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紙・パルプ産業(2024年8月)
製紙各社は紙の製造で培った知見を生かした環境配慮型の新素材など新技術・製品開発を積極的に進めている。デジタル化の進展を背景に印刷用紙など紙の需要が縮小する中、脱プラスチックやサーキュラーエコノミー(循環経済)など世界の新たな潮流をビジネスチャンスととらえ、収益の柱に育てるためだ。業界は転換期を迎えている。
新たな潮流、好機に
紙の需要が停滞している。日本製紙連合会が7月に公表した6月における紙・板紙の国内出荷は前年同月比6・3%減の158万3000トンとなり、22カ月連続で減少した。1-6月についても前年同期比5・4%減の978万4000トンと2年連続で前年を下回った。デジタル化の影響でグラフィック用紙などの需要が縮小しているためだ。
こうした厳しい事業環境の中、製紙各社が持続的な成長に向けて活路を見いだすのが脱プラスチック化などに貢献できる環境配慮型の新技術・新製品の開発だ。
大王製紙/木質由来のCNF 高強度・軽量を両立
大王製紙が注力するのが木質由来の新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」だ。同社はCNF複合樹脂の商用プラントを主力工場である三島工場(愛媛県四国中央市)内に新設し、2025年度に稼働することを決めた。投資額は約40億円。年間生産能力は2000トンを計画する。CNFの商用プラント設置は同社として初めて。
CNFは木材パルプ由来で繊維を細かくほぐした素材。高強度と軽量を両立でき、プラスチックの使用量を削減できる。大王製紙は22年3月にパイロットプラントを三島工場で稼働。電動車など「自動車部品向けを中心に引き合いが来ており、需要が見込める」(大王製紙)ことから商用プラントの設置を決めた。
同社は紙の製造に使う既存設備を活用しつつ、CNFと樹脂の混練用設備などを導入し、CNF複合樹脂「ELLEX-R67」を生産する。紙に尿素を含ませた上でカルバメート化と呼ばれる変性を施し、部分的にCNFまで解繊した後、樹脂と混ぜてペレットにする。
商用化の課題だった製造コストを低減できる量産技術を確立した。混練用設備の開発などでは芝浦機械と連携。自動車のほか、家電や日用品など幅広い分野での用途展開を積極的に進める。
日本製紙/使用済み紙コップ 水平リサイクル
一方、日本製紙は5月、日本航空(JAL)、東罐興業(東京都品川区)と共同で使用済み紙コップの水平リサイクルに成功した。JALが機内で回収した紙コップから日本製紙が原紙を作り、東罐興業が加工を担った。使用済み紙コップを再資源化し、紙コップに再生する資源循環の実現は珍しい。6月にJAL国内線の一部区間で期間限定で提供された。
再生紙コップは古紙パルプ配合率が25%で、一部にJALの機内サービスで使われた紙コップが含まれている。日本製紙は今回のプロジェクトの実現に向け、JALから回収した紙コップの収集から梱包、保管、輸送、リサイクル処理までのリサイクルチェーン全体で異物が混入しないシステムを構築。さらに食品・飲料容器専用リサイクル設備を新規導入し、品質や衛生面への配慮を徹底した。日本製紙は「紙容器のリサイクルが社会へ浸透することにつなげたい」とする。
王子ホールディングス/木材由来のポリ乳酸 ベンチプラントで合成
王子ホールディングス(HD)は5月に木材由来のポリ乳酸を合成するベンチプラントを東京都内の研究施設に新設した。年産規模は500キログラム。製造条件の最適化を進め、量産化に生かす。
木材由来のポリ乳酸はバイオマスプラスチックの一種で、食品容器や包装材など幅広い分野で活用が広がる見通し。既に、新設したベンチプラントによるポリ乳酸の合成に成功。紙容器へのラミネートやフィルム用途で、王子グループ内での活用を見据えた技術開発を進める。外部へのサンプル品の提供も行う。