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マンション再生・建て替え
日本でのマンションブームは1960年代に花開き、高度経済成長期以降、多くのマンションが建造されてきた。主に都市型の居住形態として広く普及し、都心部では〝億ション〟と言われる高級分譲マンションも建設されている。一方、経年に伴う建物の老朽化などの課題も顕著になってきた。例えば、新耐震基準以降のマンションでも築40年を超えるものが出てきており、劣化具合に応じた適切なメンテナンスが求められている。マンションの建て替えには、着工に至るまでいくつものハードルがあり、デベロッパーやゼネコンが果たす役割の重要性が増している。
デベロッパー 重責担う
専門知識・ノウハウ活用
マンションは主に鉄筋コンクリート造(RC造)もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)で建設されており、一戸建て住宅に多い木造建築と比較して耐久性が高い。
長期的に住環境の堅牢性(けんろうせい)や快適性を維持するには定期的なメンテナンスが欠かせず、「長期修繕計画」を作成して計画に沿った修繕・改築をすることが重要だ。
外壁の剝落やひび割れ、鉄筋の露出・腐食、雨漏り、給排水管の劣化などが進むと、建物だけでなく周辺環境に悪影響を及ぼすこともある。適切な時期に大規模修繕を行うことで、周辺環境の景観保持に役立つ。
耐震性が低い場合、大地震発生時にマンションが倒壊する恐れもある。特に耐震基準の大きな見直しがあった1981年以前に建てられたマンションは、耐震性に不安のあるものも多い。巨大地震発生に備え、これらのマンションの耐震化は喫緊の課題だ。
老朽化したマンションの再生には主に四つの選択肢がある。①外壁塗装工事、屋根防水、給排水管などの更新工事を行う「大規模修繕」②耐震補強やエレベーターの設置など設備機器を追加する「改修」③建て替え④敷地の一括売却-である。老朽化の程度、耐震性、容積率や高さ制限などの建築的な制約、所要費用と改善効果などから総合的に比較・検討して選択することになる。
国土交通省によると2023年末時点でのマンションストック総数は約704万3000戸に上る。そのうち老朽化の目安とされる築40年を超えるマンションはおよそ136万9000戸で、10年後の33年には274万3000戸、20年後の43年には463万8000戸になる見込み。10年後に約2倍、20年後に約3・4倍となる計算で、計画的な修繕・改築が求められる。
マンションの建て替えには区分所有者の合意形成や費用負担、所有者の高齢化、容積率など複数の課題を抱えているケースが多々ある。課題解決のために専門知識とノウハウを備えるデベロッパーやゼネコン、コンサルタントの役割が重要となっている。
旭化成不動産レジデンス/再生 管理組合を一貫支援
旭化成不動産レジデンスは「マンション建替え研究所」という独自の組織を持つ。再生を検討する管理組合を初動期から一貫してサポートし、多くのマンション建て替えを実現してきた。
建て替えは2024年11月時点で49件(着工ベース)に達しており、デベロッパーとしてトップクラスの実績を持つ。等価交換やマンション建替円滑化法組合施行、マンション敷地売却など全ての事業手法で経験を持つ。
郊外の団地から複合用途型マンション、借地権マンション、都心の小規模マンションなど、あらゆるタイプのマンションで建て替えを実現している。これらのマンションでは、耐震性の不足や老朽化という共通の課題に加えて、合意形成や建物計画、手続き面でタイプや事業手法ごとに固有の課題もあった。
現在、再生の必要に迫られている分譲マンションの類型として、都心を中心に建てられた民間企業による分譲マンションがある。都心の高経年マンションでは、外部居住区分所有者の増加とそれに伴う賃貸化の進行、事務所利用の増加などが事業計画や合意形成活動の課題となる場合がある。また、比較的小規模なマンションが多く、理事会の管理組合運営に課題があるケースや、狭小な敷地といった制約から再建マンションの建物計画面で課題があるケースも少なくない。
写真の事例は、もともと1961年に渋谷駅の徒歩圏内に竣工した5階建て40戸のマンションで、建物の老朽化などから再生の検討が始まった。賃貸化や事務所利用の増加など、都心高経年マンションに共通する課題に加え、合意形成面では外国籍の区分所有者(海外居住者含む)への対応などで、特に苦労に直面した。他にも、初期のマンションではありがちな登記上の課題や、事務所を含む借家人への対応など、建て替え実現に向け解決が必要な課題が複数あった。
旭化成不動産レジデンスでは、合意形成や区分所有者支援についての豊富なノウハウを駆使し、参画から約2年で「建替え決議」成立を支援。決議から約2年で着工し、2023年に14階建て61戸のマンションへ建て替えを実現した。
長谷工コーポレーション/建て替え 丁寧に説明 合意形成
長谷工コーポレーションは2024年に47件目の着工、44件目の建て替え事業の竣工を迎えた。これは日本のマンション建て替え実績の約15%にあたる。
1970年に竣工した「渋谷ローヤルコーポ」は駅前再開発エリア「渋谷サクラステージ」に隣接する32戸のマンションである。住民の高齢化が進む中、6階建てにもかかわらずエレベーターが設置されていないことに加え、給排水管の劣化による頻繁な漏水の発生や設備の老朽化の進行により、賃貸に出せない住戸も出てきた。そこで2006年には建て替えの勉強会を開き、管理組合で再生を模索し始めた。
15年に長谷工コーポレーションが事業協力者に選定され、建て替え検討を支援。当初、従前敷地だけで建て替えを検討すると、建物が既存不適格だったため減築しないと建て替えができない状態だった。
そこで管理組合を法人化し隣地の駐車場を買い取ることにより、西側も接道し延床面積を増やすことができた。また、北側の再開発による道路拡幅もプラスに作用し、6階建て・32戸から12階建て・45戸へ、延床面積は約1・7倍を確保することができた。23年5月に「建替え決議」が可決、同年11月に建て替え組合設立認可を経て、24年6月に渋谷区より権利変換計画の認可を受けた。
同物件は賃貸と自己居住がほぼ半数。投資用やセカンドハウスとして使っている外部居住者も多く、当初から合意形成が困難になることが予測された。コロナ禍で2年ほど手続きが進まない時期を挟み、建替え決議後は建築費の高騰により負担額を引き上げてもらう必要性に直面。「建替え決議で諮った条件と変わるので理事会では判断できないということになり、区分所有者全員にお会いして、懇切丁寧に事情を説明し最終的には全員に了解をもらうことができた」と合意形成に奔走した建替・再開発事業部の岡部景部長は話す。
同事業は長谷工コーポレーション、長谷工不動産、東急が参加組合員として事業参画している。再開発エリアに隣接し北側には公園が広がる絶好の立地に、いよいよ来年着工を迎える。