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愛知県西三河地区産業界(2023年6月)
愛知県の中央に位置する西三河地区は、安城市、岡崎市、刈谷市、高浜市、知立市、豊田市、西尾市、碧南市、みよし市、幸田町の9市1町から成る。自動車産業を中心に幅広い分野の企業が集まり、県下随一の製造業集積地帯として優れた技術で世界のモノづくりをけん引してきた。製造業に大きな変革が訪れる中、蓄積した技術で新たな分野に取り組む企業も多い。さらに今年は徳川家康が主人公の大河ドラマが放送され、ゆかりの地である同地区は観光地としても全国から注目されている。
注目集まる製造業の一大集積地
西三河地区は完成車メーカーや部品サプライヤーなど自動車産業を中心に産業が発展してきた。愛知県内の製造品出荷額等総数の約5割を担う製造業の一大集積地だ。愛知県がまとめた最新の経済センサス活動調査(2021年確報)によると、西三河地区全体の製造品出荷額等総数は24兆8979億円。そのうち75%を占める18兆5951億円が輸送機械だ。自動車産業のメッカとして、モノづくりで産業をけん引している。
さらに今年は徳川家康が主人公の大河ドラマ「どうする家康」が放送され、観光地としても脚光を浴びる。岡崎市は家康誕生の地として知られる岡崎城や、徳川将軍家の菩提寺である大樹寺などが立ち並ぶ。ドラマの放送に合わせて1月には岡崎城周辺の岡崎公園に「大河ドラマ館」をオープンした。このほかにも家康を輩出した安城松平家の居城があった安城市、今川家との決別の後、三河統一の足がかりとなった西尾市などに家康ゆかりの史跡が残る。家康の重臣らの城址も同地区に点在しており、大河ドラマファンにとって注目のエリアだ。観光と産業の両軸から、さらなる発展を目指す。
ノウハウ生かし新分野を開拓
光学技術を応用した測定装置など
製造業の集積地として高い技術をもつ中小企業が数多く立地する同地区では、各企業が蓄積したモノづくりのノウハウを新たな分野に生かしている。
メガネレンズメーカーの東海光学(岡崎市)は、メガネレンズだけでなく光学技術を応用した多彩な製品を手がける。同社の分光透過率測定装置「TLシリーズ」は、可視光の波長範囲での繰り返し測定誤差がプラスマイナス0・5%以内。大型の据え置き型と同等の精度を実現した。作業現場での操作性を考慮し、ガラスや樹脂などの透明基材やレンズの分光透過率を、ボタンを押すだけで測れる。重量約1キログラムと持ち運び可能。実機の測定時間は2秒、色を数値化して検査、判定ができるオプションソフトの表示を含めても10秒程度と短時間のため、生産現場での評価、検査時間の削減に役立つ。
測定精度も向上し、安定した測定結果が得られ、メガネレンズや光学部品の全数測定検査にも活用できる。工程内検査に用いることで透過率仕様値の品質異常をいち早く検知することも可能だ。さらに顧客の多様なニーズに応え、測定対象に合わせた縦型タイプやサングラスなどを測定しやすい横型タイプ、背板を持たない分離型タイプなど対象基板に合わせたカスタマイズにも対応する。このほかにも培ってきた光学薄膜コーティング技術を応用し、自動車や半導体、医療分野などで使われるレーザー、センサー向けの光学部品も提供する。
難削材加工機に効率化支えるオプション追加
キラ・コーポレーション(西尾市)は、主力の小型マシニングセンター(MC)で培った技術を発展させ、難削材加工機「グラインディングセンター GCV-30」を22年11月に発売した。脆弱材料部品の微細穴加工に特化し、半導体、光学、医療機器関連に提案する。オプション機能には独自の自動化技術を多数盛り込み、人手不足に悩む製造現場を支援する。
ダイヤモンド電着砥石を用いた工具で加工する。熱変位対策で七つの温度センサーを各部位に配置して熱変位量を補正する機能のほか、リニアスケールを搭載した。
オプションの「CCD(電荷結合素子)カメラ」と専用ソフトウエアを利用すれば、タッチプローブで測定ができないわずかな寸法誤差を非接触で測定し、精度の高い加工とともに段取り時間の大幅短縮を実現。半導体製造工程に使用される静電チャックの加工事例では、高精度な計測による芯出しが可能となり、熟練者が時間をかけていた位置決め時間を大幅に短縮した。
また8月出荷分から標準搭載する新機能「KONEKT(コネクト)」により機械とPCをつなぎ数値制御(NC)画面を顧客と共有できる環境を構築。機械停止などの異常発生時、作業者と同社のサービスマンとの状況確認や操作指示がスムーズになる。所定の手続きを踏めば遠隔操作も可能。XYZ各軸の移動距離をはじめ各種データをクラウド上に蓄積、共有できる特徴を生かし、消耗品交換時期の提案など予防保全に役立てられる。
高品質シリコーン製品、米国向けに展開
大変革期において、自動車産業への依存度を下げようと自社製品の開発に取り組む中小企業も多い。工業用ゴム製品メーカーのマサル産業(安城市)は10年ほど前からBツーC(対消費者)向け製品の開発を進め、現在では全体の売り上げの40-45%を占める事業に成長させた。主力はシリコーン製メガネ用パッド「モチアガール」。5月中旬からアマゾンを通じて米国市場にも打って出た。2年で国内を上回る売り上げに成長させる。既に注文も入っているという。
同製品は14年に開発した自社製品第1弾。メガネやゴーグルの鼻あてに貼るだけでズレや痛みを抑制し、つけまつげがレンズに当たる不快感や「鼻が低くてメガネが似合わない」といった悩みも解消できると好評だ。パッドの厚みは目的により1・5ミリ-4・5ミリメートルから選択できる。形状や色などニーズに合わせてラインアップを拡充してきた。また素材にもこだわり透明度が高く柔軟なシリコーンを使用。肌への負担を軽減し、ズレにくさも追求した。パッドと粘着テープがはがれにくい特殊な加工で、製品寿命が長いのも特徴だ。6月には使用シーンに合わせたPR動画を公開し、販売をより強化している。
同社は透明マスクや飲料缶キャップなど生活に沿ったシリコーン製品を開発してきた。現在はキッチン用品の開発を進める。加藤かをり社長は「中小企業が生き残るには進むしかない。今後も積極的に挑戦していく」と意欲を見せる。
EV需要見込み、レーザー加工機導入
レーザックス(知立市)は、高出力レーザーで物理的に材料同士を接合するステーキング加工が可能なナノ秒パルスファイバーレーザー加工機を導入し、本格稼働した。化学的に接合する通常の溶接では接合が難しい種類の金属同士でも高品質な接合が可能となる。電池の端子などに用いられる銅とアルミニウムなど、電気自動車(EV)の拡大で生じる新たな需要を取り込む。
一般的なファイバーレーザーによる溶接では、特定の金属同士の接合で金属間に化合物ができ、脆くなってしまう。導入した加工機は10億分の1秒という短い照射時間で200ワットのレーザーを出力できるため、くさびを打ち込むようなアンカー効果で物理的な接合が可能。高出力なので高速加工による加工効率向上も期待できる。同加工機の導入は受託加工では珍しいという。レーザックスでは試作から受け付け、EV拡大に伴って増える異種金属接合などのニーズに応える。
自治体が脱炭素化支援
中小企業向け窓口開設
持続可能な社会の実現に向け、脱炭素化やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現は不可欠だ。特に多くのエネルギーを必要とする製造業では、クリーンエネルギーの活用や省エネ設備の導入などが求められ、中小企業にも広がりつつある。製造業の一大集積地である西三河地区の各市町村では多彩な施策で脱炭素社会の実現を支援している。
自動車産業の中心地である豊田市では、中部産業連盟と連携し取り組みを進めている。中小企業・小規模事業者向けに相談窓口を設置し、カーボンニュートラル実現に向けたロードマップ策定や補助金申請などを支援する。中小企業診断士やエネルギー管理士など、専門家によるアドバイスを3回まで無料で受けられる。同市に事業所をもつ中小企業が対象で「ものづくり創造拠点SENTAN(センタン)」での対面相談のほか、オンラインでも受け付ける。無料相談を受けた企業は、より詳しい個別のコンサルティングを受けることも可能だ。また9月にはセミナーの開催も予定する。
このほかにも、同市では3月にトヨタ自動車が開発した燃料電池(FC)オフィスカーを公用車として導入。市職員用の移動式事務所や、災害時の対策拠点として利用するなど、脱炭素化に向けて取り組みを進めている。
クリーンエネルギー活用を推進
安城市ではエネルギーのカーボンニュートラル化を進める。東邦ガスと連携し、市内の公共施設で使用する電気とガスを同市の廃棄物処理施設「環境クリーンセンター」で作られたカーボンニュートラルなエネルギーなどに切り替える。ガス・電気どちらもカーボンニュートラル化するのは県内で初の試みだという。東邦ガスによると、年間4700トンの二酸化炭素(CO2)の削減が可能。市庁舎に加え、小学校など供給範囲を順次拡大していく。
刈谷市は家庭用燃料電池システム「エネファーム」を設置した各家庭の発電量からCO2の削減量を算出し、同市がまとめて環境価値を示す「かりやカーボンニュートラルバンク」を設立した。排出されるCO2は削減できても完全になくすことは難しい。「ゼロカーボンシティ」の実現には、他の場所で削減されたCO2を使って相殺する必要がある。同市では市内で開催されるイベントなどで排出されるCO2を、エネファームで削減し埋め合わせる。エネファーム1台で削減できる量はごくわずかだが、各家庭の削減量を合わせれば十分な量になるという。
ものづくり岡崎フェア開催―製造業の技術が集結
岡崎商工会議所などが主催する「第8回ものづくり岡崎フェア」(が7月12日、13日に岡崎市の岡崎中央総合公園総合体育館で開かれる。テーマは「どうするものづくり-変革の時代を生き抜く“岡崎”の技術力」。放送中の大河ドラマのタイトルになぞらえ、大変革期における製造業の課題解決を後押しする狙いだ。
新型コロナウイルス感染症の影響で中止が続き、5年ぶりの開催となる。三つのエリアに111社・機関が出展する。「共創イノベーション(技術革新)エリア」はスタートアップ企業と研究機関に特化し、モノづくり企業との交流による新たな価値の創造を目指す。「BツーB(企業間)商談エリア」は三河地区に本社や事業所をもつ企業が出展し、独自の技術や製品を紹介する。「課題解決提案エリア」では、脱炭素化や省人化、デジタル改革(DX)など製造業の課題解決に向けたソリューションを企業が提案する。
また聴講無料の講演会も毎日開催。ホーロー鋳物鍋「バーミキュラ」の製造販売で業績を大きく伸ばした鋳物メーカー、愛知ドビー(名古屋市中川区)の土方邦裕社長による講演など、製造業の新たな取り組みを支援する内容だ。このほかにも出展者によるプレゼンテーションやポスターセッションなども開催され、モノづくり企業のこれからを考える好機となりそうだ。入場は無料で、ホームページからの事前登録が必要。