-
業種・地域から探す
産業協創で新たなステージへ
新潟県長岡市長・磯田達伸 氏 /長岡版イノベは産業協創の推進で新段階へ
わが国の産業界は現在、深刻な人材不足やデジタル化への対応、生産性向上といった多くの課題を抱えています。これは新潟県長岡市においても例外ではなく、解決に向けたデジタル変革(DX)や新技術導入による業務率化に加え、新たな雇用人材の確保・育成が求められています。
市はこの状況を産業振興に向けた好機と捉え、モノづくり企業が集積する強みと、市内4大学1高等専門学校(高専)の知識と人材を活かし、新たな発想や先端技術により市民生活向上と産業活性化を図る「長岡版イノベーション(技術革新)」を推進。長岡産業活性化協会NAZEとの連携や産学官の「イノベーション・ハブ」の活動により、市内製造業、介護、小売業などさまざまな産業分野におけるデジタル化を進めてきました。
ほかにも、若者のキャリアーアップを後押しするインターンシップ(就業体験)、市内で暮らしながら首都圏企業にリモートワークで勤めるワークスタイル「NAGAOKA WORKER」、モンゴル高専生によるインターンシップ、ベトナムの大学生の市内製造業への受け入れを進めたほか、10月には介護、IT(情報通信)、観光分野の専門人材受け入れに向け、官民視察団によるキルギス訪問を実施しました。
「長岡版イノベーション」のさらなる推進に向け、市は、多様な人材の交流による、地域産業を次世代につなげるための新しい価値創造の取り組みを「産業協創」と名付け、その拠点となる「米百俵プレイス ミライエ長岡」西館を7月にオープン。11月には産業技術総合研究所と長岡技術科学大学および本市との連携により、バイオ関連の研究開発・企業支援を目的としたBIL(ブリッジ・イノベーション・ラボラトリ)が同施設内に開設するなど、新しい取り組みが着々と進んでいます。
今後は、大学や産業界との交流・連携による新産業の創出や学生・若者の起業創業の支援、起業家精神あふれる担い手の育成に加え、新技術の研究・製品開発および産業支援に関する情報発信など「産業協創」の実現に向けたさまざまな施策をミライエ長岡を核に展開してまいります。
NPO法人長岡産業活性化協会NAZE会長・大井尚敏氏(オオイ社長)/デジタル活用でモノづくりの人手不足克服
新潟県の中央部に位置する長岡地域の製造業は、明治時代の東山油田の削掘技術に端を発し、鉄鋼や鋳物をはじめ、近年では、電子・精密機器など多様な業種が集積しており、設計図が1枚あれば何でも作れるモノづくりのエコシステム(生態系)があることが強みです。
NAZE(ナゼ)は、こうした製造業の集積を生かす形で2005年4月に発足しました。今では製造業をはじめ、市内4大学1高等専門学校(高専)、地元金融機関などからなる106の会員が有機的に結びつき、教育機関の研究成果を活用した産学連携事業や、さまざまな要素技術を持つ企業同士の結びつきによる新たな価値の創造にチャレンジしているところです。
その一方、新潟県長岡市は毎年2000人以上の人口が減っており、製造業においても、深刻な労働力不足が大きな問題となっています。こうした中、NAZEは、市と共同で、製造業のデジタル化やロボットの導入支援、外国人材の活用による人材不足対策に取り組んでいます。
デジタル化支援事業では、単なるデジタル化ではなく、企業の“お困りごと”を解決しながらデジタルツール(道具)をアジャイル開発(小規模開発を繰り返す方法)するとともに、開設した「NAZE学園」で、デジタル技術を活用して改善活動を行える人材育成も行っています。
また、「長岡ロボットイノベーションハブ」の取り組みでは、ロボット導入支援やロボットを活用する人材の育成を行い、モノづくり現場の省人力化を支援しています。
外国人材活用事業としては、モンゴル国内の三つの高専の支援校でもある長岡高専と連携し、モンゴル高専生のデジタル変革 (DX)教育を行いながら、実際に市内企業で働いてもらうインターンシップ(就業体験)を実施します。
NAZEは今後も、こうした伴走型によるデジタル化支援やデジタルツールを活用した改善活動を行える人材の育成、外国人材を活用する事業を市の施策と一緒になって進めます、深刻な人手不足を克服し、長岡モデルで新たな価値を創出してまいりたいと考えています。
付加価値額県内2位は機械系が貢献―2021年経済センサス
新潟県長岡市内の経済は、モノづくり企業が牽引している。国がまとめた「2021年経済センサス」によると、県全体の付加価値額が1兆8533億円のところ、同市は2445億円だった。県内構成比では13・2%を占め、県内では、県庁所在地の新潟市に次ぐ2位の規模だ。長岡市の付加価値額を産業別でみると、上位から順に生産用機械器具製造業19・8%、業務用機械器具製造業19・0%、食品製造業15・4%となる。
付加価値額とは、企業の生産活動で新たに生み出された価値のこと。県内1位は本州日本海側で唯一の政令指定都市でもある新潟市の4075億円だが、同市の産業別構成比は食品製造業31・2%、化学工業19・6%、金属製品製造業10・4%の順に多い。
県内は信濃川が運ぶ肥沃な土壌や寒暖差のある広大な平野に恵まれ、作付面積も収穫量も国内最大のコメどころ。一方で原油の国内生産6割と天然ガスで同7割を握るなど、こちらも国内首位だ。中でも明治時代に石油掘削で発展した長岡地域は、食品製造業が牽引する県全体の傾向とは違う顔を持つ。
長岡市の人口は12月時点で25万8000人。市内には地元産業界を支える高等教育機関が複数存在する。大学だけでも、長岡技術科学大学、長岡造形大学、長岡大学、長岡崇徳大学の四つ。さらに長岡工業高等専門学校(高専)も立地。距離の近さや研究環境などにより、長岡高専から長岡技科大に進学する学生も多い。長岡高専のウェブサイトによると、過去5年間平均で卒業生の24・6%が長岡技科大に進むという。
近年は長岡市に限らず、日本全体で労働人口の減少が進んでいる。機械の設計や組み立てを得意とする企業では、制御高精度化や付加価値向上を狙い、画像認識や人工知能(AI)など最新のデジタル技術を活用。省人化需要を狙い、ソフトウエアが得意な新興企業と老舗企業の協業もじわりと増えているようだ。