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紙・パルプ産業
サーキュラーエコノミー(循環経済)の重要度が高まる中、製紙各社がアップサイクル戦略を相次ぎ打ち出している。異業種と連携し、従来廃棄処分されていた紙容器などを回収し、新たな商品として再生・供給する取り組みだ。製紙各社は古紙回収など再資源化に関する各種ノウハウを持つ。これらの強みを生かし、環境負荷低減に貢献するとともに、紙の新たな価値や市場創出につなげる狙いがある。
新たな価値・魅力を創出/異業種と連携ー商品に再生
紙コップ→タオル・エプロン/日本製紙
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使用済み紙容器由来の紙糸を使った布製品ブランド「choito」のエプロン
日本製紙は紙コップや紙パックなど使用済みの飲料用紙容器をリサイクルした紙糸を用いた布製品ブランド「choito(チョイト)」を立ち上げるとともに、紙容器の回収から再資源化、製品化を推進する事業者参加型のプロジェクトを始めた。
事業者は使用済み紙容器の専用回収キットを店舗などに設置し、一定量を確保した後、日本製紙側に発送する。回収した紙容器を日本製紙の工場でパルプ化し、タオルやエプロンといった事業者が希望する布製品にリサイクルする仕組みだ。日本製紙子会社の日本紙通商(東京都千代田区)が事業者に対し、リサイクル証明書も発行する。UCCグループや京橋千疋屋(東京都中央区)などが同プロジェクトに参画している。
紙容器は食品残渣(ざんさ)物の汚れなどによる衛生上の観点などからこれまでリサイクルが難しく、一般ゴミとして廃棄されていた。日本製紙はこうした課題を踏まえ、22年10月に同社富士工場(静岡県富士市)において食品・飲料用紙容器類専用のリサイクル設備を稼働。高品質・高白色のリサイクルパルプ生産を可能にする体制を整備した。今後も同プロジェクトへの参加企業を増やし、循環経済の実現に貢献する考えだ。
豆の麻袋→コーヒーパッケージ/王子HD
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王子エフテックスはキーコーヒーなどと連携し、廃棄されていたコーヒー豆の麻袋をパルプ化して活用した混抄紙を開発。キーコーヒーが自社の商品パッケージに採用した
王子ホールディングス(HD)子会社の王子エフテックス(東京都中央区)はキーコーヒー、三井物産パッケージング(東京都港区)と連携し、コーヒー豆の輸入時に使われる麻袋(またい)をパルプ化し、原料の一部として活用した循環資源混抄紙「MEGURISH《メグリッシュ(麻)》」を開発。キーコーヒーが同社の業務用商品に採用した。
キーコーヒーが排出した麻袋を三井物産パッケージングが選別・回収し、王子エフテックスがパルプ化と紙の製造を担う。完成した混抄紙をキーコーヒーの商品のパッケージに採用することで、アップサイクルに成功した。麻袋はこれまで一部を観光農園などに寄付していたものの、大半が廃棄されていたという。
コート紙薬品→コメで代替/北越コーポレーション
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ペーパルが北越コーポレーションと連携して開発した「komeーkami(コメカミ) 浮世絵ホワイト」。廃棄予定だったコメを活用した
紙卸商のペーパル(奈良市)は北越コーポレーションと連携し、廃棄予定だったコメを使った紙素材「komeーkami(コメカミ)浮世絵ホワイト」を開発した。印刷特性を高めるために紙の表面に塗る化学薬品をコメで代替し、製造時の二酸化炭素(CO2)排出量の削減に成功した。
浮世絵ホワイトは江戸時代に浮世絵の発色向上にコメが使われていたことに着想を得ており、同製品は浮世絵のように鮮やかで力強い色を出せる特徴を持つ。ペーパルの廃棄素材の前処理に関する知見と北越の製造技術を合わせ、商品化した。これまでに名刺やカタログ、化粧品の包装用途などで採用実績があり、今後商品の拡充を検討する。
アップサイクル戦略推進
環境負荷の低減やサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化などを背景に、循環経済の実現に向けた取り組みが国と産業界の双方で活発化している。製紙業界は新聞紙や段ボールといった古紙を回収、選別し、水平リサイクルしてきたノウハウがあり、循環経済との親和性が高い。デジタル化を背景に紙の内需が先細りする中、製紙各社はアップサイクル戦略を推進することで、紙の新たな価値や魅力を広くアピール。循環経済の推進を下支えしていく方針だ。