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めっき技術
めっきは、水溶液中の金属イオンを還元析出し、被めっき体に金属膜を形成する表面処理技術である。近年、金属積層造形(Additive Manufacturing、AM)技術の普及が進む一方で、従来の切削加工品より表面が粗く、産業用途が限定されている。めっき技術によるAM造形体の表面粗さの低減と、その形彫り放電加工用電極への応用など、めっきによる機能付与と新たな産業への用途について紹介する。
複雑AM造形体の実用化に向けた表面処理技術の取り組み
【執筆】兵庫県立工業技術センター 研究員 山田 直輝/課長 山口 篤
AM造形体表面の凹凸・欠陥への課題
めっき技術は、水溶液中の金属イオンを電気化学的に還元析出させ、対象物の表面に金属皮膜を形成する表面処理技術であり、産業機器から微細な電子デバイスまで現代のモノづくりに不可欠である。近年、樹脂や金属のみならず、セラミックスやその複合材料を用いたAM技術が急速に普及し、製造業に変革をもたらしている。
めっきはAM造形物にさらなる機能性や付加価値を与える重要な技術として注目を集めている。金属AMの中でも主流である粉末床溶融結合法は、レーザーなどの熱源で金属粉末を局所的に溶融・凝固させて造形を行うため、その寸法精度は粉末の粒度やレーザー光のスポット径に大きく依存する。一般的に、金属AM造形体の表面はレーザー走査時に生じるビード(溶接痕)の重なりに起因する大きな表面粗さを有する。
特に、サポート材側に面するダウンスキン面では、周囲の未溶融粉末が熱影響を受けて不完全な溶融凝固を起こし粉末形状が残るため、積層上面と比較して著しく表面粗さが増大する。さらに造形時の外周レーザー走査の有無などの造形条件によっても表面粗さは大きく異なる。また、空孔やスパッタ(溶融金属の飛散物)の付着などの表面欠陥も多数発生する。
これら金属AM造形体の表面粗さや表面欠陥は応力集中源となり機械的特性の低下を引き起こすため、実用部品として利用するには用途に応じた表面平滑化を目的とした表面仕上げが不可欠である。
従来の金属AM造形体の表面仕上げにはショットブラスト処理などが用いられているが、造形体表面への砥粒(とりゅう)残留や複雑形状への処理不足という課題がある。
また、造形途中や造形後に切削加工を行う場合、高精度な表面が得られる一方で相応の加工時間を要し、形状が複雑化するほど難易度は上がる。汎用金属粉末としてステンレス鋼(SUS)系やアルミニウム(Al)系などが用いられる金属AMに対し、湿式プロセスであるめっき技術を適用できれば、複雑形状の内面や微細部への処理が可能となり、めっき産業の市場拡大にも直結する。
めっき前処理による表面平滑化の可能性
はじめに、金属AM直後の造形体に対して厚付け銅(Cu)めっきによる表面仕上げを試みたところ、およそ100マイクロメートル(マイクロは100万分の1)のCuめっき膜を形成することで平滑化の効果は確認されたが、微細な空孔内部へのめっき液の回り込み不足から皮膜内に空隙を残しやすく、残留液による腐食など経時的な品質不良につながることが懸念された。
このことから、金属AM造形体に対しても従来のめっき処理と同様に前処理が不可欠であることがわかった。金属AM造形体は、レーザーによる急冷凝固の繰り返しにより積層されるため、その組織は一般的な鋳物などの平衡状態とは大きく異なる。
例えばAl—ケイ素(Si)粉末を用いた場合、SiがAl中に過飽和に固溶し、その周囲を極微細なセル状デンドライト(樹枝状結晶)組織が覆う特異なミクロ組織を呈する。
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図1 各めっき処理工程による表面粗さの変化とその表面性状
今回は、Al—Si粉末の金属AM造形体に添加剤などを含まない単純な薬液による前処理を試みた結果、各工程を順次行うことで表面粗さをおよそ4マイクロメートルまで低減できた(図1)。しかし、表面にはビードの重なりが見られることからSiの偏析層が残存していると考えられ、前処理液のみでさらなる表面粗さの低下を図るには適切な添加剤を加える必要がある。
他方、前処理後にCuめっきを行うことで金属光沢のある健全な表面が得られることから、めっき処理は金属AM造形体の表面仕上げとして十分に活用できる。さらにニッケル(Ni)やNi—タングステン(W)などのめっきへ展開することで、耐食性や機械的強度の飛躍的な向上が期待でき、金属AM造形体への高付加価値付与が期待できる。
形彫り放電加工電極への応用
最後に、金属AM技術とめっき技術を組み合わせた具体的な取り組みとして、形彫り放電加工用めっき電極への応用を紹介する。放電加工は、高電圧をかけた工具電極と工作物を接近させた際に生じる絶縁破壊を利用し、工作物を非接触で高精度に加工する技術であり、航空部品や医療機器部品など多様な産業分野で広く活用されている。
特に形彫り放電加工は工具電極の形状を工作物に転写して底付きの3次元形状を作製できるが、粗加工、中加工、仕上げ加工といった用途ごとに塊材からの削り出しで電極を一つずつ作製し、また消耗を伴うため複数本の電極を用意する必要がある。一般的に電極はCuやその合金、グラファイトなどの塊材から切削加工されるため、高い作製コストと多大な材料ロスが課題である。
材料ロス低減と軽量化に貢献
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図2 Cuめっき電極(a)および加工工作物(b)の外観
そこで、金属AM技術により下地となる電極形状を作製し、放電加工に寄与する箇所のみにCuめっきを施すことで形彫り放電加工用電極へ応用した。これは従来の切削電極に対する大幅な材料ロスの低減や軽量化、さらに内部への冷却機構の付与による高機能化をもたらす。実際に、兵庫県立工業技術センターのロゴマークを模した金属AM造形体を作製し、前述の前処理およびCuめっきを施した工具電極を用いて放電加工を行った結果、従来の切削加工では実現が難しい狭小部も問題なく加工できることが実証された(図2)。
通常、めっき技術は装飾性や耐食性などを目的とし皮膜の恒久的な健全性が求められるが、放電加工用電極のようにあえて消耗する機能層への適用は、めっき技術の新たな利用価値を見いだすものと期待する。
