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宮崎県えびの市
宮崎県えびの市が、物流業の誘致で存在感を見せている。宮崎県の最西部にあり、熊本と鹿児島両県と接するなど南九州の中央部に位置する。市内で3方向に分岐する高速道の利便性も生かし、市が造成した「えびのインター産業団地」を吸引力とする。「物流の2024年問題」の対応を背景に、サプライチェーン(供給網)を全国から引き寄せる。
南九州から 日本の物流を変革
えびのインター産業団地 地の利を生かし誘致強化
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モーダルシフトを活用した、首都圏・関西圏を直接結ぶ物流実証
えびの市が分譲中の「えびのインター産業団地」で、物流企業の動きが活発化している。ドライバーの時間外労働の上限規制が適用される「物流の2024年問題」に対応し、迅速な物流網を維持する狙いが背景にある。
同団地には24年、マルゼングループ協同組合(福岡県久留米市)が賃貸型物流センターを開設した。医療機器、園芸・農業用品、菓子の商社が入居する。マルゼングループ系は隣接する2区画を追加取得し、冷凍冷蔵倉庫を新設するなど積極的な投資を続ける。
同市はこれまでも交通の要衝と位置づけられ、製造業や物流業が拠点を置いてきた。市内を貫く九州自動車道は、北側で福岡・熊本、南側で鹿児島とつながる。市内で九州道から分岐する宮崎道では宮崎市内とつながる。
近年は災害対応の面からも注目される。南海トラフ地震に対して津波被害の想定はなく、県内の後方支援拠点にもなる。市内に駐屯する陸上自衛隊との連携も強く、事業継続計画(BCP)の観点からも利点がある。
市による進出の後押しも大きい。労働力確保では1人最大40万円の助成金を従業員に直接給付する。労働力人口は近隣6市町を含めて約7万人。市が進出企業の説明会を開いたところ40人の枠に約200人が参加した。
立地企業への雇用促進助成金は最大1000万円で、用地取得や工場建設にかかる優遇制度もある。テナント型物流施設を設ける事業者も優遇対象だ。
宮崎県も九州で最高額となる限度額50億円の立地促進補助金を用意し、地域を挙げて進出をサポートする。
【対談】 専門家が見る えびの市の強み
神戸大学大学院フェロー えびの市物流アドバイザー 荒木 協和 氏 × 村岡 隆明 市長/メーカー、卸、小売 一気通貫の集積に期待
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えびのインター産業団地 立地企業
荒木 「えびのインター産業団地」への進出企業には卸売業が多いです。南九州の販売店への納入に価値を感じているのでしょう。2025年10月から“国土交通省のモーダルシフト推進事業”で、本州から南九州のえびのインター産業団地までのフェリー輸送実証実験を行います。国交省でも関心が高まっていると感じます。
市長 卸の皆さんに話を聞くと、「自ら倉庫をつくってまでは難しいが、大きな賃貸倉庫ができると進出しやすい」と聞いています。ニーズはまだあると思います。
荒木 メーカーも進出すると良いですね。雇用面はもちろん、物流事業者の仕事が増えて物流効率も高まります。通過型の物流より、現地で製造することで安心感も出ます。
市長 市としても多様な職場をつくりたいとの思いがあります。物流の強みも、さらに生かせるはずです。
荒木 食品系の温度帯管理ができる倉庫、またスプレーのような危険物を扱える特殊倉庫の要望が強いです。
市長 立地企業が冷凍冷蔵倉庫を建設中です。物流企業と荷主のニーズを市内でマッチングさせたいです。
荒木 補助金も豊富ですね。メーカーと卸、小売の物流センターが近隣で連携できると無駄がなくなります。南九州の卸売業が集まるだけでもメーカーは納入が楽になります。
市長 地価も福岡に比べて安いです。
荒木 そうすると福岡方面に物を運ぶ考えも出てきます。福岡からの帰り荷を、南九州で製造することは魅力的です。日用雑貨や食品系の卸売業が進出すると、すごい卸団地になります。九州には半導体や自動車の関連工場もあるため、部品の工場や倉庫があると利便性が高くなります。
市長 気付きが多くありました。今後もしっかり発信していきたいと思います。
「なぜ、えびの?」 立地企業に聞く
welzo 金尾 佳文 社長/南九州全域を補完 市の支援で人材確保
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welzo 金尾 佳文 社長
welzo(ウェルゾ)は、九州を地盤に園芸・農業関連などの資材を扱う商社です。特に園芸関連商品の取り扱い点数は4万点以上です。創業100年を超える企業でもあり、国内有数の流通業者との自負があります。
えびの市には24年に物流拠点を新設しました。当社の基盤は九州に深く根付いています。顧客であるホームセンターなどに向け、九州全域で細やかなサービスを提供するために南九州への進出を決めました。
地図を見ても明らかなように、九州自動車道が市内で分岐するなど、えびの市は南九州全域を補完できる最適な場所です。災害への強さも持っています。ここに物流拠点を置けることは願ったり叶ったりと言えます。同市への立地に迷いはありませんでした。
他方、人材採用には心配も少しありました。しかし、市が会社説明会を開いてくれるなど多大なサポートもあり、十分な人手を確保できています。
今後は物流網の構築に留まらず、えびの市の広大な土地や農業資産を活用した事業にも挑戦したいです。当社と大学で研究した知見を生かし、えびの発のスマート農業や特産物も創出できればいいなと思います。市内企業との共創にも期待しています。
マルゼングループ協同組合 古賀 大輔 代表理事/2024年問題に対応 国内物流を最適化
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マルゼングループ協同組合 古賀 大輔 代表理事
丸善グループは福岡県久留米市で創業し、運送と倉庫、観光、建設の4事業を柱とします。運送事業で一般貨物、生鮮食品などを九州から全国に届けるほか、全国で倉庫事業を手がけています。
その中で物流の「2024年問題」への対応が求められました。九州における物流の最適化を考えて、「えびのインター産業団地」にハブ拠点となる「えびの物流センター」の進出を決めました。
九州を北、中、南の3地域に分けた時、南北で往来する物流量には偏りがあります。そうした不均衡の解消につなげる狙いです。
物流センターの運営開始から1年たち、課題はあったとはいえ、進出して良かったと感じています。
既存顧客に向けてはもちろん、新たな顧客にも多様なアプローチができるようになりました。さまざまな協力会社の車両も含めて、南九州から九州内、関東、関西、その他の遠隔地までを含めた物流をプランニングできます。
当社グループでは現在、隣接地を取得し、冷凍冷蔵機能を擁する施設と常温の施設の2棟を計画中です。南九州から全国の物流を再編するという気概を持って、当社の機動力と市の力を合わせて良い形で展開していきたいです。
対談、インタビューのロングバージョンは「えびの市広報」公式YouTubeチャンネルで公開します
