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日本電気制御機器工業会60周年
日本電気制御機器工業会(NECA)は2024年に設立60周年を迎え、長期戦略「将来ビジョン2030」を構築し、新しい目標に向かって動きだした。山本清博会長(アズビル社長)に、NECAの将来ビジョンについて話を聞いた。
制御技術で豊かな社会づくりを実現
環境の激変に的確な対応
―最初に中期戦略の現状と環境変化について伺います。
「NECAでは11年から3Sと称して『標準化(Standardization)』『安全(Safety)』『環境(Sustainable Society)』を軸とした活動をしてきました。17年にはモノづくりの将来像『5ZEROマニュファクチャリング』を提唱し、日本の産業の変化に対応して実行してきました。いずれも高い理想に向けて進めてきました」
―お好きな登山に例えると、中期戦略の進捗(しんちょく)は、何合目くらいでしょうか。
「本格的ではなく『なんちゃって』登山家ですが、キリマンジャロには登頂経験があります。掲げたときの目標からするとかなり良い所までは来ていると思います。環境変化が激しいので山が高くなった、到達点が遠くなったと言うより、従来と違う手法やルートが必要になったのが現状です。目指すべき頂が変わってきたという認識です。世の中全体が変わってきたので、どのように対応していくべきかの検討を重ねてきました」
「具体的には、四つです。まず一番大きな観点は『人』に関する部分です。人口減少に伴う競争の激化、〝モノ〟から〝コト〟、デジタル化へのシフトなど、人材確保と育成に関しては、製造業全般に関わる大きな課題です。次にモノづくりにおける不確実性の増大です。新型コロナウイルス感染症(COVID―19)以降、サプライチェーン(供給網)は混乱し最適な調達が難しくなっています。それから製造関連技術の進化です。生成人工知能(AI)をいかに製造業に応用するかで大きな変動が起きると思います。最後は社会課題に対してどのように対峙(たいじ)していくかの観点です。NECAの特徴であり、主要メンバーでもある中小企業の方々の声をちゃんと聞いて、変革を図ります」
「機器」を外す大胆な決断
―新将来ビジョンを教えて下さい。
「今回は工業会の『ミッション』『ビジョン』『バリュー』を改めて再定義しました。まずミッションを『制御技術の進歩と産業の持続的成長に貢献し、社会の課題に応じて提供価値を拡大することで豊かな社会づくりを実現する』としました。電気制御機器から、あえて『機器』を外しました。大きな環境変化への対応やモノからコトへのシフトを考えると、それを実現するのは機器だけではありません」
「『制御技術』はものすごく幅が広いものです。電気制御機器とハードウエアに限定すると、人材の面やお客さまからの期待値に対して自ら活動範囲を狭めてしまうことになる。そのような議論の結果、『機器』を外そうという大胆な結論に至っています。ここに、工業会としての大きな思いがあります」
―大きな決断です。
「ビジョンは『新たな価値を創造し、誰もがいきいきと活躍できる持続可能な産業・社会に貢献する』と設定しました。さきほどご説明した工業会としてのミッションを実現するべく、30年を達成時期として設定し、『People(人材開発・人材獲得)』『Productivity(生産性向上)』、『Perspective(視点転換)』『Partnership(共創)』の四つの〝P〟からなる新たな価値の提供拡大を目指していきます」
「Peopleの人材開発、人材獲得は課題も重要性も拡大していきますので、こだわって取り組んでいきます。Productivityは単純に生産性を上げていくだけでなく、付加価値を上げていくことを意図します。Perspectiveの視点転換は、世の中変わって行っているので、固定観念にとらわれず柔軟にやっていこうということ。Partnershipの実現のためには、これまでの枠を大きく広げた共創が必須だと考えます」
4つの「P」で新たな価値創造
―今後のNECAのポジションを、どうお考えでしょうか。
「数十年後もオフィスがあり工場があり、家があり、モビリティーなどの物理的な面は残る。モノづくりの重要性は変わらないが、モノは間違いなく減っていく。需要以上のモノを作り廃棄する世界から、本当に必要なものしか作らなくなれば、豊かな社会になる。皆で競争し合うのではなく、共創し役割分担する世界になる。その世界で『制御技術』は、とてもよいポジションにある。モノを有機的につなげるためには必須の技術であり、世の中を最適にするには重要なテクノロジーです」
「こうしたことから、NECAの重要性は高まっていくと考えます。制御技術にこだわり、工業会としてできることを広げていきます。会員企業としてもソフトウエア会社やサービスを提供する会社、アルゴリズムを開発する会社などにも参画いただければ、既存会員との相乗効果で新たなことをやれると考えています」
―これからも夢が膨らみます。
「四つの〝P〟を組み合わせて、工業会として豊かな社会づくりに貢献していきたい。製品が世の中でどのように貢献しているかが実感でき、より個別のニーズに合った、今まで気付かなかった新たな付加価値を提案できる世界を実現したい。現状の生成AIのように、制御技術も次々と新たな可能性を増やすことができる。社会課題も大きく変わっていくことが予測できるが、解けていない課題に答えを導くことが、新たな価値だと思います」
新たな山の頂に共創拡大で到達
―新たな山の頂に向けて一歩を歩みだしました。
「キリマンジャロ登頂に成功してから、打ち立てた目標を達成できる気持ちが強くなっています。『将来ビジョン2030』で実現する新たな山の頂への道のりはまだ見通せませんが、新たな価値、新たな頂に向かっていきたい。四つの〝P〟は現在の世の中においても普遍的な内容だと思いますし、私自身もすごくよい表現だと思っています。どれか一つが欠けてもいけないし、中小の会員企業の方も参画されて策定しているので、共感いただける方々を増やして行きたい。モノづくり企業を発展させ、豊かな社会づくりを実現したいと考えます」