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南東京特集
南東京発 ビジネスに役立つ製品・取り組み
南東京のモノづくり企業と、それを支える地域金融機関を紹介する。AKICOはタンザニアの社会課題の解決に向けた装置を開発し、巴工業は主力の遠心分離機でインド市場に乗り出した。日東工器は製造業の人手不足や効率化の課題を解消する製品に力を入れる。一方、金融機関では横浜銀行、東日本銀行が事業承継や創業期の支援を本格化している。
AKICO/ディーゼル発電に米ぬか CO2膨張液体技術で新装置
AKICO (東京都大田区、宮本栄治社長)は静岡大学の佐古猛特任教授と、米ぬかの抽出油をディーゼル発電用燃料にする装置を開発した。約2時間で50キログラムの米ぬかから12キログラムの燃料油を抽出する。超臨界二酸化炭素(CO2)より低い圧力の領域である、 二酸化炭素膨張液体の技術を使う。同規模の大きさの装置は世界初という。今秋にも電化率の向上が社会課題のタンザニアに設置する。
米ぬかから不純物の少ない燃料油を従来法よりも高収率で抽出する。科学技術振興機構(JST)の地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の取り組み。タンザニアのダルエスサラーム大学に装置を置き、同大と静岡大学が共同でディーゼル発電やマイクログリッドによる農村地帯への電力供給に向けた研究をする。
コメの消費量が多いタンザニアは電化率の向上のほか、精米時に排出される米ぬかの後処理が環境面の課題という。
開発した装置は米ぬかを有効利用するもので、圧縮したCO2と有機溶媒を混合した二酸化炭素膨張液体を使う。 米ぬかから不純物の少ない燃料油を従来法よりも高収率で抽出するという。
装置の核となる、二酸化炭素膨張液体と油から油を分離する「気液分離装置」に、AKICOの独自技術を生かした。油を抽出した後の米ぬかは、養殖の魚の飼料などに有効活用する。
現時点で実用化にはコスト面の課題があり、「今回の装置を実用化に向けた技術発展のきっかけにしたい」 (相沢政宏会長)としている。
AKICOは1969年に設立。研究用の高温・高圧化学装置の製造・販売を主力事業にしている。
巴工業/インド市場を本格開拓 遠心分離機を拡販
巴工業はインド市場の本格開拓に乗り出す。将来的な遠心分離機の拡販に向けて情報収取を行い、現地法人化も視野に入れる。遠心分離機は市場の拡大が見込める樹脂の製造用途を中心に開拓する。2030年までに20台超の販売を目指す。
インド事業を海外の最大の柱に育成する。また、現地を足がかりに、長期的にアフリカ市場への参入を視野に入れる。これらを踏まえ、24年9月にチェンナイに駐在事務所を設け、市場調査を開始した。
インドでの遠心分離機販売は石油化学産業を主にする。中でもポリ塩化ビニール(PVC) 原料の製造工程への導入に力を入れる。同社によると、PVC原料の現地需要は年間486万トンあり、30年には同725万トンに拡大する。現在は同約300万トンを輸入しているという。「メイク・イン・インディア」の産業振興政策の中、現地生産の拡大を織り込む。
同100万トンの生産に遠心分離機が10台必要となる計算。30年に20―30台を販売する考えだ。装置販売に合わせて収益性の高い保守・修理にも取り組む。一方、競合の欧州メーカーが現地に進出済みだ。
巴工業は25年10月までの中期経営計画で、海外事業の拡大を進めている。遠心分離機の機械事業は中国、東南アジアなどで販路を開拓してきた。
24年10月期の機械事業の売上高は前期比7・2%増の139億円、うち海外が約4割を占める見通しだ。営業利益は同37・5%増の11億円。また、同期の連結業績予想は売上高、営業利益、経常利益が過去最高を更新する。
日東工器 /迅速流体継手 複数配管を一度に接続 機械式ロックで省スペース
流体継手国内大手の日東工器は、「マルチカプラMALCシリーズ(写真)」の商品構成を拡充してきた。マルチカプラは1枚のプレートに複数の配管口があり、一度の作業ですべての配管を接続できる。配管を1個ずつつなげるよりも効率的で接続時のミスを防げ、省人化も図れる。
MALCは、製品の競争優位点から名付けられた。複数配管を意味する「M」 、接続した状態から分離する際に液だれしないことを表す「AL」、直径2ミリメートルのズレでも接続できる大きな同軸を意味する「LC」だ。
商品構成を鉄からステンレスなどに広げ、取り付け方法をネジやフランジに対応させてきた。さらに寸法も大小の種類を増やした。
最新型のマルチカプラ用オートクランプユニットは接続状態を保持するロック機構を内蔵する。
工作機械ではクーラント液、作動油、エアや真空など様々な流体を使用するが、マルチカプラの接続状態を保持するのに油圧シリンダーユニットを使用するとユニット分のスペースが必要になり、現実的ではない。
マルチカプラ用オートクランプユニットを使用すれば、大がかりな外付け装置が不要となり、結果、搭載する工作機械の小型化が図れる。
マルチカプラの最大の特徴は一度に複数の配管を接続できることだ。人手不足の中で作業の効率化がこれよりも増して求められ、また作業者の熟練度にもばらつきが出やすい。こうした課題の対策として期待される。
11月5―10日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれる日本国際工作機械見本市「JIMTOF」に出品する予定だ。
横浜銀行/ファンド通じ事業承継・成長支援
横浜銀行はコンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)として掲げるビジョン『地域に根ざし、ともに歩む存在として選ばれるソリューション・カンパニー』実現に向け、ファンドを通じた地域企業の事業承継・成長支援を本格化している。横浜銀行グループの投資専門子会社である、横浜キャピタルと連携したハンズオン(伴走型)支援で地域の営みを支えるスタンスだ。
横浜銀行と横浜キャピタルは2023年3月、投資ファンド「Yokohama Next投資事業有限責任組合(Yokohama Nextファンド) 」を共同で設立。横浜銀行の営業エリア内に主要な事業拠点を持つ中小企業やスタートアップを投資対象としたYokohama Nextファンドは総額60億円で設立したが、当初の想定以上のペースで投資実行が進んだため24年9月初め、後継ファンドを立ち上げた。
これまでの投資実績について、横浜銀行営業戦略部法人戦略企画グループの松下史幸リーダーは「スタートアップと中小企業の事業承継支援がほぼ半々」と話す。多くの中小企業が直面する後継者難が実績に反映された格好だ。
新たに設立したのは「Yokohama Growth1号ファンド」と「Yokohama Next2号ファンド」 。前者はスタートアップの成長を支援するVCファンド、後者は事業承継が課題となった中小企業に投資して再生を図るバイアウトファンドだ。それぞれファンド総額は30億円と50億円。
エクイティニーズの高まりと実態を踏まえ、後継ファンドは投資対象を明確に分けた。「スタートアップと事業承継支援のノウハウが積み上がりつつある」(松下リーダー)と、 地域企業の多様化・高度化するニーズに応えていく姿勢だ。
東日本銀行 /近距離モビリティー新興「WHILL」の成長戦略を支える
東日本銀行は創業支援を強化している。有名新興企業との取引では、 WHILL(ウィル、東京都品川区、杉江理社長)への支援が好例だ。蒲田支店(東京都大田区)と本部が連携して支援する。
ウィルは、2012年に創業した「近距離モビリティー」の新興企業だ。既存の電動車いすやシニアカーとは、意匠性、機能、デジタル融合のサービスなどで一線を画す。
創業から一貫して近距離移動の領域で事業をし、最量販の製品を持つ。すでに世界約30カ国・地域に販売網を整えた。
8月には、機体の貸し出し手続きから決済までを完結するスマホアプリ「ウィルレンタル」を開発した。利用者は商業施設やテーマパークなどにある機体を、人を介さず無人で借りられる。機体を保有する施設の管理者は、貸し出し履歴や機体の状態、走行ルートを遠隔で確認でき、運用の手間を減らす利点がある。
これを一例にハードウエアとデジタルを組み合わせたサービスを拡充していく。デジタル領域に開発者の半数以上を配置。継続的に新しい製品・サービを開発したり、更新したりするための資金は、当然、競争優位の源泉だ。こうした資金需要から、東日本銀行は同社に初めて、運転資金を融資することになった。
東日本銀は、24年度までの現中期経営計画で、創業時を含む企業のライフサイクル全体にわたる支援を強化している。 「中小企業のトータルパートナー」を標榜し、「創業期・成長期を伴走支援し、顧客と一緒に成長するサイクルを確立する」 (同行)との姿勢だ。具体策として、商工中金との「スタートアップ支援業務における連携・協力に関する覚書」の締結や、日本政策金融公庫との「業務連携・協力に関する覚書」の締結がある。これらを活用して、 創業支援・スタートアップ支援をはじめとした資金調達支援や協調融資をおこない、これまで50 件以上の実績を上げている。
大田区、品川区など南東京エリアは行政が創業支援に力を入れており、東日本銀の施策と合致する。地域特性を生かし、蒲田支店をはじめとした営業店と本部が連携しながら、「南東京での創業支援に積極的に取り組む」 (同)方針だ。