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公共交通の再構築で持続可能な都市実現
脱炭素と人口減少に対応
車社会の転換
南大阪地域は国際空港を擁し、大都市圏の周縁に位置するが、高速道路や新幹線を柱とする国土軸からは距離がある。高度経済成長期に湾岸部に集積した重化学工業は、脱炭素社会への転換が突きつけられており、内陸部に開発し、労働力を支えた大規模ニュータウンは老朽化が進む。人口流出と高齢化への対策が喫緊の課題だ。
製品・半製品輸送の幹線道路網が整備されたことで自動車移動を前提としたまちづくりが進み、公共交通は利用が減少。高齢化に伴い、負の面が顕在化している。南河内地域では、乗り合いバスの運行を担っていた民間事業者が撤退。人手不足は深刻で、人口集中地区でも路線の維持は難しくなってきた。
都心で交流創出
地域再生を狙い、中心市街地ににぎわいを取り戻す―。郊外への大規模商業施設立地で、商店街がシャッター通り化する現象は、全国各地で何十年も前から深刻な社会課題となってきた。都心回帰を実現する前提は交流の創出にある。まちなかに出かけたい、集いたい、と思われるような魅力を生み出せるかが最大の解決策となる。
出かける目的となる施設やイベントの創出だけでなく、都心エリアが歩いて楽しい空間であれば人流が生まれる。徒歩の移動と親和性が高いスローモビリティーやシェアサイクルなどと組み合わせることができれば、回遊範囲も広がる。その上で今後の人手不足に対応する、郊外から都心への公共交通再構築が欠かせない。新規のインフラ整備はハードルが高く、既存交通を組み合わせて有効活用できるかがポイントだ。
MaaSがカギ
異なる輸送モードを組み合わせて移動を快適、スムーズにする統合型移動サービス(MaaS)が課題解決のカギを握る。ただMaaSにはモバイル端末が欠かせないため、導入初期においてスマートフォンを使いこなさない高齢者への配慮は必須だ。ニュータウンにおけるデマンド交通普及の障壁となる。
次世代システム導入に賛否
〝東西交通〟が課題
南大阪の海側、泉州地域は南北に貫く鉄軌道が充実しており、特に南海電鉄・南海本線とJR西日本・阪和線それぞれ沿線に市街地が発展した。一方で並行する両路線を結び、市街を東西に横断する移動は路線バスがメーン。堺市では南海・堺東駅と堺駅を結ぶ大小路筋の公共交通を巡る〝東西交通〟が積年の課題だ。現在はシャトルバスが運行されており、ひときわ目を引く金色の車体は、メーンストリートのシンボルとして定着している。
かつて次世代型路面電車(LRT)の導入が検討されたが、現在は永藤英機市長肝いりで電気自動車(EV)自動運転バスによる次世代都市交通システム(ART)の構想が進められている。軌道を敷かずとも、LRT同等の乗り心地や乗降性を実現できるという。
構想推進を決定
SMI(堺・モビリティー・イノベーション)都心ラインとして24年度、実証試験を予定するが、計画の不明瞭な説明に対して再考や反対の意見は根強い。当初予算を審議した市議会でも、関連予算を取り除いた修正案をいったん可決。しかし「堺の成長には必要な取り組み」(永藤市長)であるとして市長による事実上の拒否権「再議」を行使。結果的に、市提出の原案通りに予算が通り、事業の推進が決まった。
30年に完全自動運転を計画
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SMI都心ライン自動運転バス実証実験(22年9月)
LRT待望論も
それでも市民からは阪堺電気軌道の路面電車・阪堺線と相互に乗り入れるLRT実現を望む声が消えない。LRT導入によるトランジットモール(歩車共存空間)化には、荷下ろしへの影響を嫌う事業者の反対が根強い。
ARTであっても路上駐車する物流車両には何かしらの対応が必要だ。堺市はART要件の一つにバス停「ARTステーション」への低床バスの正着制御を挙げている。乗降エリアに段差や隙間なく停車することでバリアフリー化を実現し、30年には、自動運転レベル4(特定条件下における完全自動運転)を計画する。横移動できる車両でない限り、ステーション前後に駐停車禁止ゾーンは必須。今後、共同荷さばき場の整備などセミ・トランジットモール化の議論は避けて通れない。
CaaSに進化
SMI都心ラインの計画は、堺に新しい公共交通を導入するにとどまらない。モバイル端末が普及し、公共交通の移動利便性が向上すれば個人の生活スタイルが柔軟になるとともに、行政サービスも一層の効率化を図れる。モバイル端末を通じて、市民に防災や健康・福祉など都市サービスをまるごと提供するシティー・アズ・ア・サービス(CaaS)に進化。ビジネス基盤とともに持続可能な都市へのイノベーションを実現する狙いだ。