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不動産(2024年3月)
働く場に人が集まり、街に新たな価値をもたらす―。コロナ禍を機に働き方や働くことの意義が見直され、街づくりの重要性が増している。東京都心では「100年に一度」と表現されるほど再開発ラッシュが続いており、立地や設備、環境性能などに優れる大型オフィスビルが相次ぎ完成。産学官金などさまざまな分野から人を呼び込み、交流を促すことで、街のにぎわいやイノベーションを創出する場として注目が集まっている。
街に新たな価値をもたらす不動産
木造―行きたくなるオフィス/三井不動産
「日本橋に森をつくる」―。三井不動産は1月、こうしたコンセプトに基づく木造賃貸オフィスビルを東京中央区の日本橋エリアで着工した。構造は木造と鉄骨造のハイブリッド。地上18階建てで高さが84メートル、延べ床面積2万8000平方メートルで、完成すれば木造混構造の賃貸オフィスビルとして国内最大・最高層となる。
構造材は三井不動産グループ保有林を含む1100立方メートル超の国産木材を使用。躯体部分での建築時の二酸化炭素(CO2)排出量に関しては、同規模の一般的な鉄骨造オフィスビルに比べて約30%の削減効果を見込んでいる。これは三井不動産と日建設計が作成したマニュアルをベースに、不動産協会が策定した「建設時GHG排出量算出マニュアル」の適用によってCO2排出量を把握する初のオフィスビル物件でもある。
同ビルは竹中工務店が開発、大臣認定を取得した耐火・木造技術を導入。主要な構造部材に木材を活用する。
木造オフィスビルだからこそ実現できる「行きたくなるオフィス」をテーマとしており内装・仕上げ材にも木材を活用し、木ならではのやすらぎやぬくもりを五感で感じられるオフィスビルの実現を目指す。
エントランスホールは上質な吹き抜け空間とし、壁には三井不動産グループ保有林の木材を使用。天井には三井ホームが持つ木接合技術を活用する。事務所の専有部は木の構造部材に働き手が触れられ、香りを感じるオフィス環境とすることで、生産性向上などの効果創出を狙う。
また、今後不動産業界で活用が期待されるさまざまな新技術・新製品を取り入れるほか、建築廃材やリサイクル材の活用を進めていく。
その一つが、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験。フィルム基板上に印刷技術を用いて製作でき、軽量・フレキシブルな次世代の太陽電池として注目される同電池の新たな用途への適用を目指す。
このほか大気中のCO2を吸収するアサヒ飲料の「CO2を食べる自販機」を共用部に設置。1台当たりのCO2の年間吸収量はスギ(林齢56―60年想定)約20本分の年間吸収量に相当するという。
交流促進―多彩な人材集積/三菱地所
三菱地所グループは、20年代における丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町)の街づくりを「丸の内NEXTステージ」と位置づける。思い描くのは、企業が集まり・交わることで新たな「価値」を生み出す舞台の創出だ。
近代日本の黎明(れいめい)期に「日本の経済発展を支えるビジネスセンター」創造を目的として開発された丸の内エリア。今ではビジネス街「丸の内」、金融センターでありメディア企業も集積する「大手町」、ショッピングやグルメ、エンターテインメントなどを楽しめる「有楽町」とさまざまな顔を持つ。
丸の内エリアについて、同社が新たな街づくり戦略を掲げたのは新型コロナウイルスの感染拡大期にあった20年のこと。それまでの「就業者28万人が毎日8時間×週5日過ごす場」から、「多様な就業者100万人が最適な時間に集まり、交流して価値を生み出す舞台」に変えるため、さまざまな取り組みを行ってきた。
こうした取り組みの成果は、最新の「経済センサス活動調査」を基にした集計にも表れている。丸の内エリアでは21年に就業人口が約35万人(14年調査では28万人)、事業所数が約5000(同4300事業所)と、ともに2割程度増加した。
産学官金が集積する地域特性を生かし、新たな拠点形成の計画も進む。今秋、気候変動対策を目的としたテクノロジー「気候テックClimate Tech」領域における国内初のイノベーション拠点「Japan Climate Tech Lab(仮称)」を「新大手町ビル」に開設する。
この拠点では、地球規模での最重要課題である気候変動対策に取り組むスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)、金融機関、アカデミア、行政機関などの産学官金の担い手が有機的に連携してイノベーション創出を目指す。このため、関係者の交流を促すラウンジやカフェ・キッチン、有識者によるセミナーやワークショップを行うイベントスペースのほか、活動拠点となるサービスオフィスなどを備える計画。
またスペースの提供だけでなく、気候テック(Climate Tech)に取り組むスタートアップの成長支援、最新トレンドの発信などを予定。カーボンニュートラル達成に向けて活動する事業会社の課題解決支援プログラムも実施する考えだ。