、都営大江戸線麻布十番駅から徒歩圏に位置する、戸数17戸の「都心小規模マンション」だった。建て替え検討の理由は、耐震基準を満たしていないことに加え、漏水や排水設備の不具合など物理的な問題が主因で、建物の老朽化も懸念材料となっていた。
当初は耐震補強工事や大規模修繕工事による再生が検討されたが、建物の効用を維持・回復するには多額の費用が必要と判明した。そのため、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」の容積率特例を活用する建て替えに方向転換し、建て替え推進決議を経て検討を進めた。
その後、コンペにより旭化成ホームズが事業協力者に選定され、組合やコンサルタントと協力しながら合意形成を進めていった。2021年に「建替え決議」を行い、「マンション建替組合」を設立。22年に権利変換計画の認可を取得し、同年に解体工事へ着手した。こうして、25年10月に再建マンション「アトラス麻布台」が竣工した。
この事案の最大の特徴は、小規模マンションだったため1票の重みが大きかったことだ(今回のケースでは、4人以上が反対すると決議は不成立となる)。こうした状況で重要なのは、区分所有者に建て替えの必要性を理解してもらうだけでなく、企業そのものや担当者を信頼してもらうことだ。
同事業では丁寧な合意形成を重ねるとともに、過程で発生するさまざまな課題を同社の知見と経験で解決し、信頼を獲得した。
その結果、「建替え決議」時点で2人の非賛成者がいたが、催告によってこの2人も参加し、最終的には全員同意で建て替えを進めることに成功した。
