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カーボンニュートラル社会を支える 高効率モーター
温室効果ガス排出削減をさまざまなアプローチで行う「脱炭素経営」があらゆる産業で求められている。エネルギー利用のあり方を抜本的に見直すうえで、特に産業機械や装置の動力源となるモーターの消費電力は、世界の消費電力の半分を占めるほど大きく、その効率化が課題となっている。ここに大きく切り込むため、従来以上に低損失を徹底的に追求したモーターとインバータ制御の導入拡大が急がれている。
産業機器 IE5搭載を推進
モーターの効率レベルは国際電気標準会議(IEC)で規定されており、世界各国で普及する製品を決める効率規制が行われている。現在、日本では2015年4月に開始した規制の「IE3」レベル(プレミアム効率)の普及が進む。各産業分野で省エネ製品の普及促進を目的とした「トップランナー制度」に産業用モーターを加える形で導入されたもので、IE3より効率レベルランクが低い「IE1」や「IE2」からの置き換えが徐々に進んでいる。
ウルトラプレミアム 「IE5」一段の省エネ
こうした中で、主要モーターメーカーはさらに、2段階上となる〝ウルトラプレミアム効率〟と呼ばれる「IE5」規格モーターや専用インバーターの組み合わせ制御による、一層の省エネを追求した提案を活発化している。
IE5レベルでは、モーターの構成部品であるローター(回転子)がステーター(固定子)の回転磁界と同期する「同期モーター」が多く採用されている(図)。ローターに強磁性の鉄心を使用する「リラクタンス形」、強力なネオジム磁石を用いる「永久磁石形」などがあり、各社がラインアップを強化している(写真)。
モーターはその多くがポンプや送風機(ファン)、圧縮機など各種産業機器に組み込まれて使われている。
モーターユーザー側となるセットメーカーやその先のユーザー層へ向けて、高効率化・高付加価値を広く提案していくことが盛んになっている。
撹拌機メーカーの阪和化工機(大阪市東淀川区)は、自社の攪拌機ラインアップに、IE5モーターを搭載すべく試験を重ねている。
ABB製のIE5を搭載予定で、「一部機種では、IE3からの置き換えをして取り付けた長期間の稼働試験がクリアした。今後は他機種でも広げていきたい」(町井秀一郎専務)と力を入れる。
撹拌機のユーザー層は化学、食品、鉄鋼、水処理など幅広い。特に「月に数千万円と電気代がかかるようなプラントをもつ企業は環境意識が高い」(同)。2025年はIE5搭載シリーズの専用サイトの制作など行い、世界潮流である高機能省エネ型機種について、本格的に採用を呼びかけていく方針だ。
省エネトレンドー日本でつくる
日本だけでも産業用モーターは1億台が稼働していると言われ、実際に電気代を負担するモーター搭載機器の最終ユーザーに至るまでには、産業界のさまざまなサプライチェーンが関わる。
このため、高効率なモーターへの置き換えはサプライチェーン上の多様な層に理解が求められる。モーターメーカーの関係者は「時間はかかるが、粘り強く省エネ効果を説明しアプローチしていく」「世界に供給する有力なモーターメーカーが複数ある日本市場こそ、高効率モーターを率先して採用していくようなトレンドをつくっていかなければならない」と強調する。
IE5/世界の電力10%減
新たな技術紹介/能率協会セミナー
「IE5など高効率モーターへの置き換えで、世界の電力消費量が最大10%削減可能になる」ー。11日にAP浜松町(東京都港区)で日本能率協会主催により行われたセミナー「TECHNOーFRONTIER HEROES」では、最先端パワエレ技術とともに、高効率モーターの必要性が訴求された。
百目鬼英雄東京都市大学名誉教授による産業用モーターの変遷解説に続き、ABBモーション事業本部IECLVモータ&NEMAモータ事業部の高橋優介事業部長は、世界のプラントやデータセンターなどでのIE5採用事例を紹介。誘導電動機でもIE5レベルの開発が進んでおり、「2025年にはアナウンスできるのではないか」とした。
またモーターの製造から使用・廃棄までのサプライチェーン上でのライフサイクルアセスメント(LCA)をサポートしていくため、第三者認定によるCO2排出量算定の取り組みを進めていることを発表した。
TMEIC回転機システム事業部の酒井浩商品企画プロジェクト室副室長は、大規模設備や船舶用電気推進装置などで適用可能な同期リラクタンスモーターなどを紹介。性能の決め手になるローターの形状の設計に人工知能(AI)技術を活用しており、ニーズに合わせた最適設計ができると紹介した。