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小規模自治体・技術職不足が深刻
公共施設維持管理の可能性探る 5市町首長が協定締結
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公共施設の維持管理で広域連携に向けた調査に入る協定を結んだ5市町長(8月、貝塚市役所)
大阪市と堺市とを隔てた大和川以南の地域〝泉州〟には、大阪湾の海岸線にほぼ沿うような形で9市4町の13自治体が立地する。
人口規模は政令指定都市で80万人超の堺市に続くのが約19万人の岸和田市、約18万人の和泉市、約10万人の泉佐野市だ。久しく地域の中核として都市機能を維持できる生活圏が人口30万人級と言われてきたが、泉州には堺市のほか存在しない。
大阪都市圏の郊外で大阪市に通勤・通学する住民は一定数ある。ベッドタウンとしての色彩は、堺市と和泉市にまたがる泉北ニュータウンを除いて薄く、南に向かうほど職住近接を選ぶ傾向が強い。人口流出は止まらず、地元への愛着から、若者の定住志向が一定程度あるのは救いだが、人手不足は顕著だ。
自治体職員も例外ではない。特に土木、建築に関する技術職員の確保に悩まされている一方で、老朽インフラの更新時期が続々と訪れる。税収の伸びも期待できず、人口減少下では既存公共施設を維持していけるのかという問題にも直面する。
これらに近隣市町との連携で解決していけるのではないかと仮説を立てたのが、貝塚市の酒井了市長だ。堺市を含む泉州地域の自治体に声をかけた結果、泉佐野市、泉南市、阪南市、熊取町が賛同。8月下旬に、5市町の首長が市営住宅など公共施設の維持管理について連携可能性を探る協定を結ぶに至った。
公共施設におけるエレベーター法定点検や発光ダイオード(LED)照明を共同で調達して維持管理コストの抑制を狙う。民間の提案力を生かした官民連携(PPP)の活用で取り組むこととし、直近で実績のある貝塚市がノウハウを提供。各市町の〝ハコモノ〟施設の情報と維持管理に使えるノウハウを共有する仕組みづくりを目指し、調査が進む。
協定締結式で千代松大耕泉佐野市長は「未発見の金脈を掘り出す機会だ」と歓迎し、藤原敏司熊取町長は「相当厳しい財政が想定される。これを機に広域連携が進むと良い」と希望を表明。合併ではなく市町の自主性を尊重しながら、連携して課題に対応する新たな枠組みに期待した。
10月には堺市を除く泉州地域の8市4町が道路、公園、下水道のインフラ維持管理適正化で合意。12月1日付で国の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」モデル事業に採択された。行政区域を越えて地域のインフラを〝群〟として捉え、地域に必要な機能・性能を維持するために、更新や集約・再編、新設を進めていく構想だ。
地元企業の参画機会確保 民間の提案力に期待
さらに、こうした連携を進めるうえで、各自治体の実務者による連携基盤「泉州地域FM(ファシリティー・マネジメント)連絡協議会」を立ち上げた。12日の設立時点で貝塚市のほか泉佐野市、泉南市、熊取町の3市1町が参画。情報のみを共有するオブザーバーとして堺市、和泉市、岸和田市、田尻町の3市1町などが入った。
また各自治体でノウハウを有する技術職員らが他自治体に知見を伝達し、助言するための人材登録制度「泉州地域公共施設マネジメントサポーター制度」も運用。公営住宅の建て替えなど小規模自治体では経験機会の少ない事業の実施時に、近隣自治体が支援して職員の負担軽減を図る。
広域連携を進めるには業務や工事の発注面で課題もある。一つには地元企業の参画機会確保だ。現在検討を進めているLED照明の共同調達では、PPPの観点から、事業者に設計から据え付け工事まで一括の提案を求める性能発注方式を採用する。地域に対応できる企業がなければ、コストは抑制できても、仕事が他地域に流出する可能性も否めない。
もう一つは発注主体の問題だ。各自治体が長年、それぞれのやり方で入札・契約を行ってきた。一部事務組合などを活用しない限り各自治体が発注し、場合によって議会の議決も必要となる。決して業務効率が良いとは言いがたい。酒井貝塚市長は「泉州地域の〝インフラ局〟(のような組織)ができれば望ましい」と話す。泉州の広域連携がステップを踏んで深化する将来像を描いているようだ。
―魅力訴求し、地域活性化― 着地型旅行商品を造成
大阪・関西万博の開催を控え、リノベーションを進めている関西国際空港では5日、第1ターミナルビルで新国際線の出国エリアがオープンした。万博が開幕する2025年春には国際線保安検査場と国際線ラウンジが完成してグランドオープンを迎える。
コロナ禍の収束や円安の後押しもあって、外国人観光客の訪日需要は旺盛だ。関空では10月の国際線外国人旅客数が、19年比101%とコロナ禍前の実績を初めて上回った。大阪市内や京都市内に外国人観光客が押し寄せる一方、関空のお膝元・泉州エリアは観光客が〝素通り〟している状況だ。
観光による地域活性化は泉州地域にとって長年の課題だ。豊かな自然、歴史・文化・食の魅力あふれるエリアではあるが、核となる観光地がなく、国内外への訴求力も乏しい。
こうした状況を打破すべく堺、泉大津、岸和田、貝塚、泉佐野、高石、和泉の阪南7商工会議所が連携。会議所が主導して、産業観光や特別な見学・体験など、他地域にはない観光コンテンツを開発し、着地型商品を造成しようと取り組んでいる。それぞれ規模が小さくても、まとまれば発言力も大きくなる。
葛村和正堺商工会議所会頭は「大和川以南に企業や開発を誘致する。それが、どのエリアであっても広域経済圏を共有しており、何らかの利益を享受できる。手を携えて地域に活力を呼び込みたい」と地域発展に資する広域連携に思いを託す。