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めっき技術
めっきは物質の表面に物質の皮膜を形成する表面処理技術。製品の外観を美しくしたり、金属の酸化防止や耐久性などの機能を高めたりと、モノづくりを支える基盤技術として重要な役割を担う。めっき技術は自動車部品や電子機器だけでなく、半導体関連でも活用されており、幅広い業界で存在感を発揮している。これらの業界では高強度や耐摩耗性、耐食性、導電性などの性能向上が求められている。今回は大阪公立大学の工学部マテリアル工学科の渡邉充哉助教と瀧川順庸教授に電析による高強度合金の開発動向について語ってもらった。
電析法で拓くギガパスカル超級高強度合金
【執筆】 大阪公立大学 工学部 マテリアル工学科 助教 渡邉 充哉/教授 瀧川 順庸
高信頼性材料の開発動向
金属は、私たちの社会を支える基幹材料であり、その性能向上は常に求められている。特に構造材料においては、「強度」と「延性」の両立が高信頼性材料開発のカギである。この課題に対し、複数の合金元素をほぼ等物質量比で混ぜ合わせた合金設計の新しい概念である、ハイエントロピー合金やミディアムエントロピー合金が注目されている。
これらの高濃度多元系合金では、結晶粒の微細化による強度の増加率が従来合金と比較して大きいことが知られており、力学特性の向上には結晶粒の微細化が有効である。我々は、液中ボトムアッププロセスである電気めっき(電析)に着目し、これまで作製が困難であった厚肉のナノ結晶ミディアムエントロピー合金を創製するとともに、その巨視的な特性を明らかにした。
ナノ結晶多元系合金の厚肉電析
高強度化の有効な手段として結晶粒の微細化が知られているが、従来の強ひずみ加工では粒径100ナノメートル(ナノは10億分の1)程度が限界であり、10ナノメートル級のナノ結晶多元系合金を厚肉材として得ることは困難であった。
一方、電析法は湿式ボトムアッププロセスであり、ナノ結晶や過飽和固溶体といった非平衡組織を有する厚肉材を容易に創製できる特異な材料プロセスである。
我々は、水溶液中での電析が可能であり、還元電位が近接している鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の3元素からなるFeCoNiミディアムエントロピー合金(MEA)に注目した。この合金は、ナノ結晶ミディアムエントロピー合金の電析プロセス構築に適した合金である。
電析条件を精緻に制御し、光沢化剤を添加するとともに高電流密度を印加することにより、引っ張り試験による延性評価が可能とされる厚さ0.2ミリメートルの厚肉材を得た。
この開発合金は約10ナノメートルのナノ結晶から構成される、面心立方構造(fcc構造)のFeCoNiミディアムエントロピー合金である。これにより、ナノ結晶高濃度多元系合金の巨視的な力学特性を解明することが可能となった。
卓越した高強度と延性バランス
このように創製したナノ結晶FeCoNiミディアムエントロピー合金を引っ張り試験により評価した結果、最大引っ張り強さは1.6ギガパスカルに達した。これは、FeCoNiミディアムエントロピー合金としてこれまで報告されてきた中で最も高い強度である。既往研究の引っ張り試験結果と比較し、強度が大幅に向上したにもかかわらず延性はほとんど低下しておらず、強度と延性の両立を実現した。
粒径微細化による高強度の発現を定量的に検討し、サブミクロンオーダーより微細化された領域では、粒界が占める体積割合の増大に伴う特異変形の発現を見いだした。一方で構造材料としての応用を考えると、3.3%という破断伸びにはさらなる改善の余地がある。電析純ニッケルおよびニッケル合金において、延性はX線回折プロファイルにおける200回折の相対強度と相関を示すことが示されており、開発合金の破断伸びもこの傾向と一致している。今後、電析条件の最適化により結晶成長を制御することで、破断伸びのさらなる向上が可能であると考える。
結晶構造制御による高機能化
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写真 開発bcc FeCoNi MEAの走査透過電子顕微鏡写真(明視野像)。粗大な結晶粒の間隙にナノ結晶が分布した独特の組織を有する -
図 開発合金および既往研究において報告されているFeCoNi ミディアムエントロピー合金(MEA)の強度と延性の関係
併せて、強度と延性のバランスをさらに高めるアプローチとして、結晶構造の制御に着目した。鉄の比率を高めた合金を設計し、体心立方構造(bcc構造)を有するFeCoNiミディアムエントロピー合金の作製を試みたところ、電析により過飽和に鉄を含むbcc構造の固溶体の創製に成功した(写真)。得られた合金は、従来の制御法では困難であった10マイクロメートル程度の粗大な結晶粒と20ナノメートル程度のナノ結晶が混在する不均一な粒径分布を有していた。
この結果、bcc構造のFeCoNiミディアムエントロピー合金は引っ張り強さ1.2ギガパスカル、破断伸び6%を達成し、強度・延性バランスに優れていた(図)。これは、均一に微細化するのではなく、不均一な粒径分布を導入すると同時に、bcc構造を形成させたことが、高い強度を保ちながらもひずみ硬化能を維持することに寄与したものと考えられる。
電析法の特異性生かし次世代材料の開発へ
これらの成果は、電析というプロセスがナノ結晶や過飽和固溶体といった非平衡組織を有するFeCoNiミディアムエントロピー合金厚肉材の創製に極めて有効であることを示している。開発合金はギガパスカル超級の卓越した強度と延性を両立しており、これは金属材料分野の学術的・産業的な発展に貢献できる成果である。このような高強度合金は次世代の構造材料として、あるいはしなやかな硬質めっきとしての応用が期待される。
また、典型的にミディアムエントロピー合金は従来合金と比較して拡散が遅いことが知られており、実際に電析ナノ結晶FeCoNiミディアムエントロピー合金は、純ニッケルよりも高温でナノ結晶組織を維持できることも実証した。耐熱性の克服により、高温環境への適用も有望である。
今後は、延性改善や第4元素の添加による、さらなる高度化や新規特性の発現など、力学特性以外にもますます多角的に研究を展開したい。
電析プロセスが持つ特異性を最大限に生かし、産業界のニーズに応える革新的な次の時代を担う材料の開発にまい進していく。
