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愛知県西三河地区産業界(2024年1月)
安城市、岡崎市、刈谷市、高浜市、知立市、豊田市、西尾市、碧南市、みよし市、幸田町の9市1町からなる西三河地区は、愛知県の中央に位置する製造業の一大集積地。自動車産業を中心に幅広い分野の企業が集まり、優れた技術で世界のモノづくりをけん引してきた。近年では持続可能な社会の実現のため、地域と企業が協力し、次世代モビリティーや農業などあらゆる分野で蓄積した技術の活用が進む。さらに徳川家康が主人公の大河ドラマの放送をきっかけに、ゆかりの地としても全国から注目されている。
変化する製造業の集積地
モビリティー社会に対応
西三河地区は、愛知県内の製造品出荷額等のうち約5割を担うモノづくりの一大集積地。中でも完成車メーカーや部品サプライヤーをはじめ自動車産業に関連する幅広い企業が集まっている。経済産業省が発表した最新の経済センサス活動調査(2021年確報)によると、西三河地区全体の製造品出荷額等総数のうち75%を占める18兆5986億円が輸送機械。県内で輸送機器の製造品出荷額等が最も多い豊田市をはじめ、岡崎市や安城市なども独自技術をもつ企業が多く立地する。
自動車産業が従来の自動車の枠を超えたモビリティー産業へ変化する中、同地域では自動車だけに頼らない交通網や、MaaS(乗り物のサービス化)の構築を目指して取り組みを進めている。岡崎市では、大河ドラマ「どうする家康」の放送に合わせ岡崎公園内に開園した「大河ドラマ館」の来場者急増に伴う交通渋滞が課題となっている。23年10月には混雑解消を目指し、自動運転バスの実証実験を実施。先進モビリティ(茨城県つくば市)から提供されたバスが、市役所の西庁舎ロータリーと図書館交流プラザ「りぶら」間の片道2・3キロメートルを走行した。さらに「ウォーカブルなまちづくり」をテーマにMaaSの実証実験も行った。市中心部を対象に交通手段の検索などを可能にし、市来訪者のパークアンドライドを促進。渋滞緩和につなげる。
豊田市は国土交通省の「自動運転実証調査事業と連携した路車協調システム実証実験」に採択され、11月下旬から電動バスを自動運転レベル2で走行する実証実験を実施した。同市と豊田都市交通研究所(同市)、日本工営が連携し、路線上のセンサーから歩行者や車両の情報を収集。バスに送信することで道路交通の安全性向上を検証した。
安城市は地域における持続可能な移動サービスの構築を目指し、デンソーと自動運転実証調査のコンソーシアムを設立した。市民の高齢化やバスの運転手不足を迎える中、昨年12月には環境負荷低減も狙い自動運転バスサービスなどの実証実験を開始。経営、技術、社会的受容性を検討する。期間は2月末までで、同市のデンソー高棚製作所で実証実験を行っている。自動車産業が集積する地域として実証実験による成果を発信し、道路交通の円滑化や安全性の向上など諸課題の解決策を模索する。
モノづくりの技術、次世代に伝える
学生向け衛星プロジェクトで設計協力
次世代の育成が社会課題となる中、学生向けの事業を積極的に支援する企業もある。
瓦向けの金型・プレス機作りで事業を興し、現在は多様な業界の試作部品を生産する石敏鉄工(碧南市)は、自社開発の超小型人工衛星向け筐体フレーム「MBF」製作でも実績を重ねる。国際科学教育協会(京都市伏見区)主催のジュニア向け衛星プロジェクトで、フレーム加工や若者に設計の助言をする役割を担う。
20年に始動した同プロジェクトは、国際科学教育協会主催のコンテストで能力を証明した小学生から大学生のメンバーで構成。主目的は人材育成だが、協会と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が進める実証実験を担う。レーザー反射装置を搭載した超小型人工衛星を宇宙へ放出して地上からレーザーを照射。反射光を検知するまでの時間を計測することで衛星軌道を高精度に把握する。
石敏鉄工は22年5月から筐体フレーム設計に参加、既に最終モデルを納入した。衛星は24年6月に宇宙へ放出する予定。レーザー反射装置を搭載させるための専用ブラケットを製作するなど、フレームへの組み付け方法に同社のノウハウを生かした。機体のカラーは学生らと相談し青色に。同社のイメージカラーとの偶然の一致に石川実良社長は「親近感が湧いた」と笑顔を見せる。
小学校に出前授業、地元企業の魅力発信
メトロ電気工業(安城市)は、11月に同市の二本木小学校で、自社が製造を手がける赤外線カーボンランプヒーター「オレンジヒート」を解説する出前授業を実施した。地元の工業について学ぶ社会科の授業の中で、同校の5年生の児童らに、オレンジヒートの開発の経緯や使われ方などについて説明した。
竹内誠企画営業室長らが、エジソンが発明した白熱電球を基にオレンジヒートが開発されたことや、オーブントースターやこたつの加熱に利用していることなどを、クイズを交えながら解説。児童らはオレンジヒートが電源を入れてからすぐに熱を発することを体感したり、パンが焼けたりする様子を目の当たりにして驚きの声を上げた。
竹内室長は出前授業について「子どもたちに『安城市にこんな企業があったんだ』と認識してもらえたらうれしい」と述べている。
非接触光学式ツールプリセッターを刷新
技術を活用し製品の開発や新分野への参入も相次いでいる。エヌティーツール(高浜市)は、10月に非接触の光学式ツールプリセッター「イーグル」を刷新した。機械の剛性を高め、締め付けトルクの上限を従来比7割増の100ニュートンメートルに向上。対応するホルダーが増えたことにより、締め付けに高いトルクが必要なミーリングチャックも機上締め付けできるようになった。消費税抜きの価格は663万円。今後1年間で30台の販売を目指す。
新モデルの「AOTP・A」は、最大測定範囲が工具直径400ミリメートル、工具長500ミリメートルまで。繰り返し取り付け精度は2マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下で、スピンドルの振れ回り精度は200ミリメートルの先端で5マイクロメートル以下。
イーグルは高い精度を持ちながら機上締め付けが可能で、作業者がクランパーとプリセッターを往復する手間をなくせる。
航空機の胴体組み立て自動化
豊電子工業(刈谷市)は、航空機の胴体部分の自動組み立てシステムを完成し、航空機関連メーカーなどが検討している自動組み立て工程の実験機用として受注した。同社が航空機業界向けに自動化システムを供給するのは初めて。今後、主翼などの主要構造体の自動化も狙う。
航空機の生産は胴体や主翼などの主要構造体の組み立てが作業者の手作業に頼ることが多い。同社は自動車部品生産などで培った自動化システムのノウハウを投入。このほどロボットや搬送システムなどで胴体パネルをつないで一体化する自動化システムを完成した。航空機関連メーカーが行う実機サイズでの組み立て作業の自動化検証で使用する。