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紙・パルプ産業
製紙会社や紙流通大手が紙や木材原料による付加価値の創出に力を入れている。色合いや質感など印刷用紙が持つ特性を生かして書籍の魅力を高める取り組みから、食品添加物への木材活用に至るまで、その領域は幅広い。デジタル化により紙消費の減少が進む中、素材が持つ力をフル活用して需要を掘り起こす。
付加価値を創出—魅力高める
大王製紙/上質紙、鮮やかな色合い 電子書籍にはない価値
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大王製紙は文芸誌ゴートに鮮やかな色合いの上質紙などを提供
大王製紙は小学館(東京都千代田区)発刊の文芸誌「GOAT(ゴート)」に、環境に配慮した紙や鮮やかな色合いの上質紙を提供し、紙の魅力を発信している。作品の雰囲気やストーリーを引き立たせる紙を使用し、電子書籍では生み出せない価値を創出。文芸誌販売は一般的に数千部とされる中、2024年11月発売のゴート創刊号は5万部と好評だ。
書籍では複数の製紙会社の紙が使われるのが通常だが、ゴートでは表紙や本文など全てに大王製紙の紙を採用。「愛」をテーマにした創刊号では、農業残渣(ざんさ)のもみ殻を混合して自然な風合いを出した混抄紙のほか、桃色や空色など明るい上質紙を使った。
一方、「悪」がテーマの第2号では通常の黒よりも濃いため“究極の黒〟と呼ばれる「漆黒」を採用。緑を基調とした「うぐいす」や「わかくさ」の色も組み合わせて独特の雰囲気を演出した。
大王製紙の石原一輝印刷・出版用紙第三課課長は「若者にもページをめくったり読み進めたりする楽しみを体験してもらえるよう、さまざまな紙を提案していきたい」と話す。
日本製紙/米粉麺、歯ごたえ向上 CNF—食品に添加
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日本製紙のセルロースナノファイバーは富士市商工会の米粉麺の添加物に採用された
日本製紙は紙の原料となる木材繊維をナノレベルまでほぐした素材「セルロースナノファイバー(CNF)」の用途開拓を推進している。粘性や保水性、保形性に優れるため、すでに和菓子やパンでしっとり感やふっくら感を出すための添加剤として使われている。
直近では富士市商工会(静岡県富士市)が販売する富士市のコメを用いた米粉麺「富士山ひらら」のリニューアル品に、日本製紙のCNFが採用された。米粉はグルテンがないため麺が切れやすい課題がある中、CNFを添加し保形性を高めたことで、煮込み麺や焼きうどん風の料理などへの応用が容易になった。麺にコシも出て、もちもちとした歯応えやつるつるとした口当たりも向上した。
このほかCNFは化粧品に添加することで増粘性と感触の良さの両立、微粒子素材の分散安定などに寄与する。また高い弾性率などを持つCNFを樹脂やゴムに均一分散することで強度向上も見込めるため、車載部品や家電の筐体(きょうたい)などに応用する研究開発も進めている。植物由来のため生産・廃棄時の環境負荷が小さいことも訴求し、市場を開拓する。
KPP/和紙から糸 作成 学生が衣類デザイン
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KPPは和紙から作った糸の普及啓発に注力する -
KPPは東京モード学園で紙糸に関する講義を開いた
KPPグループホールディングス(HD)は和紙から作った糸の普及啓発に注力する。子会社の国際紙パルプ商事(東京都中央区)と王子ファイバー(同区)が、服飾などの専門学校の東京モード学園(東京都新宿区)で紙糸を使った作品制作プロジェクトを6月に開始。学生の感性が反映された紙糸由来の衣類などを10月に東京ビッグサイトで開催される展示会「ファッションワールド東京」で披露する。
利用する素材は王子ファイバーが企画・製造する紙糸「かみのいとオージョ」。マニラ麻を原料にした和紙を細長くスリットし撚りをかけて糸にした素材で、多孔質構造のため吸湿・放湿性に優れドライな肌触りが続く。織り方や編み方などに応じさまざまな風合いを出せるほか、生分解性も併せ持つ。すでに衣類やかばん、靴などに使われている。
2社が6月に東京モード学園で開いた同素材に関する講義には99人の学生が参加。紙糸の特徴を説明するとともに生地に触れる機会を提供した。今後は学生がデザインした衣類などの中から4案を選定し、作品化して考案者のクレジットとともにファッションワールド東京で展示する。
