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新潟県長岡市特集 2024
新潟県長岡市は中越地域に位置する県内2位の人口を有する都市。毎年8月2~3日に開催される日本三大花火大会「長岡花火」には多くの地元製造業が協賛し、打ち上げ前に社名を読み上げられているなど、地域に対する企業の想いは熱い。市内には4つの大学と1つの高専が立地し、産学連携の動きも活発だ。2024年に市内でおきた、モノづくり産業にまつわる動向をまとめた。
長岡モデルの創造で新たな価値を創出
生ごみ・とぎ汁を肥料に産学官取り組む
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生ごみバイオガス発電センター
環境問題解決に寄与する取り組みも進化している。産学官金の54機関が参画する長岡バイオエコノミーコンソーシアムは、バイオガス発電で発生する生ごみ「発酵残渣(ざんさ)」を肥料として市内で流通させようとしている。
長岡市では2013年から生ごみバイオガス発電センターが施設民間資金を活用した社会資本整備(PFI)方式で運営されている。自治体が運営する施設としては国内最大規模の1日あたり65トンの生ごみ処理が可能だ。
従来、発酵残渣は県外に搬出していた。肥料としての効果を確認するため、コンソーシアムや長岡農業高校などが連携して実証実験を実施。従来の肥料と遜色のない効果が確認できたため、「寿メタンバイオ肥料」として発表した。
肥料として流通させることで、長岡市内での資源の循環が可能になる。まず市内の民間・事業者から生ごみを回収し、発酵させてメタンガスを製造・発電する。さらに発酵した生ごみを肥料として市内の農業で利用し、これにより生産された農産物を市内で消費する。そしてまた発生した生ごみを回収することで、生ごみというバイオマス資源を長岡市内で完全循環することができる。県外への搬出時に生じていた二酸化炭素(CO2)の削減や、市民の分別への意識向上という効果も期待できる。
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高品質で大量のコメが求められる
産学連携も進んでいる。岩塚製菓や長岡技術科学大学、肥料を製造するホーネンアグリ(新潟県長岡市)、JAえちご中越、ネオス(同)は、せんべいやおかきなど米菓の製造工程で発生するとぎ汁や研米粉、コメのもみ殻などを用いて土壌の改良に挑戦する「Nサイクルプロジェクト」に取り組んでいる。
メンバーの1社岩塚製菓は国産米100%の製品作りにこだわりを持つ。そしてその内約40%が県産米だ。一方で、23年の新潟県産米は異常気象などの影響で不作だったことは記憶に新しい。サステナブル推進準備室長の畳谷和之氏は「日本のお米がないと成り立たない。維持のための取り組みが必要だ」と危機感を募らせる。
品質が良いコメを大量に収穫するには、土地がやせることを防がなくてはならない。とぎ汁や研米粉は栄養分を多分に含んでおり、田んぼの状態を整える微生物のエサとなる。また、従来用いていた肥料の使用量を削減できるため、農家にとってはコスト削減も見込める。畳谷氏は「土地が持つ力『地力』を向上させたい。最終的には、日本全体の地力を上げられるような取り組みになれば」と展望を語る。
ミライエ長岡開業から1年半 窓口順次開設
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NaDeC BASEに産学協創センターを設置
JR長岡駅からほど近い複合施設「米百俵プレイス ミライエ長岡」の開業から1年半が経った。図書館を利用する学生からビジネス利用の大人まで来館者層は幅広い。吹き抜けのある1階にはストリートピアノが設置され、市民の楽しげな演奏や話し声がにぎわいを生み出している。段階的に窓口の開設や、県外企業の誘致が進んでおり、26年度完成予定の東館では中・高校生が集う場所や、長岡商工会議所、ハローワークプラザなどが入居する予定だ。
7月には「産学協創センター」が開設された。長岡造形大学の職員や市のアドバイザーが市内の4大学1高専との共同研究や事業化に向けた企業からの相談に応じる。企業と教育機関の交流拠点でありながら、研究や事業など、さまざまなきっかけづくりの場となることを目指す。
8月には地元企業のデジタル変革(DX)相談窓口「ながおかDXセンター」も開設した。長岡市と長岡商工会議所、日本精機グループが結んだ地域のDX推進に関する連携協定に基づいて設置され、長岡市内のIT業界の活性化を図る。
市内のIT業界団体と連携し、相談に訪れた企業に合わせてITベンダーの紹介を行う。窓口に寄せられた相談内容のうち、地域で共通の課題の場合は、市や商工会議所と情報共有される。
長岡造形大学/デジタル化対応の新棟整備
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長岡造形大学の新棟
市内の教育機関も変化を続けている。創立30周年を迎えた長岡造形大学は、学生と社会両方からの需要が高いデジタル技術を用いたデザインを柔軟に学べる体制にするため、23年に学科改組を行った。24年10月には学科改組を後押しするアトリエ棟を新設。新棟内には3次元(3D)プリンターをはじめとするデジタル機器を備えた研究室や、デジタルデザインアトリエ、映像や音声の編集室などが並ぶ。
長岡技術科学大学は多様性(ダイバーシティー)のある職場環境の実現により労働力を確保し、産業を活性化させることを目的とする「えちご・ものづくりダイバーシティ・コンソーシアム」の立ち上げを計画する。25年3月の設立に向けて県内企業や福祉関係団体、個人事業主などに幅広く参画を呼びかけている。
文部科学省は研究環境の多様性実現に取り組む機関への支援事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」を実施しており、同学はその代表機関。当初は長岡市内を対象に女性が働きやすい職場環境の実現することを目的としていたが、多様性のある環境づくりは県内全域の課題で、かつ障がい者や子育て中の人などより幅広い対象を前提に取り組むべきと考え、会員の対象を広げた。高口僚太朗学長補佐は「女性という一つの分類ではなく、インターセクショナリティ(複数のアイデンティティ)の考えに基づいた環境づくりが求められる」と説く。
コンソーシアム会員は新潟県内の工業、工学・デザイン系及び流通など関連業界の企業・団体を想定する。会員は若手社員同士の研修・交流の場やダイバーシティーをテーマに年に1度開催するシンポジウムや総会に参加できる。