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非破壊検査・計測・診断技術―3
センサー技術による鉄筋腐食の非破壊検査と期待
鉄筋コンクリートの鉄筋腐食を非破壊で検査することは従来困難であった。しかし昨今では、コンクリート内部にセンサーを埋設して、非破壊検査を可能とする技術が実用化されている。鉄筋腐食の検査に適用できるセンサー技術と実用例を紹介する。
鉄筋コンクリート内部の鉄筋腐食は、耐久性の観点からも最も重要な評価項目といえる。一方、鉄筋腐食が表面から判断できる状態になってからでは、腐食膨張によるひび割れが発生しており、結果として、かぶりコンクリートの剥落など、第三者被害につながる可能性が高い。
従来から鉄筋腐食を判定する方法には、自然電位や分極抵抗といった手法が普及している。しかし、実際の鉄筋を計測するため、腐食と判定した時点で想定以上に腐食が進んでいることもある。事後保全として補修が行われることになり、高コストな補修が必要になる。
センサーを利用した鉄筋腐食の検討は国内外で複数の事例が見られ、長期の耐久性も認められ実用レベルに達しているものもある。
中でも「無線識別(RFID)腐食環境検知システム」は、鉄筋を模擬した鉄箔センサー(腐食環境センサー)の腐食による断線現象を、パッシブRFIDで無線計測するシステムとして広く適用されている。
鉄箔センサーは0・01ミリメートル厚の鉄箔で構成されている。コンクリート内部に浸透した腐食因子が、鉄箔センサーに到達すると自身が腐食することで断線に至り電気抵抗が急峻に上昇する。電気抵抗の計測はICカードで利用される近接無線通信技術であるRFIDを通じて行うことで無線計測を実現している。
RFID腐食環境検知システムは通信部であるRFIDも含めてコンクリート内部に埋設するため露出するケーブルもなく、完全非破壊で検査が可能である。
また、実際の鉄筋の腐食を検査する代わりに鉄筋を模擬した鉄箔センサーを利用して計測しているため、鉄筋腐食の可能性を早期に把握できることからコンクリート構造物の予防保全にも極めて有効である。
一方、鉄箔センサーは鉄筋腐食の可能性を把握することができても劣化要因を把握することは困難なため、既往の破壊検査や分析技術と組合せて構造物の劣化状態を総合的に評価することが重要である。
【執筆】太平洋セメント 中央研究所 セメント・コンクリート研究部 部長 工学博士 江里口 玲
高分解能3次元超音波フェーズドアレイ映像化技術の開発
超音波フェーズドアレイ(PA)技術は構造物や工業製品の内部を3次元(3D)で高分解能映像化できる。この技術について紹介する。
エネルギーインフラ構造物や機械部品、製造材料では、疲労き裂、応力腐食割れ、溶接欠陥など複雑形状を有する欠陥が発生することが多い。これらの欠陥の3次元形状を現場で非破壊計測できれば、効率的な強度評価や維持管理が可能になる。
産業分野では、内部の映像が得られる超音波PAの普及が進んでいるが、一般のPAで用いられるのは、短冊状の圧電素子が一列に並んだ1次元圧電アレイ探触子のため、奥行き方向の情報は平均化され、複雑な3次元欠陥形状は得られない。
また2次元圧電アレイ探触子を用いた研究も始まったが、素子数不足から分解能向上には限界があった。
この課題を解決する技術として、東北大学は圧電探触子送信とレーザードップラー振動計の2次元スキャンを組み合わせた3次元超音波PA映像化技術を開発した。
PLUSでは受信レーザーのスキャン点数を任意に増やすことができるため、圧電アレイ探触子の限界(256素子程度)を1桁以上を越える数千素子の2次元アレイが実現可能である。またレーザードップラー振動計は幅広い周波数の超音波を受信できるため、圧電送信探触子を変えるだけで、減衰特性の異なるさまざまな材料にも適用できる。
一方、レーザードップラー振動計は受信感度が低いという欠点もあるが、単一素子の圧電探触子送信により強力な超音波を入射することができるため、この問題も解決できる。
図のように、発電プラントの配管などで問題となっている複雑に枝分かれした応力腐食割れ(亀裂の一種)の3次元映像化にも成功した。
並行して、科学技術振興機構(JST)のプロジェクト「創発的研究支援事業」では、超多素子の圧電2次元アレイ探触子(1024素子)とその制御システム、映像化アルゴリズムを開発した。社会実装に向けて、より実用性を高めたリアルタイム3次元PA映像化技術の開発にも取り組んでいる。
【執筆】東北大学 大学院工学研究科 材料システム工学専攻および高等研究機構新領域創成部
教授 小原良和