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愛知県 西三河地区産業界特集
西三河地区は、愛知県の中央に位置する製造業の一大集積地。安城市、岡崎市、刈谷市、高浜市、知立市、豊田市、西尾市、碧南市、みよし市、幸田町の9市1町からなる。自動車産業を中心に幅広い分野の企業が集まり、優れた技術で世界のモノづくりをけん引し続けている。EV(電気自動車)シフトにより産業構造に大きな変化が訪れる中、各企業は蓄積した技術を生かし新たな挑戦を続ける。
次世代育てる取り組み盛ん
地場産業伝えるワークショップ
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鋳造体験にチャレンジする子どもたち
人材不足は深刻な社会課題となっており、若者の製造業離れも進んでいる状況だ。そんな中、未来を担う次世代の人材に向けた教育事業や体験教室などを開催し、モノづくりに親しんでもらおうと取り組む企業も多い。
イナテック(西尾市)は自動車部品製造で培った技術を生かし、モノづくりの楽しさを伝える地域貢献事業「ritakobo(りたこうぼう)」を展開している。20年に自社工場内のスペースで鋳造体験工房を開設し、女性社員2人で運営している。地元、西尾市の地場産業である鋳造を多くの人々に知ってもらおうと、鋳造体験授業やワークショップを開催するほか、鋳造や切削の技術を駆使したBツーC(対消費者)製品の開発・販売にも取り組む。
鋳造体験では金属を溶かしてキーホルダーやリングを作る。砂型製作から溶けた金属の流し込み、仕上げまで体験できる。24年は西尾市鋳物協同組合と協力して西尾市立平坂小学校で2回、鋳造体験授業を実施。子どもたちは自分の作品づくりに没頭、完成時は声をあげて喜んだという。
また同社がBツーC製品として開発したのが、「つくる、つづる、つたえる」をコンセプトにした金属製のつけペン「つつつ」。金属製のペン先とペン立てを、切削加工技術で仕上げる。同年1月にクラウドファンディング(CF)サイト「マクアケ」で受注開始し、100本以上販売した。ほかに、鋳造で作ったアクセサリーや小物もオンラインショップや自社内工房で販売している。
ロボコンで学生と中小企業のつながり生む
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24年大会ではペットボトルのキャップを移動させる課題に挑んだ
安城市では、子どもたちにモノづくりの魅力を伝えるとともに、学生と中小企業をつなぐロボットコンテストの取り組みが始まっている。コンテストを主導するのは、自動車部品向け専用機械の設計・製造を主力とするダイマツウ(安城市)の平松朋弥社長。学生時代は「製造業はカッコ悪いと思っていた」(平松社長)が、家業を継ぎ近隣の中小企業の技術力の高さを知ったことで、モノづくりの魅力を若い世代にも伝えたいと考えるようになったという。
小学生向けロボットコンテストを全国で開催するドングルズ(岐阜市)と共同で24年3月に安城大会を初めて開催した。キットを使って市内の小学生が課題に沿ったロボを自由に設計し、組み立てる。コンテストは近隣の工業系高校生や大学生がスタッフとして運営。協賛する地元中小企業はスタッフの学生と交流し、産学連携につなげる。今年は18日に開会式を開く。
平松社長は「コンテストを通じて学生とだけでなく、協賛企業同士の輪も広がり、仕事にもつながっている。10年・20年後を見据えた活動を続けていきたい」と重要性を語った。
趣味を軸に人材獲得
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設置した工業用ミシンは分厚い合皮やプラスチック素材なども縫える
トヨタケ工業(豊田市)は自動車のシートカバー製造が主力。豊田市山間部の稲武地域を拠点に「働く・住む・遊ぶ」を一体で提供する新しい採用の取り組みを進めている。
このたび始めたのは研修用に整備したスペース「トヨタケ道場」の一般開放。7台の工業用ミシンを設置し、ハンドメイドを趣味とする人に貸し出す。ベテラン社員が多く在籍する少量品の設計・試作の部署と隣接しているため、モノづくりで困ったことがあれば相談も可能だ。さらに同社の職業体験もでき、端材を使ったペンケースなどが作れる。趣味と仕事をつなげることで、採用のミスマッチを減らす。同社はこれまでも、山間部の特徴を生かし週に数日はマウンテンバイクのトレイルツアーガイドとして働ける制度などを実施。若手人材を採用してきた。
また移住を希望する社員には空き家も貸し出し可能。管理する6軒の空き家のうち、既に3軒は埋まっている状態だという。同社の横田幸史朗社長は「山間部では会社と人、地域は不可分。趣味や住む場所が仕事を選ぶきっかけになってもいい」と呼びかける。
スタートアップと連携し技術革新ねらう
刈谷市は刈谷商工会議所、碧海信用金庫(安城市)と「刈谷イノベーション推進プラットフォーム」を24年10月に設立した。3者のリソースを活用し、中小企業やスタートアップの連携や事業創出を促し、地域経済活性化につなげる。同月にグランドオープンした愛知県のスタートアップ支援施設「ステーションAi」との連携も視野に入れる。
設立したプラットフォーム(基盤)は定例会議などで地域の中小企業の課題を確認し、企業間の連携などによる事業創出や既存事業改革を促す。会員制交流サイト(SNS)も開設し、24年度中に「西三河オープンイノベーションコミュニティ」を立ち上げる。「中小企業が持つ技術やアイデアが連携できて、新たな産業や事業ができることを期待する」(稲垣武刈谷市長)。
各種補助金の活用も図る。また、ステーションAiのパートナー拠点となることも検討し、愛知県などと協議していく。当面は刈谷市の企業が中心となるが、安城市、豊田市など近隣の自治体や団体との連携も模索し、活動を愛知県西三河地方に広げる方針だという。