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精密フィルターと関連機器
極超低圧駆動で高透水・高耐久性を実現するPOU用逆浸透膜モジュール
【執筆】
信州大学 特別栄誉教授 遠藤 守信
工学部准教授 竹内 健司
世界人口の約80%が安全な飲料水を得ることに困難が有り、また水道水を飲める国は日本を含めて9カ国で、注意を要する国も30カ国程度にとどまる。大半の国々では安全で衛生的な水道水の確保が課題となっている。今後、経済成長や人口増加に伴い消費水量は増加し、2030年までに世界で必要とされる水量の約40%が不足すると危惧されている。こうした中、日本の膜技術が重要性を増している。
水資源問題と膜技術への期待
米国地質調査所(USGS)は地球をサッカーボールのサイズに例えて地球上の利用可能な淡水資源を一カ所に集めると、わずか一粒の雨滴の量になると示唆している。限られた淡水資源の活用は、文明の持続的発展と経済活動の安定化に不可欠である。さらに、近年では有機フッ素化合物(PFAS)による飲料水汚染が指摘され、高度な水処理技術の必要性が高まっている。
このような背景の下、信州大学アクア・リジェネレーション(ARG)機構は海水の淡水化、飲料水の浄化、工業用水などの再生利用を担う新たな逆浸透(RO)膜技術の開発と社会実装を産学官連携で進めている。
日本の膜科学の研究論文数は2000年には世界3位と高い実績を有していたが、20年頃には日本はトップ10圏外へと後退している。日本のRO膜産業は世界トップクラスのシェアを誇っているが、新興国の台頭や欧米企業の積極展開によって国際競争が激化している。今後は性能をさらに高め、日本発の膜イノベーション創出によって、科学と技術の両面から基幹産業の一つでもある膜市場での優位性を確保することが重要である。
極超低圧駆動RO膜の革新性
ARG機構の「RO膜浄水システム」は、厚さ約200ナノメートルの架橋芳香族ポリアミドの活性層に水圧を印加して水分子のみを透過し浄化するクロスフロー方式を採用した。含有イオンや有機分子、細菌などの不純物を濃縮水として排出する。従来の低圧RO膜は0・6メガパスカル程の加圧を要し、透過した浄化水の回収率が原水の15-65%と比較的低いことが課題だった。
この極超低圧RO膜は0・2メガパスカルという世界最小レベルの圧力で動作する。浄水回収率は70-75%と高効率で、排水の発生を低く抑え従来と同等の不純物除去機能を有している。日本やアジア諸国の一般的な水道圧(0・2メガパスカル)に適合し、ブースターポンプを必要とせず電力不要のオフグリッド環境で使用できる。
特に、電力供給が不安定なベトナムでは停電時に備えて、浄水器貯水タンクが不可欠である。また、同国の数百万世帯の富裕層が電動浄水器を使用する場合、電力消費量が増し、工業化を急ぐ同国では電力不足を助長する恐れがある。同RO膜を用いた浄水器は水道蛇口直結で常に新鮮で安全、衛生的な浄水が得られ、水課題に対応する最適解となり得る。
ベトナムでは既に浄水器が広く普及しているものの、安全な水を求める声は依然として多い。家庭や学校、病院、ホテル、特定の地域での新たな市場開拓が期待される。(協力=環境向学ベトナム)
技術的特徴と市場展開
極超低圧RO膜は架橋芳香族ポリアミドに食品用として利用されるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを添加したナノ複合RO膜であり、従来の市販RO膜に比べ、次の特徴を備えている。
①極超低圧(0・2メガパスカル)駆動で、従来の2・5ー3倍の高透水性を実現②優れた不純物除去性能と耐ファウリング性③塩素耐性を向上させたロバスト膜。これらにより、小型で高性能な浄水器が可能となり、特に使用地点設置型として有望である。
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極超低圧高透水性RO膜で構成したスパイラルモジュール(2インチ、4インチ)とベッセル。ANSI58の認証取得(21年9月、24年12月)
アジア諸国にみられる低圧の水道環境に適合し、水道水質が懸念される国、河川に海水が逆流したりヒ素などの重金属で汚染される地域、高硬度水で軟水化対策を要するケースなど用途は多岐にわたる。ベトナムやタイ、中国、カナダでの水道蛇口直結型浄水器としての試験では、その性能と水質安全性を確認している。また、同RO膜モジュールは米国公衆衛生・安全認証機関(NSF)浄水膜規格である 「ANSI58」(RO膜浄水器)認証を日本国内では先駆けて取得した。水質検査をクリアし、PFASの除去性能も含まれている。この認証はメード・イン・ジャパンのブランド性と共に国際市場での競争力になると期待している。
ハンドポンプ浄水器の実証実験とグローバル展開
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インド西ベンガル地方で実施した井戸水対象の手漕ぎポンプ浄水器試験(Abdul Latif Jameel社(SAU)、Community Jameel,London(UK),Jameel Corporation(日),Rupantaran Foundation(印)
極超低圧駆動性能を生かして、ARG機構では手漕ぎポンプタイプの浄水器も開発した。例えば、インド西ベンガル地方のガンジス川河口地域の井戸水を対象とした6カ月にわたる実証実験では、浄化水の水質検査を行い高評価を得た。
この極超低圧高透水性のロバストRO膜・モジュールには各方面から関心が寄せられており、国内外の企業・研究機関との共同開発を推進している。この他に、海水淡水化用RO膜、半導体や工業用水再生用RO膜・モジュールなども開発している。
水の惑星・地球において持続可能な水資源を確保するため、日本が得意とする膜技術の果たす役割は極めて重要である。ARG機構は長野市に拠点を構え、当チームはその一翼を担い、浄水で世界貢献を果たすことを目指している。