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非破壊検査・計測・診断技術―1
「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」について
2022年3月に発行された「定期報告制度における赤外線調査による外壁調査ガイドライン」の作成、発行に至った経緯や主な内容について概説する。
建築基準法第12条第1項の定期報告制度の改正により、新技術によるタイルなど外壁調査の合理化を図るため、赤外線装置による外壁調査でドローンに搭載した赤外線装置の使用が可能となった。
ドローン搭載赤外線装置の外壁調査がテストハンマーによる打診と同等以上の精度で正しく実施されるために必要な事項を定め、広く周知することを目的に、2022年3月にガイドラインとして発行された。
外壁調査における赤外線法は、外壁を撮影、熱画像を解析して修繕箇所を明らかにする。日中の太陽光や外気温上昇で表面から温められるため、建物の躯体には表面から内部へと向かう熱移動が生じる。仕上げ材の内部に浮きが存在すれば、浮き直上の表面温度は健全部に比べて高くなる。夜間には放射冷却があり逆の温度変動がある。
赤外線法は効率的な検査が可能な半面、気象条件や環境の影響を受けるため、検査者には赤外線計測に関する正しい知識と現場での的確な環境判断の能力が要求される。
08年に打診に加えて赤外線装置の使用を可能とする改正がなされ、赤外線装置が使用されてきたが、高層建物の検査や機動性の要望から、ドローンの使用が検討された。17―18年度の建築基準整備促進事業T3では、ドローンに搭載可能な小型赤外線カメラによる実験が行われたが、赤外線画像の中心部に比べ外周で温度が変化する「シェーディング現象」が生じ、浮きの検知性能を低下させることが分かった。
そこで、20年度新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業「ドローン等を活用した建築物の外壁の定期調査に係る技術開発」で赤外線装置の欠点を解決し、ドローンによる建物調査が可能なことが判明した。22年1月には、国交省告示第282号の改正で「一定の実施要領に則れば、ドローン搭載赤外線装置による調査が可能であることが判明したため、ドローン使用による赤外線調査を可とする」ことが示された。これを受けて、外壁調査ガイドラインが発行された。
ガイドラインは赤外線調査、ドローンによる赤外線調査をそれぞれ解説する内容で構成され、検査者が知っておくべき事項がまとめられている。赤外線には適用限界があることを正しく認識すること。打診との併用により診断精度を必ず確認すること。取得した熱画像の分析は撮影者が実施することが書かれている。また2章の解説では、検査者に求める力量要件として「赤外線装置による撮影、診断は、例えば(一社)日本非破壊検査協会が実施しているJIS Z 2305 非破壊試験―技術者の資格及び認証(TT:赤外線試験技術者)の適格性証明(免許証ではない)がある。またはこれと同等の赤外線装置法に関する知識と技量を有する技術者が実施することが望ましい」との記述がなされている。赤外線装置を用いた外壁調査に携わる技術者の積極的な認証取得が望まれる。
【執筆】
神戸大学 大学院工学研究科 教授 阪上隆英
コンステック 技術本部技術企画室 室長 佐藤大輔
水素ステーションの運転中の検査手法(アコースティックエミッション法)の開発
圧力容器に設置したセンサーから弾性波を測定するアコースティック・エミッション法(AE法)が圧力容器の疲労損傷検査に有効な手段として注目されている。
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金属ライナ-の端部にAEセンサーを設置し、供用中に蓄圧器の疲労亀裂の発生・進展に伴うAEを検知 -
圧縮水素スタンド用鋼製圧力容器は、高圧の水素を充填しており、燃料電池車(FCV)への水素供給によって圧力容器内の圧力変動が起きる。この水素内圧の増減の繰り返しにより圧力容器に疲労き裂が発生・進展する可能性があり、現在は定期的な開放検査が求められている。
開放検査は圧縮水素スタンドを休業させる必要があるために運営の負担となり、開放で内部が大気により汚染されるリスクもある。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「水素ステーションの供用中検査手法の開発事業」を2018年から5年計画で実施した。圧力容器に設置したセンサーから弾性波を測定するAE法は、圧力容器の疲労損傷を検査できる有効な手段となり得ることが確認された。
本検査方法の規格化および保安検査方法の確立は、どの非破壊検査事業者でも容易に蓄圧器の健全性を把握することを可能とし、水素ステーションの保安の確保、保安検査期間の短縮および費用の削減への貢献が可能となる。
日本非破壊検査協会(JSNDI)は圧力容器のAE法の民間規格(日本非破壊検査規格 NDIS)で規定する検討を行った。
定期自主検査指針KHK/JPEC S 0850―9(2018)・KHK/JPEC S 1850―9(2019)の適切な非破壊検査の一つとして本規格(NDIS 2436)が引用されれば、圧力容器を開放することなく水素スタンド運転中の保安検査が実施でき安全性が向上するとともに、水素ステーションの整備費・運営費のコスト低減に寄与できる。
【執筆】JFEコンテイナー 高圧ガス容器事業本部 シニアフェロー 高野俊夫